台湾の歩行者権利促進団体【還路於民(Vision Zero Taiwan)】の皆さんと、意見交換をしました

意見交換

次に当会から日本の交通の課題(歩行者・自転車事故被害が多い現状、クルマ依存と地方公共交通の衰退による移動の格差、環境への負荷増大など)と会の活動について説明をし、その後、事前に交わしていた質問も含めて意見交換を行いました。

●台湾のバイク、自転車事情は

台湾南部では北部より公共交通が少なく、バイクやクルマの利用が多い理由は?
南部に多い地方都市は予算が少ないため、公共交通導入が遅れています。
台湾の公共交通政策自体が遅れており、都市のMRT(地下鉄)建設は平壌より20年も遅く、台北のMRTも90年代以降に発展しました。
路面電車もなかったのでMRTの利用習慣、利用意識も醸成されていません。
南部ではMRTが作られても駅までの移動にはバイクが欠かせません。
バスは、昔は公営で整備されサービスも悪くなかったのですが、90年代に民営化されて衰退してしまいました。

女性や高齢者もバイクを使うのですか?
男女年齢を問わずみな利用しています。

自転車の利用はどうですか?
自転車通勤は皆無に近いです。昔は都市でも田舎でも自転車が普及していましたが、今はバイクにとって代わりました。
1970~80年代に工業化と経済成長が進み、人口急増に伴って都市のスプロール化が進行してしまいました。そのうえ、公共交通が整備されなかったため、自転車に代わってバイク利用者が激増したのです。自転車は、学生は若干利用しますが、自転車通学を禁止している学校もあります。そもそも安全に走れる環境も整っておらず、駐輪場所もありません。

9年前に台北に行き、YouBike(共用自転車サービス)に乗りましたが、周りはバイクばかりでした。
YouBikeは多く整備されましたが、走れる環境が整っていません。道路にマーク表示をした自転車通行帯があっても、途中で途切れてしまいます。

バイクには何歳から乗れますか?
免許は18歳からとれるので、18歳からこぞってバイクに乗るようになります。18歳未満でもこっそり乗っている人もいます。
一般に、バイクから車に乗り換えていくのが順当な選択とされており、自転車は取り残された選択という印象があります。

交通事故のバイク、クルマ、歩行者別の加害者・被害者の割合は?
事故件数はバイクが55%と最多で、死亡率が高いのは商業用トラック、次はバイクです。
ただ、車両別のデータはありますが、被害者と加害者の割合等の詳細なデータは見当たりません。

●歩道確保がむずかしい理由は

台湾では、歩道設置を求めると、近隣の店などからバイクやクルマの利便性が損なわれると反対されることが多いのですが、日本ではどうですか?
日本では歩道設置=交通事故を減らすと多くの市民が認識しており、基本的に賛同します。たまに反対意見があっても、その理由を聞いて設計を調整したりして作ります。

日本では歩道の建設は義務ですか?
日本は道路に関する法律の下に道路構造令という設計基準があり、こういう道路にはこういう歩道を作るという基準があります。

台湾ではそういう法律がないのです。「標示型歩道」(4ページの写真1)も狭くてバイクに占領されています。
日本では、歩道は縁石などで区切ることが定められおり、「標示型歩道」は正式な歩道ではなく路側帯とみなしています。

私たちも「標示型歩道」は歩道ではないと訴えているのですが、政府が積極的に作るのはこれで、歩道としてカウントされています。
この歩道への路上駐車も絶えません。こうした空間はどれも偽の歩道です。
日本ではそもそも道路に駐車はできないので、駐車できないことを理由に市民が歩道作りに反対することはありません。
台北の大学周辺に人通りが多いのに歩道が狭い道路あり、ある地方議員が広い歩道設置を求めても店などの反対が強く、設置に2年ほどかかりました。

●歩道が生む危険や横断歩道での危険も

歩道を作ればそこは安全にはなりますが、クルマやバイクが速度を上げやすくなり、道路横断の際の危険が増すこともあるので、注意が必要です。
歩道を安全にするために段差や柵をつけると、クルマが安心して走れるので速度が上がる、というのは確かにそうですね。

日本では歩道での危険より、横断歩道で右左折してくるクルマに轢かれる危険が高いです。歩車分離信号設置を希望しても警察は渋滞の懸念を理由になかなか変えてくれません。歩車分離信号は当会でも要望しており、徐々に増えていますが、まだ全信号の5%程度です。日本もクルマの走行を優先しており、歩行者の安全対策はあと回しなのが現状です。
台湾の通学エリアには歩道橋がたくさん作られています。クルマは下を楽に走らせ、人は歩道橋に上らせようという魂胆です。日本ではどうですか?

