自動車がもたらす環境破壊 電気自動車に替えても気候変動問題は解決しない

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 自動車(ガソリン車やディーゼル車)の排ガスには、一酸化炭素、炭化水素、窒素化合物、粒子状物質、二酸化炭素等の有害物質が含まれ、それによって人々の間に深刻な健康被害が発生しているということはよく知られています。世界保健機関(WHO)は、世界で一年間に約700万人が大気汚染で死亡しているとみられると発表していますが、石炭火力発電所などとともに自動車の排ガスがその恐ろしい大気汚染の主な原因であると考えられます。
 また、大気汚染以外にも自動車は様々な形で環境を汚染し、そのことによって多くのいのちを傷つけ、破壊しています。

 今回はその自動車がもたらす環境破壊についてまとめてみたいと思います。

(作成者 林 裕之)

1.地球温暖化(気候変動)の脅威

 人間の活動による温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等)の排出量増大にともない地球温暖化が加速しています。気象庁の資料によると、2020年の世界の平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)は1891年の統計開始以降、2番目に高い値となりました。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、産業革命前と比べた世界の年平均気温の上昇はすでに1.1℃に達しました。そして2081~2100年の平均気温は、温室効果ガスの「非常に高い排出シナリオ」では4.4℃上昇し、「非常に低い排出シナリオ」でも1.4℃上昇するとしています。

 このような気温上昇は地球全体に深刻な影響を及ぼすと考えられます。その影響についてIPCCは次のようにまとめています。

IPCCがまとめた地球温暖化の影響

  1. 海面上昇(最大で82cm上昇予想)や高潮の増加による被害
  2. 大都市部への内水氾濫などによる洪水による被害
    *10年に1度の豪雨は、2℃上昇で、1.7倍、4℃上昇で2.7倍になると予想されています
  3. 異常気象による電気や水道などのインフラ機能停止
  4. 熱波による健康被害とそれに伴う死亡者の増加
    *50年に1度の熱波は、2℃上昇で、13.9倍、4℃上昇で39.2倍になると予想されています
  5. 気温上昇や干ばつなどによる食糧不足(食料安全保障の低下)
    *10年に1度の干ばつは、2℃上昇で、2.4倍、4℃上昇で4.1倍になると予想されています
  6. 水資源不足と農業生産減少による農村地域での経済被害
  7. 海洋の酸性化や大規模なサンゴの白化など海洋生態系の破壊とそれに伴う漁業への打撃
  8. 陸域や淡水の生態系、生物多様性がもたらす、自然の恵みの減少

 この他にも森林火災の増加、マラリアなどの感染症の拡大や、生計崩壊に伴う難民の激増、紛争やテロの増加・拡散なども予想されます。私たちにとって温暖化の抑止はもはや一刻の猶予もない緊急の課題であると言えます1)

1)世界の気温の上昇予想や災害予想については、2021年8月9日に公表されたIPCC第6次評価報告書に関する『朝日新聞』2021年8月10日朝刊の記事で示された数値を記載しました。

2.地球温暖化と自動車

 自動車が地球温暖化の主原因である二酸化炭素を特に多く排出するということはよく知られています。

 国土交通省の資料によると、2019年度における日本の二酸化炭素排出量(11億800万トン)のうち、運輸部門からの排出量は18.6%にあたる2億600万トンとなっていますがそのうち86.1%は自動車からの排出となっています。

運輸部門における二酸化炭素排出量

運輸部門における二酸化炭素排出量

運輸部門における二酸化炭素排出量
出典:国土交通省ウェブサイト
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

輸送量当たりのCO2排出量の比較 自家用自動車は鉄道の7倍以上

 輸送量当たりの二酸化炭素排出量も自動車が際立って多くなっています。国土交通省の資料によると(二酸化炭素排出量削減に向けた技術革新やエネルギー源の転換等により今後変化することも考えられますが)、旅客では、自家用自動車が130g(人km)、航空が98g、バスが57g、鉄道が17gであり、自家用自動車は鉄道の7倍以上となっています。

輸送量当たりの二酸化炭素排出量(旅客)

輸送量当たりの二酸化炭素排出量(旅客)

