[足立]日本は、交通事故死者のうち歩行者と自転車利用者が多く、半数を占めている現状は以前から変わっていない。
多くのクルマは制限速度をオーバーして走っている上、日本のドライバーは信号のない横断歩道で、歩行者がいても止まらないクルマが9割、という調査報告もあり、外国人からも不安や疑問の声が出ている。
東京オリンピック・パラリンピックも近い今、積極的に歩行者の安全対策に力を注ぎ、速度抑制や、真に歩行者が安心できる歩行ゾーンを増やすなどしてほしい。
[野崎]お考えはよくわかった。
[井坂]警察庁の人と面談したときに、ゾーン30など安全対策にいろいろ取り組んではいるが、広報が充分とはいえないという話があった。
安全対策の普及・啓発については内閣府が担当なので、ゾーン30の意義や走行時の注意啓発などもしたらよい。そういう取り組みはあるか。
[野崎]我々も交通安全啓発の旗振り役をさせてもらい、ポスターも見やすいものを作るなどしている。
その時々に応じて重点課題を定めて取り組んでいる。都道府県にも、内容は一律ではないが安全啓発を働きかけたり、ポスターを関係団体に配ったりしている。
交通安全の対象は高齢者から子どもまで広いので、1つの問題だけをとり上げるわけにいかないが、幅広い層に理解してもらえるよう啓発活動をしている。
特定の話だけを取り上げることはできないが、安全なスピードで走ってもらうよう啓発することはよいことだと思う。
[井坂]春秋の交通安全運動のポスターは町内掲示板にも貼られており、広報効果が大きいと感じている。
ポスターで、ゾーン30や歩車分離信号などに関するものを見たことがないが、周知と注意喚起のために作るとよいのではないか。
警察庁でも、ゾーン30や歩車分離信号の普及には広く住民の理解が必要だと言っている。
また、クルマの速度と歩行者被害に関するグラフもよい啓発材料になる。
国連WHOのグラフは、時速30kmを超えると急激に歩行者の危険度が増すことをよく示している。
このようなグラフも利用し、関係省庁の取り組みを内閣府がポスターなどで広報することは、後方支援にもなり、交通安全の相乗効果が期待できると思う。
[野崎]理解してもらうことが大事と思うので、どういう形がよいかを含めていろいろ考えていきたい。
[佐藤]交通安全のポスターでは、高齢者の事故被害が半数以上といったことが書かれているが、もっと重要な情報は「交通事故死者の中で歩行者・自転車が5割を占めており、他の国に比べて群を抜いて多い」ということではないか。
私は交通事故被害者遺族として講演をさせてもらう機会があり、そこで交通事故死者数構成比の国際比較を見せながら現実を伝えているが、かなりの方が驚く。
ゾーン30の意義を周知させる際も、そうした現状を伝えることが有効だと思う。
また、東京オリンピック・パラリンピックに向けても、この現実を数字で示して、とるべき対策や注意を呼びかけていくとよいのではないか。
交通安全のポスターの文句は、率直に申して毎年代わり映えがしない。現実をしっかり伝え、事故防止の策を啓発してほしい。それこそ内閣府がリードして行なっていただきたい。
[野崎]具体的にできるかどうか約束はできないが、いかに国民の交通安全意識を高めるかを考える中で、検討していきたい。
ただ、国によって道路事情、交通事情が違うので、数字のみを比べて日本は歩行者の死亡事故が多いというのでは前進がないと思う。
欧州のように昔から馬車道があってクルマ社会になっていったところと、日本のように農耕が主体の環境にクルマが入ってきたところと、道路事情も全然違う。
海外を参考にはするが、日本国民に対してどういう訴え方がいいかは別の話。数字だけがひとり歩きしてもいけないと思う。
[佐藤]海外の数値を出さなくても、「日本は交通事故死者の半数が交通弱者である」という数字を示すだけでもインパクトは充分にある。
その現状を知ることで、子どもや高齢者を守るためにはどうしたらいいかの対策案ももっと出てくるだろう。そういう現実を伝えて啓発する旗振り役は、内閣府しかないと思う。