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クレジットカードのタッチ決済
公共交通分野でICカードといえば、SONYとJR東日本が開発したFeliCa技術を使うSuica等の交通系ICカードが普及しているが、2021年頃から「Visaのタッチ決済」[2]が参入し、一部の鉄道・バス会社ではクレジットカードのタッチ決済(以下「クレカタッチ決済」)で乗車できるようになった。これまでもクレジットカードを使って券売機で切符を買うことができる事業者はあったが、タッチ決済では切符を買うことなく自動改札機などにタッチして通過できる。紙幅の都合で詳しい仕組みは割愛するが、Suica等の使い勝手に似た利便性を提供できる新しい仕組みが導入されている。専用のカード不要で、買物等で使っているタッチ決済対応のクレジットカードをそのまま利用できるメリットもある。
ただし、Suica等は前もって現金等でチャージする手間はかかるものの、デポジット(カード代金)とチャージ額を支払えば誰でも利用でき、小児運賃や定期券にも対応している。
対してクレジットカードは審査を通る人しか利用できない(未成年者などは使えない)制限がある。
クレカタッチ決済はチャージ不要を便利と感じる人がいる一方で、後払いで、その場でいくら支払ったかわからない(後日まとめて請求がくる)ことを嫌がる人もいる。どちらも一長一短という感じだ。
空港連絡鉄道での導入が先行
クレカタッチ決済は欧米で普及しているタッチ決済対応のクレジットカードがそのまま使えることから、まずは外国人観光客が多く利用する空港アクセス鉄道・バスと九州での導入が進んだ。
例えば南海が一部駅で2021年から、福岡市地下鉄が2022年5月31日から、西鉄が2022年7月から、JR九州が2022年7月から、いずれも一部の駅・区間で導入している。
これらの事業者ではすでに交通系ICカードを導入しており、沿線住民などは引き続き交通系 ICカードの利用が便利だが、一時的に利用する外国人観光客などに対応することを主目的にクレカタッチ決済が導入された。
地方鉄道・バス事業者での導入
続いて地方の鉄道・バス事業者でも導入されるようになった。早かったのは岐阜県の長良川鉄道で、2022年6月から全線で導入。車内にタッチ決済専用の端末を設置して、整理券不要で乗降できるようになった。
地方の鉄道・バス事業者にとっては、独自のカード発行にかかる手間が不要なことと、Suica・ PASMO等の交通系ICカードよりも導入コストが比較的安いことが評価されているようだ。
長良川鉄道では大半が無人駅で、全38駅のうち切符を販売している駅は7駅しかない。長らく現金しか使えなかったが、2019年7月より「PayPay」に対応した。しかし乗車時に整理券を取って、降車時に運賃表を確認して手入力し、乗務員が確認する手間がかかっていた。クレカタッチ決済では整理券も運賃表との照合も画面確認も不要で、乗客と乗務員の負担を軽減できる利点がある。
ただしクレカタッチ決済では小児運賃や定期券には対応できない欠点がある。そこで長良川鉄道では、定期券はスマートフォンアプリ「QUICK RIDE」で発売している(一部の有人駅では従来の紙の定期券も発売されている)。
大手私鉄でもクレカタッチ決済の導入が進む
2024年になると、首都圏や関西の大手私鉄および地下鉄でもクレカタッチ決済を相次いで導入するようになった。東急(1月、世田谷線を除く)、神戸市営地下鉄(4月)、京王(11月)と西鉄(貝塚線を除く)は全駅に導入した。
さらにOsakaMetro、東京メトロ、近鉄、阪急、阪神、横浜市営地下鉄、西武、京急、ゆりかもめ、札幌市営地下鉄(発表順)などが2025年春頃までに導入を予定しており、2025年には多くの大手私鉄等でクレカタッチ決済が利用可能になりそうだ。
大手私鉄等はすでにPASMO・SuicaやPiTaPa・ ICOCAなどを導入済みだが、これらの置き換えを企図したものではなく、普及済みの交通系ICカードは継続利用される。
新たに導入されたクレカタッチ決済はPASMO等を持っていない観光客などの利用と、企画乗車券などへの応用が期待されている。
乗り放題などの企画乗車券を発売している事業者は多いが、こうした企画券はPASMO等への登載が難しいことから、今なお紙の切符での発売が主だ。東急や京王などの大手私鉄では、こうした企画券をクレカタッチ決済で(紙の切符を買わずに)利用できるようにすることが期待されているようだ。
脚注
[2] 三井住友VISAが主導しているが、JCBなどVisa以外のクレジットカードもタッチ決済に対応しているカードは利用できる。ただしMastercardは2024年11月以降順次対応予定。