歩道橋は歩行者軽視という声があり、数は減っていますが、まだあちこちに見かけます。日本は信号のない横断歩道で歩行者がいても停まらない車が多いのも課題です。JAFが都道府県別の停車率を毎年調査・公開しており、その数値が悪いと「恥ずかしい」という意識から徐々に改善はされてきています。しかし、子どもにクルマにおじぎをさせて停まる車を増やそうという、情けない動きもあります。

だれがおじぎをさせようとしているのですか?
学校などでも推奨し、市民やメディアの多くも好意的に受け止めています。小学校でおじぎを推奨するようなパンフレット(自動車メーカー作成)を配っている例もあります。

●横行する違法駐車、速度違反

駐車場の問題で、車庫法はあるとよいと思いますが、台湾にはありませんか?
ありません。2023年にデモをした際に、政府に車庫法導入や都心に入るクルマへの課金などの案も要望しましたが、すべて拒否されました。
車庫法は夜間の駐車対策ですが、昼の違法駐車の対策もできていません。

日本では違法駐車をすると学校や店などに近隣住民からクレームが届き、学校や店などが警告を発するので、それが抑止力になっています。
台湾では取り締まる警察が不足しており、いても頼りないです。
警察に取り締まりを受けた人が議員に苦情を訴え、議員が警察に「取り締まるな」と圧力をかける、というケースもよくあります。政党に関わらず、議員は市民の苦情には対処するというスタンスです。
駐車違反を通報する運動をした人が逆に通報魔扱いされた例もあります。また、通報が多いと警察が大変だということで、通報を制限する法律もできました。路上駐車の証拠写真を政府のサイトに投稿する方法もありますが、判断は警察次第です。

台湾では運転免許は更新制ではないのですか?
70歳までは更新義務がありません。最近重大事故が増え、70歳以上には認知機能テストを行うようになりましたが、私たちは高齢者に限らず危険な運転をする者が多いことから、運転免許取得の基準が甘いことを問題と考えています。

日本では速度違反が常態化していますが、台湾では?
自動車教習学校で、「なんでそんなに遅く走るの?」と言われるのが現実です。道路の速度規制自体も問題で、30km/h制限にすべき道路が 40km/hや50km/hになっています。違反を検知するセンサーも、的外れな場所に設置されていたりします。

●日本の公共交通への誘導策は

日本では、クルマに慣れた人を公共交通に誘導させる政策はありますか?
積極的な政策はありません。5年ごとのパーソントリップ調査でもマイカー利用がだんだん増えています。政府や自治体が作る交通計画にはクルマを使いすぎないようにと書いてあっても、施策は乏しいのが現状です。
スーパーやデパートで買い物をすると公共交通の切符をサービスでつける取り組みもたまにはありますが、駐車料金が無料なので、基本的にはマイカー推奨の形になっています。
商業施設には法律で駐車場整備が義務づけられています。また、地方の新幹線の駅周辺には広大な駐車場が作られ、駅まではクルマ移動を前提としている所も多くあります。

日本の地方部はクルマ依存がひどいと聞きます。
去年愛媛の民宿に行く際にバスに乗ったら、「今日で廃止となるので、明日からバスがない」と言われて驚きました。住民の反対はないのでしょうか。代替交通は?

住民の反対はあっても大きな力にはなりません。
代替交通は地域によりデマンドタクシーなどが検討されますが、国は積極的な支援はせず、財政支援も含めて地方自治体に任せる姿勢が強いです。
公共交通は民間企業や自治体に任せきりではなく政府がもっと支えるべきだという論調が増えています。
道路への投資額と公共交通への投資額の大きな格差も問題です。バスや地方鉄道の運転手不足も問題ですが、その対策としては労働環境の改善も必要です。


短い時間でしたが、台湾と日本それぞれの道路交通問題の一端を学び合うことができました。
交通事情も課題も双方でかなり異なるものの、歩行者が安全に往来でき、クルマやバイクに頼らなくても移動できる社会を求めるという願いは一致しています。
今後も交流を深めることを約束して散会しました。

クルマ依存がここまで進んだ中でクルマ社会への疑問の声を発していくのは容易ではありませんが、「還路於民」の活動を拝見して、これからは国を越えて世界全体で問題を共有していく必要があると感じました。
「還路於民」のみなさん、ありがとうございました!

上岡直見さんよりのコメント
報告のとおり台湾の「還路於民(Vision Zero Taiwan)」という歩行者権利運動の活発な団体の若い方々と交流の機会があり大変刺激を受けました。その様子は他のメンバーの方から報告されていますが、気づいたことを書き添えます。
団体の資料の中に「IFP」に加盟しているとの言葉がありました。それに関しての直接の説明はなかったのですが、IFPは
International Federation of Pedestrians(国際歩行者連盟)」という国際的な歩行者権利運動のネットワークです。目的として「歩くことは単なる権利ではありません。公共空間の正当な利用であり、人々が歩くことを選択するよう支援し、奨励されるべきです。持続可能な移動手段として不可欠な歩行は、地域社会の健康と住みやすさを向上させます」とあります。
メンバーは世界中から参加しており規模や活動は様々なようですが、日本からは参加がありません。しかし歩行者の権利運動やその問題意識は、日本での特殊事情に起因するのではなく、国際的に普遍的なテーマなのだと感じました。