台湾の歩行者権利促進団体【還路於民(Vision Zero Taiwan)】の皆さんと、意見交換をしました

台湾における交通実態と課題

説明者は理事の廖怡理(リャオ・イーリー)さんです。東京都立大学で社会福祉を学んだ経歴をもつ方で、日本語で話されました。

●バイク中心のクルマ社会

台湾はバイク所有率が世界一で、その数はクルマより多く、バイク+クルマの保有台数はついに人口(約2340万人)を超えました(図1)。台北橋の道路にバイクがびっしり並ぶ風景は「バイクの滝」として台湾観光の1つにもなるほどに常態化しています。

交通モードのトリップ分担率は、台北や新北など北部と中部は公共交通が50%未満ながらも比較的多いのに対し、台南、高雄などの南部は公共交通が乏しく、移動にはバイクかクルマが必須です。

台湾の登録車両数の円グラフです。合計2千335万7千台、うちバイクが1千466.5万台です。

図1:台湾の登録車両数

●狭い歩道、深刻な交通事故状況

歩道の普及率は5割に満たず、歩道とは言ってもここ数年増えている「標示型歩道」は道路端に白線を引いただけの空間です。その狭い空間をバイクが違法駐車して占拠しています。台北市でも幅2.5m以上の歩道は5%しかありません。

交通違反も多く、2024年1~10月の交通違反通報件数は1,250万件 にのぼり、その中で最多は駐車違反(25%)です。取り締まる警察官の不足も拍車をかけています。

台湾の街中にある線で区分された歩道の写真です。

写真1:増えている「標示型歩道」もバイクが占拠。

交通事故死者数は10万人あたり12人以上、GDP(国内総生産)の近い国々の中でも突出して多く、日本の4倍前後になります(図2)。これは国の 交通政策にも問題があります。
交通政策には内閣下の交通部公路局、内政部国土管理署、内政部警政署、地方自治体が関与しますが、日本の「中央交通安全対策会議」のように首相が会長を務める統括的な組織がないので、責任を問うと、たらい回しにされます。
2024年1月に「道路交通安全基本法」が、同年 10月には「歩行者交通安全設備条例」が施行されましたが、内政部がビジョン・ゼロの指示を出しても交通部が従わないなど、責任体制が整っていないという課題もあります。

このように、台湾の道路交通問題としては、バイクやクルマが多すぎる、道路環境が整備されていない、交通違反の多発、交通政策部門の責任の不明確、という4つの問題があります。

10万人当たりの交通事故死者数とGDPのグラフです。アメリカと台湾が突出して死者が多く、日本やイギリスは少ない方です。

図2:10万人当たりの交通事故死者数の国別比較(GDPが近い国)

●児童の送迎もバイク。多い子どもの被害

児童の登下校は、どの都市でも保護者がバイクやクルマで送迎する割合が高いため、下校時には学校周辺の道路が違法駐車の車両であふれ、それがさらに歩行環境を悪くしています。

歩行者は本来横断歩道をゆっくり渡る権利がありますが、昨今はそれを批判し抑圧しようとする声が高くなっています。
歩行者の安全のため違法駐車をなくそうと政治家に働きかけても、反対勢力の声に屈してしまっているのが現状です。
毎年1万人以上の子どもが交通事故で死傷していますが、通学路の歩道整備は一部都市でしか進んでいません。

メモ]廖怡理さんと廖延釗さん姉弟は、2021年末に母親であり作家でもある陳柔縉(チェン・ロウジン)さんを交通事故で亡くされました。台湾在住の日本人作家・田中美帆さんが台湾の交通を論じた記事の中で、陳さんの事件にも触れています。

台湾の学童の通学方法を示す棒グラフです。親がバイクで迎えている子どもが54.8%です。

図3:子どもの通学手段、半数以上はバイク送迎
(六大都市のデータ)。

 

 

登下校時の学校の門の前の写真です。大勢の子どもたちを送迎する親のバイクが並んでいます。

写真2:学校前の道路は送迎のバイクやクルマが占拠。