輸送量当たりの二酸化炭素排出量(旅客)
※国土交通省の資料を基に作成

 自動車より公共交通機関の方が輸送量当たりの二酸化炭素排出量が少ない理由としては、乗車人員が多い、鉄道の場合は鉄のレール上を鉄の車輪が回転して走行するため転がり抵抗が自動車に比べて小さい、などの理由があります。

 貨物では、自家用自動車が1166g(トンkm)、営業用貨物車が225g、船舶が41g、鉄道が18gで、自家用自動車は実に鉄道の約65倍、営業用貨物車は約13倍となっています。

輸送量当たりの二酸化炭素排出量(貨物)

輸送量当たりの二酸化炭素排出量(貨物)

輸送量当たりの二酸化炭素排出量(貨物)
※国土交通省の資料を基に作成

電気自動車や水素自動車もCO2を排出する 環境負荷の大きさはガソリン車と大差ない

電気自動車や水素自動車が排出する二酸化炭素

 自動車が地球温暖化の主原因の一つになっていることは明白です。

 そこで、従来のガソリンエンジン車ではなく、環境性能に優れているとされ、「エコカー」ともよばれる電気自動車(EV)や水素自動車(水素自動車には、水素を直接燃焼させて走行する自動車と燃料電池で発電して走行する自動車[燃料電池自動車(FCV)]の2種類がありますが、前者はまだ商用化されていないので、ここでは後者について述べることにします)の普及を急ぐべきだとする声が大きくなり、日本では「エコカー補助金」というものも創設されました。

 確かにこれら「エコカー」ともよばれる自動車の場合は、走行中の二酸化炭素の排出量は大きく削減されます。たとえば電気自動車の場合は走行中の二酸化炭素排出はわずかです。水素自動車の場合は走行中に水蒸気しか出さず、直接的な二酸化炭素の排出はほぼゼロと考えられます。

 しかし電気自動車の走行に必要な電力の生産過程では二酸化炭素が排出されます。その量は電力構成によって異なりますが、日本の場合は1kmの走行で59gというデータがあります。また水素自動車の場合も水素の製造過程で二酸化炭素が排出されるので、1km走行すると43gの二酸化炭素が排出されることになるというデータがあります2)

発電所のイメージ

発電所のイメージ

自動車の製造過程でも大量の二酸化炭素を排出

 二酸化炭素は自動車の製造過程でも大量に排出されます。
 日本では2018年に約1000万台の自動車が生産され、その生産の際に排出された二酸化炭素は約631万トン(日本自動車工業会の資料による)です。単純計算すると自動車一台当たり約631kgもの二酸化炭素が排出されていることになります(自動車の維持管理や廃棄の際に排出される分を含めるとその5倍程度になるとも言われています)。

製造過程の二酸化炭素排出量は電気自動車でさらに増える

 製造過程における二酸化炭素排出量は電気自動車になるとさらに増え、ガソリンエンジン車の2~2.5倍になるとされています。「クリーン」とされる電気自動車であってもその製造過程を含めて考えると大きな二酸化炭素排出源になっているのです3)

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買い換えペース平均約8.5年の自動車と、製造後数十年は使用される鉄道車両

 鉄道車両の場合は、製造後数十年は使用されるのが普通です。私が住む山口県下関地区のJR線(在来線)では、現在なお国鉄時代に製造された415系電車〈関門連絡〉、115系電車〈山陽線〉、40・47系気動車〈山陰線〉などが使われています。

国鉄時代に製造された鉄道車両 1

国鉄時代に製造された鉄道車両 1

国鉄時代に製造された鉄道車両 2

国鉄時代に製造された鉄道車両 2

 しかし自動車の場合は買い換えのペースが平均約8.5年と短い(しかも自動車会社は買い換えをあおり立てている)ため、その分だけより大きな環境負荷を地球環境に与えていると言えるでしょう。

廃車のイメージ

廃車のイメージ

2)伊藤俊秀、宮澤樹、山本恭輔著『水素自動車が排出する二酸化炭素に関する一考察』(関西大学学術リポジトリ〈関西大学総合情報学部紀要〉)2020年。

3) 大阪市立大学准教授の斎藤幸平氏は、電気自動車の製造過程おける二酸化炭素排出量の多さを問題として取り上げ、次のように述べています。
「IEA(国際エネルギー機関)によれば、2040年までに、電気自動車は現在の200万台から2億8000万台にまで伸びるという。ところが、それで削減される世界の二酸化炭素排出量は、わずか1%と推計されているのだ。〈中略〉バッテリーの大型化によって、製造工程で発生する二酸化炭素はますます増えていくからだ。」
(『人新世の「資本論」』〈集英社新書〉)

