ドイツ、ライプツィヒの町と交通事情 ークルマ中心社会からの脱却をめざしてー

マルクト広場と旧市庁舎

 1年間ザクセン州最大の都市ライプツィヒに家族で住んだ経験を元にドイツの町と交通の様子をお伝えします。ドイツは環境先進国のイメージがありますが、ライプツィヒはドイツの中で特に先進的な取り組みをしているわけではなく、ごく一般的な町の1つです。

(文責:木村護郎クリストフ)

※このページの写真は特に断りのない限りドイツのライプツィヒ市内の写真です。

  1. ドイツ、ライプツィヒの交通政策の概要
    1. 道路はだれのためのもの? 30年間でドイツはどう変わったか
    2. 国の三大転換の1つが交通
      1. エネルギーの転換
      2. 食事の転換
      3. 交通の転換
    3. 自然豊かで市電網が充実したライプツィヒ
    4. クルマの占有空間のむだを環境団体が批判
      1. 市内生活道路の時速30km制限を提唱
      2. クルマの占有空間がいかに無駄かを示す取り組み
    5. 市が自動車交通を減らす目標を提示
  2. ライプツィヒの町と交通の様子
    1. 乗り降りしやすい路面電車が縦横に
      1. 都市鉄道路線Sバーン
    2. クルマより自転車のほうが便利
      1. 自転車の無料駐輪場所が多い
      2. 整備が進む自転車道
      3. 自転車道が未整備の道路も整備が進行中
      4. 自転車を使う方が便利な所が多い
    3. 町の中心に広がる歩行者の空間
      1. 学校前の道路も自動車の進入を規制
      2. 飲食店がテーブルを出しくつろげる道路
      3. 浅草の仲見世通りのような歩行者専用の通り「パサージュ」
      4. クルマの乗り入れを規制し、歩いて楽しく景観も美しい市中心部
  3. ドイツ、ライプツィヒと日本の交通事情を比較して、一問一答
    1. 自転車の駐輪について
    2. 公共交通を子連れで利用するときの問題
    3. ドイツと日本の暮らし、環境の比較
    4. ドイツの交通の問題点
    5. 歩道橋
    6. 郊外型ショッピングセンター
    7. 自転車道の構造
    8. 公共交通の料金
    9. まちづくりへの市民の参画
    10. 西欧諸国の歩行者・自転車中心の町作りは行政の指導か、市民の主導か
    11. 市民の議論への参加と労働時間などについて
    12. ドイツの道路に関する規制や法制度
    13. ドイツの脱クルマ依存の取り組みと自動車産業の関係
    14. 横断歩道
    15. 歩行者・自転車優先の取り組みに対する市民の反対について
    16. 痴漢など通勤満員電車の問題

ドイツ、ライプツィヒの交通政策の概要

ドイツ、ライプツィヒの場所

道路はだれのためのもの? 30年間でドイツはどう変わったか

 30年前、ドイツの公共放送が「あなたの世界、わたしの世界」という歌を流しました。

♪あなたの世界は交通が順調に流れている、わたしの世界は視野の外。
あなたの世界では安心して目的地に着く、わたしの世界ではほとんど外で遊べない。
もっと子どもの場所を! こんな危険はもういやだ!
町はあなたとわたしのため そうなったらすばらしくない?

(Rolf Zuckowski, Deine Welt, meine Welt)

 大人と子どもの断絶を招いたクルマ社会の現状を訴えるこの歌から30年が経ち、ドイツはどう変わったでしょうか。

 ドイツにはいくつもの環境団体があり、多くの市民が参加しています。特に大きい全国規模の団体には数十万人の会員がいます。行政への影響力も多大です。

 図1は最大規模の環境団体「ドイツ環境・自然保護連盟」が作ったパンフレットの図です。今までは(A)のように道路はクルマが主役で当たり前だったが、これからは(B)のように路面電車やバスなど公共交通とクルマ、自転車、歩行者のどれもが道の主役であるべきだ、というものです。

 日本の常識は今も(A)ですが、ドイツは今(B)に向けて変貌の移行期間といえます。

「ドイツ環境・自然保護連盟」(BUND)作成のパンフレットの図(A)

(A)

「ドイツ環境・自然保護連盟」(BUND)作成のパンフレットの図(B)

(B)

図1「ドイツ環境・自然保護連盟」(BUND)作成のパンフレットより。
(BUND Stadt fair teilen! https://www.bund.net/fileadmin/user_upload_bund/publikationen/mobilitaet/mobilitaet_stadt.pdf)

