「新型コロナウイルスの緊急事態に際し、公共交通機関の財政支援を求める意見書」を内閣府、国土交通省、各政党、各新聞社に送付

林 裕之(世話人)

新型コロナウイルス感染が世界規模で拡大する中、日本でも緊急事態宣言が出され、市民に外出を自粛するなどの対策が実施されています。
そのような状況下で各公共交通機関の利用者が大幅に減少し、経営状態が悪化しています。そこで全国路面電車ネットワーク運営委員長、NPO法人公共の交通ラクダ(岡山)会長の岡將男さんが中心となり「新型コロナ・ウイルスによる交通崩壊を防ぐためのアピール」が出され、クルマ社会を問い直す会も趣旨に賛同して、賛同団体として登録しました。さらに当会は独自に公共交通の財政支援を求める意見書を出すことにしました。意見書は内閣府、国土交通省、各政党宛に送付し、各新聞社にも報告として送りました。この意見書が公共交通機関を守るために役立つことを期待しています。ここに意見書(省庁宛)の全文を紹介します。

新型コロナウイルスの緊急事態に際し、
公共交通機関の財政支援を求める意見書

令和2年(2020年)5月5日
クルマ社会を問い直す会

現在世界各地で新型コロナウイルス感染が進行しています。これに対処するために日本においても緊急事態宣言が出され、市民の外出規制や各施設・店舗などに対する休業要請が出されています。こうした状況の中でも各地の鉄道やバスなどの公共交通機関は一部を除きほぼ通常通りの運行をしています。しかしいずれも大幅な利用者数の減少とそれに伴う収入の減少という問題に直面しています。特に地方の公共交通機関は、以前から人口減少とクルマ社会の進行による利用者減少の中で厳しい経営状況となり、路線廃止や運転本数削減が続いていましたが、今回のコロナ問題でそれがより深刻になっています。このままでは、公共交通機関を運営する事業体が資金繰りに行き詰まり、さらなる路線廃止や運転本数の削減をせざるを得ない事態に追い込まれます。公共交通機関のサービスが縮小されると次のような問題が発生すると考えられます。

(1)公共交通機関のサービス縮小は一般市民の生活を直撃します。通勤や通学、買い物や通院等に支障をきたします。それによって人々の行動が制約されるとともに、地方の過疎化が進み、格差が拡大することが考えられます。

(2)公共交通機関が不便になればその分自家用車への依存割合が高まることが予想されますが、それは社会と環境の両面で大きな問題を引き起こすと考えられます。

○日本では昨年度約38万件の交通事故が発生し、約46万人が負傷し、3920人が亡くなっています(事故後30日以内の人数)が、自家用車への依存割合が増えるとさらに犠牲者が増える恐れがあります。事故が増えると救急医療の負荷を高めるという問題もあります。また、高齢運転者による事故が相次ぐ中、高齢者の運転免許証自主返納が勧められていますが、その動きにも逆行します。

○自家用車への依存割合が増大すると、一部の道路では渋滞が激化することが予想されます。道路の渋滞対策の実施には巨額の費用が必要となります。近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会は、存廃問題で揺れていた滋賀県の近江鉄道の全線存続を決定した理由として、道路の渋滞対策に大きな費用がかかるということを挙げていました。

○自家用車への依存割合の増大は、地球温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)排出量の増大と大気汚染の深刻化を招く恐れがあります。自動車は日本の運輸部門からのCO2排出量の約9割近くを占めています。1人が1km移動する際に排出されるCO2量は、自家用車は鉄道の約7倍、バスの約3倍です。自動車は他にも二酸化窒素や一酸化炭素、炭化水素などの有害物質を大量に排出しています。また、自動車から排出されるpm2.5の増加は、新型コロナウイルス等ウイルス性疾患の症状をより重くし、死者の増加につながるとも言われています。

こうした事態を招かないために公共交通機関を維持しなければいけません。それは国の努めでもあり、資金支援は欠かせません。
以上の理由から、私たちは経営が苦境に陥っている各公共交通機関に対し、資金面での充分な公的支援をしていただくことを強く要望いたします。