3.自動車増加が引き起こす土地問題

自動車によって失われる膨大な土地

 自動車は公共交通機関に比べて格段に広い面積を必要とします。
 その実態について京都大学大学院教授の藤井聡氏は次のように述べています。

 「街の中心部」という場所には、商店やレストラン、カフェなどの実に様々な都市施設が「高密度」に設置されている。だから街の中心部には、狭い場所に大量の人々が訪れる。それだけに大量の人々の「移動」を考えた時、彼らをすべてクルマで円滑に処理するためには、「膨大な面積の道路」が必要となる。なぜならそもそも、クルマは1人の人間を移動させるために使用する面積が、大きいからだ。1人乗りの場合なら、1人あたり少なくとも10~15m3の空間を必要としてしまう。〈中略〉
 ところがバスやLRTの場合は、1人あたりの移動のための面積は、クルマの何十分の一という水準だ。ゆったり座るイメージでも、1人あたり1m3未満の空間しか必要としない。

(藤井聡著『クルマを捨ててこそ地方は甦る』PHP新書、2017年、95-96ページ)

 自動車がより広い面積を使用するということはそれだけ住宅や農地、公園緑地など他の用途に使われる土地の面積を減らしているということになります。また自動車のために使われる土地の多くはアスファルトなどによって舗装されます。アメリカの思想家で環境活動家でもあるレスター・R・ブラウン氏はその問題について次のように述べています。

 米国では自動車1台当たり、平均0.07ヘクタールの舗装道路や駐車場が必要である。米国の車両が5台増えるごとに、フットボール場ほどの広さの地面がアスファルトで覆われることになる。〈中略〉
 ドイツ、英国、日本のように人口密度が高い自動車中心の先進国では、車両1台当たり平均0.02ヘクタールの土地が舗装されている。その過程で、非常に生産性の高い耕作地の一部を失っている。〈中略〉
 今後の食糧安全保障はいまや、交通輸送予算の再構築にかかっている。高速道路などの自動車インフラへの投資を減らし、鉄道や自転車のインフラへの投資を増やす、ということである。

(レスター・R・ブラウン著『地球を覆う舗装:自動車と作物の「地面の奪い合い」』エダヒロ・ライブラリー、2005年)

緑地が道路や駐車場に変わることによる環境への被害

 舗装された道路や駐車場が環境に与える影響についても考えてみたいと思います。
 ブラウン氏も述べているとおり、近年自動車数の増加に伴い、各地で農地や緑地などが次々に駐車場や道路などに変えられています。
 緑地のままに残しておけば、そこに生えている樹木等によって二酸化炭素が吸収されます(36~60年生のスギの人工林1ヘクタールが1年間に吸収する二酸化炭素量は、約8.8トン[関東森林管理局のデータによる]になります)。また緑地は、水分の気化熱等で温度上昇を和らげます。
 しかし緑地が舗装された駐車場や道路に変えられると、そこを利用する自動車の(二酸化炭素を大量に含んだ)排ガスや排熱で気温を上昇させます。さらに、舗装の材料として使われるアスファルトやコンクリートそのものが、蓄熱効果が高く、夜間でも冷めにくい性質があるため、ヒートアイランド現象を加速させる大きな要因の一つになっています。非透水性舗装の場合は雨水を地面に浸透させないために洪水の原因になることもあります。

 またアスファルトには人間の健康を害する物質を発生させていることが明らかにされています。
 イェール大学の研究チームが「アスファルトは二次有機エアロゾルの発生源である」という研究成果を発表したそうです。二次有機エアロゾルとは、喘息や公害病の基となる粒子状物質の一種です。

 自動車はそれが存在しているということだけで環境に大きな負荷をかけているのです。

駐車場のイメージ

駐車場のイメージ

道路は大量の電力も消費する

 さらに環境経済研究所代表の上岡直見氏が指摘するように、「道路もまた大量の電力を消費する」ことを見逃していけません。道路の建設によって大規模に自然環境が破壊され、完成後は(高速道路や高規格道路などでは)一晩中照明がつけられています。その膨大な電力消費が環境悪化につながっていることは言うまでもありません。