国の三大転換の1つが交通

 今、ドイツでは「エネルギー・食事・交通」の3つの転換に取り組んでいます。

エネルギーの転換

 エネルギーは原発や化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進め、省エネルギー対策にも重点がおかれています。道路の信号も夜間や日曜日など交通量が少ない時間は切ってしまうほどです。

信号の電源を切ってある交差点

信号の電源を切ってある交差点

電源を切ってある信号機

電源を切ってある信号機

食事の転換

 食事は、健康と環境負荷の両面から肉食を減らそうとしており、有機農業は日本の10倍以上の割合で、外食店でベジタリアンやビーガン対応は当たり前になっています。

有機農業の肉を使用した飲食店の看板

有機農業の肉を使用した飲食店の看板

住宅の窓に下げられた幕。肉食の健康問題や環境負荷の大きさを訴えヴィーガンへの転換を勧めている。

住宅の窓に下げられた幕。肉食の健康問題や環境負荷の大きさを訴えヴィーガンへの転換を勧めている。

交通の転換

 3つ目の交通の転換、これが一番遅れており、クルマの温室効果ガス排出量は90年代から減っていないのが課題となっています。
 ベンツ、フォルクスワーゲンなど自動車企業が多いという国柄も影響しているかもしれません。しかし、国内最大の環境団体の青年部は、

  • 「車がない方が楽しめる」
  • 「道路を蒔く者は(自動車)交通を収穫する」
  • 「近距離飛行は昆虫限定」
  • 「駐車場(Parkplatz)のかわりに公園(Park)を」

 など、ことば遊びを活かした標語をつくって意識転換を呼びかけています。

自然豊かで市電網が充実したライプツィヒ

 ドイツの多くの町では日本より市電が多く走っており、自転車道も整備が進み、市の中心街は歩行者天国が当たり前となっています。ライプツィヒもその1つで、気候危機対応のモデル都市の1つに選ばれ、持続可能な交通計画を策定し、急速に変革を進めています。

ライプツィヒの市電

ライプツィヒの市電

 ライプツィヒはバッハやメンデルスゾーンなどの音楽家が暮らした町で、今も「音楽の町」として有名ですが、市の2割が森・水・公園という自然豊かな地域でもあります。町の中で緑陰散歩や、水路でのカヌーやボート乗りも楽しめます。

 かつては、市内の大きな公共施設や買い物センターなどの前は広大な駐車場でクルマが満杯でしたが、今は、駐車場をなくすか地下化しており、地上は歩行者用の広場や公園になっています。

クルマの地下駐車場

クルマの地下駐車場

市中心部の広場(以前は駐車場だった)

市中心部の広場(以前は駐車場だった)

 路面電車の路線網は市内の延べの長さが約300kmと充実しており、ドイツで最大級です。さらに、近郊ともつながる都市鉄道(Sバーン)があります。数十年前からオペラやコンサートの券は公共交通の切符も兼ねており、駐車禁止が多い市中心部でも「公共交通には駐車禁止はない」と便利さをアピールしています。

ライプツィヒの市電のポスター。「駐車禁止? 私たちの乗客には関係ありません」と書かれ、駐車禁止が多い市中心部における便利さをアピールしている。

ライプツィヒの市電のポスター。「駐車禁止? 私たちの乗客には関係ありません」と書かれ、駐車禁止が多い市中心部における便利さをアピールしている。

クルマの占有空間のむだを環境団体が批判

 ライプツィヒはドイツ自転車連盟発祥の地でもあり、市内には交通関連の市民団体が多くあります。

市内生活道路の時速30km制限を提唱

 「交通転換ライプツィヒ」という市民団体は、市内の生活道路を時速30kmにと提唱しており、市長も賛同しています。

市内の生活道路を時速30kmにと提唱する市民団体「交通転換ライプツィヒ」

市内の生活道路を時速30kmにと提唱する市民団体「交通転換ライプツィヒ」

クルマの占有空間がいかに無駄かを示す取り組み

 この市民団体は、2021年9月のモビリティウィークで、「歩行車行列」というアクションを行い、ドイツ連邦環境省の移動企画部門で1位をとりました。クルマと同じサイズの木枠に人が入って道路を歩き、クルマがいかに町中でスペースを占有しているかを示したものです。歩行車を105台連ね、ギネスブックにも登録されました。

