信号のない横断歩道で止まらない車と歩行者の“おじぎ”への疑問

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 あなたは、横断歩道を渡った子どもが一時停止した車に向き直ってお礼のお辞儀をすることを“気持ち良い”と思いますか?
 横断歩道を渡る歩行者がいるとき車が停止するのは赤信号で停車するのと同じ法定の義務です。
 歩行者がお辞儀をすることによって車の一時停止率が上がることを期待するような社会であってはいけないでしょう。

 運転者が法を守ること=歩行者の命と身体を守ることが当たり前の社会にしていきましょう。

子どもが横断時にお辞儀をする事例は、心温まるいい話なのだろうか

 2021年10月に、JAF(日本自動車連盟)による「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況全国調査」の2021年の結果が公開されました。

 一時停止率の全国平均は改善されつつあるとはいえわずか30.6%ですが、その中で長野県は85.2%と最も高く、その理由は「子どもが横断時におじぎをするため」だと解説されています。
 それに対し「心温まるいい話」とメディアや教育機関などが好意的にとらえ、「わが県も見習っておじぎをして一時停止率を高めよう」という動きも高まっているようです。

 しかし、「なにかおかしい、それでいいの?」と、私たちは強い疑問を感じています。

横断歩道と車のイメージ写真

横断歩道を渡る歩行者がいるとき車が停止するのは法定の義務

 まず、「横断歩道を横断しようとする歩行者等があるときは、車両は横断歩道等の直前で一時停止し、その通行を妨げないようにしなければならない」ことは、道路交通法第38条に定められた義務です。赤信号で停車するのと同じ、法定の義務です。

歩行者がお辞儀しなくても赤信号で止まるのが義務。信号のない横断歩道も同じこと。

 ドライバーのみなさんが信号のある横断歩道において赤信号で停車するのは、歩行者がおじぎをするからですか。
 いいえ、「法律で定められた義務」だからですよね。

「法定の義務」から「思いやり精神」論へのすり替え

 赤信号で停車するのも信号機のない横断歩道で停車するのも同じ法定の義務のはずですが、なぜか法定の義務という視点が消え、「歩行者がおじぎをすれば喜んで停まるよ」「そうすればお互いに気持ちがいいね」という"思いやり精神”論へと話がすり替わっています。

 もちろん、思いやりの心を持つことは社会道徳としては望ましく、長野の子どもたちの行動を否定するものではありません。
 しかし、それに甘えて、ドライバーが法律違反を長く繰り返してきたことを反省もせず、その原因が歩行者の態度にあるかのように、「歩行者のおじぎ歓迎!」というのは、あまりに身勝手な話ではないでしょうか。

赤信号のイメージ

横断歩道で車が停まる法定義務の重さ

 横断歩道で車が停まる法定義務があるのは、人と比べて車の破壊力が極めて大きいからです。人が走る車とぶつかったら、生身の身体はひとたまりもありません。

信号のない横断歩道で死傷させられた人の数

 2014~18年の5年間で、信号のない横断歩道で起きた死亡事故は450件、負傷事故は21,255件にのぼります。多くの歩行者等の命が奪われ、体が傷つけられています

信号機のない横断歩道における自動車の危険認知速度別歩行者の事故件数の棒グラフ(平成26~30年) (内閣府「令和元年版交通安全白書」より)

信号機のない横断歩道における自動車の危険認知速度別歩行者の事故件数(平成26~30年)
(内閣府「令和元年版交通安全白書」より)

歩行者が渡るかどうかわからないから停止しない、という意見について

 車が一時停止をしないのは「歩行者が渡るかどうかわからないからだ」という意見をよく聞きます。
 しかし、歩行者は、停まらない車のほうが圧倒的に多いことを知っているから、たとえ手を挙げて横断の意志を示したとしても、怖くて「命がけ」の一歩をなかなか踏み出せないのです。
 横断の意志が分からないということを、停まらない理由にして違反をするのは、強者の横暴、道路上のパワーハラスメントともいうべきです。

 この構図が何のおとがめもなく長年黙認されてきて、多くの歩行者の命と体が犠牲になっています。

横断歩道で停止しないクルマのイラスト

道路は車の走行が最優先される日本 歩行者と自転車利用者の安全は二の次

 日本では、道路は車のスムーズな走行が最も優先され、歩行者と自転車利用者の安全は二の次にされています。
 交通安全は、歩行者の注意と自衛に大きく委ねられ、幼児にも高齢者や障がい者にも、健常な大人と同じ注意力が求められています。
 日本では交通事故死者のうち歩行者と自転車利用者の割合は5割を超え、先進諸国と比べて突出して多いのが現状です。

 交通環境においては、日本は交通弱者に冷たい、残念な国です。

交通事故死者に占める歩行者と自転車利用者の割合のグラフ

交通事故死者に占める歩行者と自転車利用者の割合

事故死者と重傷者をゼロにする『ビジョン・ゼロ』政策を実践する交通安全先進国の例

 スウェーデンやオランダなどの交通安全先進国は、30年以上前から歩行者を守ることを最優先課題とし、事故死者と重傷者をゼロにする『ビジョン・ゼロ』政策を国の責任で実践しています。「交通の利便性のために人命が失われ、永続的な傷害をこうむる人が出ることは、もはや倫理的、社会的に許されない」という共通認識のもと、交通の利便性と安全性を天秤にかけてその均衡点を探る、という発想を放棄したのです。
 今では、市街地のほとんどは車の走行速度が時速30㎞以下とされ、横断歩道ではないところでも歩行者がいれば減速し、横断させることが定着しています。

 また、スウェーデンでは、子どもの行動や心理の研究に基づいて「子どもを交通状況に合わせて教育することはできない。子どもを交通事故から守るには、交通環境を変えるしかない」という理念に基づいた安全対策がとられています。

 こうした取り組みはヨーロッパ各国に広く浸透し、ノルウェーの首都オスロでは、2019年に歩行者・自転車の交通死者ゼロを達成しています。

日本も子どもなど歩行者に「思いやり」やお辞儀を要求せず、車を使う大人が法を守る国に

 日本も、子どもをはじめとする歩行者側に過度な注意を強いたり、「思いやり」やおじぎを要求したりするのはもうやめにして、まず車を使用する大人が責任として法を守り、歩行者を守るという当たり前のことを実行する国にしていきませんか。

 警察関係の皆さんは、歩行者の命と体を守るため、全国各地の信号機のない横断歩道に立って車への注意喚起と指導を行い、違反車を取り締まってください。オービス(速度違反自動取締装置)や防犯カメラを増設して、取り締まりに役立ててください。

 世界に誇れる真に安全で、本物の思いやりに満ちた交通社会を作っていきましょう。

横断歩道を横断する歩行者のイラスト


参考動画

Vision Zero – Safety at every turn
これは英語の動画です。動画の概要の説明文の日本語訳を以下に掲載します。(「DoopL翻訳ツール」で自動翻訳したものです)

ビジョンゼロは、スウェーデンの交通安全に対する考え方の一つです。それは一文に要約されます「人命の損失は許されない。」Vision Zeroのアプローチは非常に成功していることが証明されています。私たちは人間であり、間違いを犯すという単純な事実に基づいています。道路システムは私たちの移動を維持する必要があります。しかし、道路システムはあらゆる場面で私たちを保護するように設計されていなければなりません。

参考になるサイト

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