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ハンプ+横断歩道=スムーズ横断歩道
ハンプの技術を応用したのが「スムーズ横断歩道」です。これは、横断歩道部分をハンプと同じ高さまで盛り上げるもので、車両の速度を効果的に抑制すると同時に、歩行者の存在をドライバーに強く意識させることができます。

写真B:横浜市中山町に設置されたスムーズ横断歩道
横浜市中山町の事例を紹介しますと、4分の3の車が停まってくれなかった横断歩道、こちらをスムーズ横断歩道にしたところ、半分の車が停まるようになり、通過速度も劇的に低下しました(写真B)。この調査には無人の定点カメラを用いましたので、誰かに見られているからという理由でドライバーの挙動が変わったわけではありません。単に横断歩道を10cm高くしただけで行動を大きく変えられたのです。

写真C:沖縄県浦添市城間4丁目のスムーズ横断歩道
浦添市の港川小学校でも、登校時間中の停止率の変化をスムーズ横断歩道の設置前後で調査したところ、もともと8割の車が横断歩行者を無視していたのが、設置後はすべての車が歩行者を見つけて停まるようになりました(写真C)。ハンプとスムーズ横断歩道は、道路のまっす ぐな部分だけではなく、交差点に設置しても大きな効果が得られます(写真D、E)。埼玉県朝霞市(東弁財3丁目)の事例では、一灯式の信号交差点をハンプにしたところ、通過するドライバーが確実に安全確認するようになり、その後、信号は撤去されました。

写真D:埼玉県朝霞市、南割公園横の交差点ハンプ

写真E:静岡県静岡市清水区、入江小学校の通学路交差点ハンプが写真左側の横断歩道外側まで延長されスムーズ横断歩道を構成している。
なお国交省ではゴム製の仮設ハンプのレンタルをしていますので、みなさまもぜひお試しください。
ライジングボラードによる進入規制
次に、車両の進入規制についてです。スクールゾーンなどで見られるA型バリケードは、住民が設置・撤去(いわゆる「うま出し」)を行いますが、抜け道利用者とのトラブルが発生し、設置を断念するケースも少なくありません。
ヨーロッパでは、ライジングボラードという自動昇降式のポールが広く使われています。許可車両(住民や緊急車両など)がICカードなどで認証するとポールが地中に下がり、通過後に再び上昇する仕組みです。

写真F:フランス、ストラスブールの小学校前の道路に設置されたライジング・ボラード
しかし、ポールが上昇中に無理に通過しようとして車両が損傷する事故も発生しており、日本では警察が導入に否定的でした。そこで国内で登場したのが、ソフトタイプのライジングボラードです。これはゴム製のポール(ラバーポール)が自動で昇降するもので、新潟市のアーケード街などで導入されています(写真G)。車が接触してもポールが曲がるだけで車両へのダメージはほとんどありませんが、車内には「バン、バン」という大きな衝撃音と振動が伝わり、ドライバーに強い不快感を与えます。実験の結果、このソフトタイプでも違反進入車両のリピーターは皆無であり、十分な抑止効果があることが確認されました。

写真G:新潟市ふるまちモールにて稼働開始したライジングボラード(2014年8月)
ゾーン30プラス:ソフトとハードの連携による最新の対策
このように、ハンプやライジングボラードといった物理的なデバイスの有効性が確認され、技術基準も整備されてきました。これを受け、2021年(令和3年)、国土交通省と警察庁は共同で「ゾーン30プラス」という施策を開始しました。
これは、警察庁が推進してきた「ゾーン30」、すなわち区域内の最高速度を30km/hに規制するソフト対策(交通規制)に加えて、これまで述べてきたようなハード対策を効果的に「プラス」し、組み合わせることで、より実効性の高い安全対策を目指すものです。
かつてのコミュニティゾーン制度もソフトとハードの連携を目指しましたが、デバイスの設計基準の不備などから普及には至りませんでした。ゾーン30プラスは、その反省を踏まえ、標準化された効果的な物理デバイス(ハンプ、狭窄部、屈曲部、ライジングボラード、スムーズ横断歩道など)を活用することで、ゾーン30の効果をさらに高め、生活道路の安全性を抜本的に向上させることを目的としています。