*モビリティーウィーク:1997年にフランスの都市で始まった、持続可能な交通社会を目指す運動。世界約3000都市が参加している。カーフリーデーはその行事の1つ。

2021.9.19  市民環境団体「交通転換ライプツィヒ」(Verkehrswende Leipzig)による「歩行車行列」。男性の持つ板には「クルマは23時間止まっている」と書かれ、場所をとる不動産だということを示している。

2021.9.19  市民環境団体「交通転換ライプツィヒ」(Verkehrswende Leipzig)による「歩行車行列」。男性の持つ板には「クルマは23時間止まっている」と書かれ、場所をとる不動産だということを示している。

2021年9月19日「歩行車行列」で使われた乗用車の大きさの木枠

2021.9.19「歩行車行列」で使われた乗用車の大きさの木枠

同じ環境団体がライプツィヒ駅前で実際に撮影した写真。クルマと歩行者と自転車、同じ人数が占める空間の違いが一目瞭然。

同じ環境団体がライプツィヒ駅前で実際に撮影した写真。クルマと歩行者と自転車、同じ人数が占める空間の違いが一目瞭然。
(出典:LEIPZIGINFO.DE Spektakuläre Foto-Aktion von Leipziger Unternehmen, Initiativen und Verbände am autofreien Sonntag https://www.leipziginfo.de/aktuelles/artikel/spektakulaere-foto-aktion-von-leipziger-unternehmen-initiativen-und-verbaende-am-autofreien-sonntag/)

市が自動車交通を減らす目標を提示

 この環境団体は、ライプツィヒの交通転換政策はまだ充分ではないと指摘しています。「自転車道が連続していない所や車道との区分が明確でない所がある、違法駐車が多い、バスや電車の1日乗車券が駐車券よりも高額、歩道や自転車や公共交通の道路スペースがまだ少ない」等です。

 一方の市は「移動方略2030」として、現状の移動手段の割合を2030年には「クルマ40⇒30:公共交通18⇒23:自転車17⇒23:歩行者25⇒24」にするという目標を掲げています
 歩行者の目標が下がっているのは、高齢者の増加などを考慮しているのかもしれません。
 クルマを減らす対策としては、カーシェアを基本にするとともに電気自動車に切り替える、自転車高速道の整備(図2)、市電の幅の拡張による輸送力増強やデマンドバスの充実、アプリで移動手段の確認や手配ができるシステム(MaaS)の推進、などの案を示しています。今後の変革が期待されています。

図2 ライプツィヒ市が目標に掲げる対策の1つは、自転車専用高速道の整備。雪対策も施して1年中使用可能にするという。

図2 ライプツィヒ市が目標に掲げる対策の1つは、自転車専用高速道の整備。雪対策も施して1年中使用可能にするという。
(出典:https://static.leipzig.de/fileadmin/mediendatenbank/leipzig-de/Stadt/02.6_Dez6_Stadtentwicklung_Bau/66_Verkehrs_und_Tiefbauamt/Mobilitaetsstrategie/Mobilitatsstrategie-2030-Rahmenplan-zur-Umsetzung.pdf)

ライプツィヒの町と交通の様子

乗り降りしやすい路面電車が縦横に

 鉄道のライプツィヒ駅はドイツ最大級の駅舎で知られています。

ライプツィヒ駅

ライプツィヒ駅

ライプツィヒ駅内のレンタカー駐車場

ライプツィヒ駅内のレンタカー駐車場

 路面電車は町の至る所を走っており、クルマより早く目的地まで移動できる場合もあります。

公園のようなところにも路面電車が走っている。

公園のようなところにも路面電車が走っている。

 道路との段差がほとんどなく、停車場などではレールを道路より下げるように工夫されており、車いすでもスムーズに乗り降りができます。

レールが道路よりやや下に設計されている停車場

レールが道路よりやや下に設計されている停車場

ライプツィヒ市電の車内

ライプツィヒ市電の車内

ライプツィヒ市電の車内 乗車券用の刻印機

ライプツィヒ市電の車内 乗車券用の刻印機

都市鉄道路線Sバーン

 また、市中から郊外までを結ぶSバーンという都市鉄道路線もあります。Sバーンは中心部では地下を走っています。旧市庁舎前の広場では火曜と金曜に市場が開かれ、クルマは禁止ですが、地下に降りればSバーンに乗れるので、移動に不自由はありません。