4.自動車生産に必要な資源採掘に伴う環境破壊

 自動車の製造のために必要な鉱物資源を採掘する際の環境破壊も深刻です。

 自動車の各種配線などには銅が使われています。一般のガソリン車の場合、その使用量は1台当たり20~30kg程度とされていますが、ハイブリッド車(HV)では約40kg、プラグインハイブリッド車(PHV)[自宅や充電スタンドで充電可能な自動車]は約60kgに上ると言われています。
 充電器などにも銅が使われる電気自動車の場合はさらに多く、その量は約83kgとなっています(調査方法によりある程度の差があります)。国際銅協会(ICA)は、電気自動車の普及で銅の需要は今後10年間で約9倍に増加するという予測しています。

銅鉱山のイメージ

銅鉱山のイメージ

 またガソリン車の排ガス浄化触媒や燃料電池自動車の燃料電池の触媒などには白金(プラチナ)が使われています。

 こうした資源の採掘によって引き起こされる問題について東京大学生産技術研究所教授でレアメタルの研究者である岡部徹氏は次のように述べています。

 電気自動車1台を製造するには約50kgの銅が必要です。銅鉱石の品位は約0.5%なので、約10トンの銅鉱石が必要なのは明らかですが、銅の抽出後、残り約10トンは全てゴミになります。そのほとんどが鉱山周辺で処分されています。しかもこのゴミには、ヒ素などの有害物質が含まれている場合があります。高性能モーター製造にも、ネオジムなどのレアアースが必要です。これを鉱石から抽出する際も、ウラン、トリウムなどの放射性物質を含んだ廃棄物が大量に発生します。ガソリン車の場合、排ガス浄化触媒として白金族金属が使われます。自動車1台あたりの使用料は数gですが、鉱石の品位はppmオーダー(百万分の一程度)と低いので、自動車1台につき、数トンのゴミ(廃棄物)が、白金族金属を使うだけで発生します。
 このように、車1台分の原材料を調達するためだけでも、天然鉱物の採掘と製錬の過程で莫大なエネルギーが消費され、大量の有害物質を含む廃棄物が発生しています。
(下線、太字は引用者)

(岡部徹著『レアメタル-資源の現況と今後の活用法』學士会会報 No934(2019-1))

結語 自動車に依存しない社会を。自動車の生産・保有・使用は必要最低限に。

 人の移動や物品の輸送において自動車が果たす役割は大きいことを認めなければなりません。私たちは様々な形で自動車の恩恵を受けています。

 しかし自動車は多くの交通事故(事件)を引き起こしてたくさんの犠牲者を生み出すとともに、環境を大きく破壊し、人間をはじめこの地球に生きるいのちあるものに深刻な健康被害などの問題をもたらしていることも事実です。

 自動車が原因となる環境問題については、「エコカーが普及すれば解決する」という楽観的な見方を口にする人が多いようですが、環境性能に優れているとされる電気自動車や水素自動車などの「エコカー」でさえ、環境に非常に大きな負荷をかけているのです。国は新たな自動車道路の建設をできるだけ抑制するとともに、電気自動車やプラグインハイブリッド車、燃料電池自動車に交付している「エコカー補助金」を打ち切り、その代わりに公共交通機関や歩道・自転車道、緑地の整備など、真にいのちと環境を守ることに役立つ分野により大きな予算を振り向けるべきでしょう。

 持続可能な開発目標(SDGs)の一つである「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」ことを達成するには、自動車の生産・保有・使用をできるだけ必要最低限にとどめ、自動車に過度に依存した状況には決して陥らない安心・安全な社会を構築することが必要であると考えられます。

公共交通のイメージ

公共交通のイメージ

参考リンク

「クルマ社会を問い直す」第105号

参考文献

参考リンク

この記事を書いた人

長年県立高校の教諭として勤務していましたが、昨年退職しました。現在は講師として勤務しています。また個人的に哲学や宗教・文学について研究し、これまで著書を2冊ほど出版しました。環境問題や人権問題に強い関心を持っています。クルマ社会を問い直す会以外にも、複数のNGOの会員になっています。私は、クルマというものは必要最小限においてのみ利用すべきものであると考えています。なぜならそれはあまりにも多くの事故(事件)を発生させ、大きな環境破壊を引き起こすからです。

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