クルマの乗り入れが規制されているマルクト広場と旧市庁舎

クルマの乗り入れが規制されているマルクト広場と旧市庁舎

マルクト広場下のSバーンの駅

マルクト広場下のSバーンの駅

クルマより自転車のほうが便利

 自転車を利用する市民も多くいます。

自転車の無料駐輪場所が多い

 自転車の駐輪は無料です。市内の至る所に駐輪用の手すり風の金属バーがあり、チェーンで結びつけます。

駐輪用の金属バーにチェーンで結びつけた自転車

駐輪用の金属バーにチェーンで結びつけた自転車

駐輪用の金属バーにチェーンで結びつけた自転車

駐輪用の金属バーにチェーンで結びつけた自転車

整備が進む自転車道

 自転車道は車道と明確に分離した所が増えており、高齢者なども安心して利用できます。自転車は道路交通システムの中に明確に位置づけられ、信号機も道路標示も専用があり、交通ルールも浸透しています。

整備された自転車道。その右は歩道、車道の左は市電の通り道と、道路が平等にシェアされている。自転車道に駐車しているクルマはない。

整備された自転車道。その右は歩道、車道の左は市電の通り道と、道路が平等にシェアされている。自転車道に駐車しているクルマはない。

自転車用信号付きの自転車道

自転車用信号付きの自転車道

自転車道

自転車道

自転車道

自転車道

 場所によっては自転車優先道路もあり、そこでは堂々と道の真ん中を走れます。

自転車優先道路。標識には自転車優先道路だがオートバイやクルマも走ってよいと記されている。道路にもマークが記されている。

自転車優先道路。標識には自転車優先道路だがオートバイやクルマも走ってよいと記されている。道路にもマークが記されている。

自転車優先道路

自転車優先道路

自転車優先道路

自転車優先道路

自転車道が未整備の道路も整備が進行中

 まだ自転車道が未整備の道路もありますが、徐々に整備が進んでいます。
 日本のように道路を拡幅するのではなく、車道を減らして自転車道や歩道を増やすというものです。

前方は自転車道が未整備の道路

前方は自転車道が未整備の道路

自転車を使う方が便利な所が多い

 自転車利用が多いのは、クルマより自転車を使う方が便利な所が多いためでもあります。
 商店街なども駐車場がない所が多くあります。私がよく行っていた誰でも集える交流スペースも同様でした。

自動車の乗り入れができない場所にある店

自動車の乗り入れができない場所にある店

町の中心に広がる歩行者の空間

 町の中心部は歩行者専用の道路や公園が広がっています。

町中の緑豊かな広場では、多くの人がくつろいでいる。ここもかつては駐車場だった。

町中の緑豊かな広場では、多くの人がくつろいでいる。ここもかつては駐車場だった。

市中心部

市中心部

学校前の道路も自動車の進入を規制

スケートボードができる広場もあり、学校前のスペースもクルマは入れないので、生徒がのんびり集っています。

自動車が入れないようにした学校前の道路

自動車が入れないようにした学校前の道路

自動車が入れないようにした学校前の道路

自動車が入れないようにした学校前の道路

飲食店がテーブルを出しくつろげる道路

 道路には飲食店がテーブルを出し、くつろげる空間を作り出しています。時間によっては商品搬送用のクルマが入りますが、それ以外はボラード(杭)で進入禁止にしています。

歩行者専用道路にパラソルとテーブルを広げた店が並ぶ。

歩行者専用道路にパラソルとテーブルを広げた店が並ぶ。

特定の時間以外はボラード(杭)で進入禁止にしている、飲食店のある道路

特定の時間以外はボラード(杭)で進入禁止にしている、飲食店のある道路

浅草の仲見世通りのような歩行者専用の通り「パサージュ」

 また、浅草の仲見世通りのようなパサージュという歩行者用の細い通りが多くあり、歩いてゆっくり買い物を楽しめます。

歩行者専用の通りパサージュが多いのも、町歩きの楽しみ。

歩行者専用の通りパサージュが多いのも、町歩きの楽しみ。

パサージュ

パサージュ

パサージュ

パサージュ

歩行者専用の通りにある店

歩行者専用の通りにある店

クルマの乗り入れを規制し、歩いて楽しく景観も美しい市中心部

 クルマの駐車場を地下にして、クルマできた人も公共交通や徒歩に変える「パークアンドライド」を導入し、地上の広大な空間を歩いて楽しく景観も美しい町にしたのは、ダイナミックな都市計画によるものだと思います。

クルマの乗り入れを規制し、歩いて楽しく景観も美しい市中心部

クルマの乗り入れを規制し、歩いて楽しく景観も美しい市中心部

市中心部の広場(ここも以前は駐車場だった)

市中心部の広場(ここも以前は駐車場だった)

ドイツ、ライプツィヒと日本の交通事情を比較して、一問一答

 日本で暮らすKさんと、ライプツィヒで生活した経験のあるYさんの、ドイツ、ライプツィヒの交通事情と日本の交通事情を比較した会話を聞いてみましょう。

自転車の駐輪について

K
 日本の私の住んでいる町は違法駐輪が横行したので駐輪を有料化しました。ライプツィヒは違法駐輪はありませんか。
Y
 ライプツィヒは駐輪場所がどこにでもあります。あなたの町は駐輪できる所が少ないから違法駐輪になってしまうのでは?
 ちなみに、ライプツィヒでは駐輪用バーがなければ木や柱に結びつけることもあります。鍵をつけないとすぐ盗まれます。

公共交通を子連れで利用するときの問題

K
 日本では公共交通は静かにしなくてはならず子連れでは利用しにくいです。ドイツではどうですか。
Y
 ライプツィヒの市電は乗車口のそばに乳母車のスペースがあり、子連れで乗る前提になっています。
 車内は日本よりうるさいです。ドイツから日本に来た人が、日本の車内が静かなので驚いていました。
 長距離列車では子どもが騒いでもよい車両がある場合もあります。駅のエレベーターも使いやすい場所に設置されています。

ドイツと日本の暮らし、環境の比較

K
 よい環境のドイツのライプツィヒで暮らしてから日本に戻って、絶望しませんか。
Y
 ライプツィヒの方が移動もしやすく楽しいとは思いますが、例えば東京と比較する場合、東京とは都市の規模も異なり、単純な比較はできません。
 ライプツィヒはコンパクトシティーで、市電1本でプールや公共施設にも行け、人との距離も近いので生活はしやすいと思います。

ドイツの交通の問題点

K
 ドイツの交通の問題点はありますか。
Y
 高速道路が速度無制限である点です。速度制限が提言されても進みません。
 また、自転車道の整備は進んでも人々がクルマを手放すまでには至らない点です。駐車料金を高くするなど政策的インセンティブが必要と思いますが、クルマを制限する方向の発想がまだ弱いです。クルマを手放した人に自治体が市内公共交通利用の補助金を出すなどの試みはあります。

歩道橋

K
 ドイツに歩道橋はありますか。
Y
 ライプツィヒには基本的に歩道橋はありません。
 クルマが楽をして歩行者に不便な上を歩かせようという発想自体がないのかもしれません。

郊外型ショッピングセンター

K
 ショッピングセンターの駐車場はどのような状況ですか。
Y
 郊外型の大型店はありますが、ドイツでは週末は店が休みで、日本のように日曜にショッピングセンターで買い物と飲食をする習慣はありません。

自転車道の構造

K
 自転車道と車道は段差がないのですか。
Y
 低い仕切りを設けている場所もあります。そのような物理的な分離の方が理想かもしれませんが、予算の関係で同一平面上で色分けして自転車道の整備を進めているのだと思います。

公共交通の料金

K
 市電やバスの乗車料金は東京と比較してどうですか。行政の補助等はありますか。
Y
 市電の乗車券は結構高いのが課題ですが、定期券は極端に安いです。2022年の夏は国内の特急以外の鉄道を1ヶ月乗り放題で約1000円の切符が期間限定で発売されました。極端な感じがします。

まちづくりへの市民の参画

K
 ライプツィヒはコンパクトで暮らしやすいそうですが、都市の規模と都市計画の関係もありますか。
 また、環境団体が多いそうですが、市民がまちづくりにどのように参画していますか。
Y
 ライプツィヒは人口約60万人、ドイツで10番目くらいの都市ですが、何でも揃っていて、東京でできることはほぼできます。
 市民参加は、専門家が作るいくつかのシナリオをもとに市民が検討に参加しています。
 学校では、市長と生徒代表が町をどう変えたいかなどについて議論することもあります。政治的なことを考える生徒の会もあります。
 市民が政治に参画するオプションが多数あります。

西欧諸国の歩行者・自転車中心の町作りは行政の指導か、市民の主導か

K
 西欧諸国が歩行者・自転車中心の町作りを進めてきたのは行政の強い指導によるのでしょうか、それとも市民主導の働きかけによるのでしょうか。
 日本でも変えていくにはどうすればよいでしょうか。
Y
 ライプツィヒでは市民の突き上げが大きいです。環境団体が問題点を調査してこの道路をこうせよと具体的な提案をするため、市は聞き入れざるを得ない状況になります。
 選挙などでも争点になります。市民と議会が日本より近い印象があります。
 日本で話し合いの文化を根づかせようと努力したクラウス・シュペネマンというドイツ人がいます。単なるおしゃべりでも相手を打ち負かすディベートでもなく、自分が変わるための話し合いの文化をいかに作るかが大事です。
 ドイツ人は議論好きで、学校でも生徒が政治や町をどうしたいかよく議論します。国民性の違いもあると思います。
ドイツ、ライプツィヒ市民の社会運動の例 気候正義を主張する2021年9月24日「世界気候アクション」のデモ行進

ドイツ、ライプツィヒ市民の社会運動の例 気候正義を主張する2021年9月24日「世界気候アクション」のデモ行進

市民の議論への参加と労働時間などについて

K
 市民と議員や行政との話し合いはいつ行なっていますか。日本は平日に行われることが多く、働いている人が参加できません。
Y
 ドイツ人は日本ほど長く働きません。小学生の登校から下校までの間しか働かず、子どもと一緒に家に帰る人もいました。午後は時間のある人が多く、話し合いにも参加できます。
 公務員も話し合いのため残業すれば別の日に休みを取ります。ドイツは客へのサービスより自分を大事にします。

ドイツの道路に関する規制や法制度

K
 ドイツではボンエルフもゾーン30なども古くから根づいていると聞いています。自転車が高速で走れる優先道路が町中にあるのには驚きました。
Y
 道路の30km/h制限は、旧市街と新市街の割合などで都市により差があります。新市街は初めから自動車交通を念頭につくられている所が多いです。車道が広く確保されている所は速度制限をするということにはなりにくいです。
 自転車優先道路は私にも新しい発見でした。歩行者優先の生活道路でもクルマ中心の幹線道路でもない、新たな発想の道です。

ドイツの脱クルマ依存の取り組みと自動車産業の関係

K
 ライプツィヒは2030年までに全移動量の約半数を歩行者・自転車にする目標を立てていますが、自動車が基幹産業の国でクルマの総量を減らす方向の政策はなぜ可能なのでしょうか。
Y
 市内でのクルマによる移動を不便にする政策はあるのですが、ドイツでクルマの所有制限政策がとられないのは雇用が80万人の自動車産業への遠慮もあると思われ、クルマ社会転換のネックともいえます。
 一方自動車産業も肩身が狭い自覚はあり、モビリティー総合カンパニーになろうとしています。
 失業者を多数出さないようどう転換を進めていくか今後の課題だと思います。

横断歩道

K
 横断歩道にゼブラ模様はありますか。
Y
 そういう所もありますが、両端に線が引いてあるだけのところもあります。

歩行者・自転車優先の取り組みに対する市民の反対について

K
 日本も歩行者・自転車優先にと願う意見は多いですが、クルマが使いにくくなるという市民の反対があって進みにくいです。
Y
 以前ドイツに滞在中にクルマを使いましたが、市中心部は制約が多く、走りにくくてストレスが溜まりました。
 クルマが不便になるからという理由で道路改善に反対した話は聞きませんでした。多くの人が歩行や自転車による移動を経験しているからかもしれません。

痴漢など通勤満員電車の問題

K
 痴漢など通勤満員電車の問題はありますか。
Y
 ドイツは身動きできないほど混むことがありません。あまりに混んで運転士が「混みすぎて発車できない、誰も降りなければ俺は一人で帰るから電車は止まったままだぞ」と車内放送で文句を言い、通路に立っている人たちが降りたということも経験しました。

 


この記事を書いた人
木村護郎クリストフ

東京の多摩地域在住。自家用車を持っていないので、自転車を置くのに必要な空間以外、元駐車場は、蜂や蝶、バッタなどが行き交う小さな昆虫王国(草地)にして楽しんでいます。

子どもが家の前の生活道路で遊べて、駅前の歩行者天国がにぎわう、そして自転車専用路線ですいすい通勤できる、そんな町を夢見て、クルマ社会を問い直す会に入りました。

本業は大学教員で、言語社会学の研究者。
言語も交通も、人間同士の出会いや関係、さらには社会ができあがっていくうえでカギになる点が似ていると思っています。

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