井坂洋士
2025年5月、富山県東部の広範囲に鉄軌道およびバス路線を持つ富山地方鉄道(地鉄)が、鉄道路線の広範囲の廃止意向を表明した[1]。とりわけ本線の滑川~新魚津間と、立山線の岩峅寺~立山間では、地域から必要な支援を得られなければ2026年11月で廃線にすると表明。マスコミや地元議員が騒ぎ立て[2]、会社が弁明に追われる[3]一幕もあったようだ。

地元では「地鉄(ちてつ)」の略称で親しまれている
同社は富山市とその近隣の射水市などで路線バスも運営しているが、2025年10月には「運転手不足」を理由に一般路線バス16路線および都市間バス1路線が一斉に廃止され、他の路線でも減便された[4]。突然足を奪われた区間の利用者は「まるで見捨てられているよう」と困惑する場面が報じられていた[5]。
地鉄バスでは2025年6月末時点のダイヤでの運行に必要な乗務員(198名)に対し、25名が欠員となっていたという[6]。ところがバス路線の一斉廃止、鉄道線の廃止予告などで会社自体に経営難のイメージを持たれたのか、2026年度の新卒採用に応募した高校生は10月9日時点で過去最悪の0人だったそうだ[7]。「運転手不足」を理由に路線バスを減便・廃止したら人手不足が悪化するという負のスパイラルに陥っているように見える。
地鉄は「一県一市街化構想」を掲げて富山県の広範囲で公共交通を一手に担ってきた。県民生活と観光客の足を支え、雇用の場でもある、富山県を代表する地鉄の「経営難」は、富山県の経済に影を落としている。
(掲載写真・図表は特記無い限り筆者撮影・作成)
【脚注・出典】
1. 富山地方鉄道「支援なければ廃線検討」 鉄道事業赤字8億円(日本経済新聞、2025年5月29日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC297260Z20C25A5000000/
2. 県議会から批判噴出 富山地鉄2路線廃止方針 「脅迫のよう」「被害者は県民」(北國新聞、2025年9月6日) https://news.yahoo.co.jp/articles/a4fe16fee535a94364a65eae46aa5e12eb0f3227
3. 弊社鉄道線における関係自治体との協議状況等について(ご報告)(富山地方鉄道) https://www.chitetsu.co.jp/wp-content/themes/custom2/pdf/top/local-government-consultations.pdf
4. 【お知らせ】令和7年10月1日の路線バスダイヤ改正について(富山地方鉄道、2025年9月12日) https://www.chitetsu.co.jp/?p=79120
5. 「まるで見捨てられているよう」富山地方鉄道、運転手不足で17路線バス廃止 住民から嘆きと困惑の声(FNNプライムオンライン、2025年10月1日)
https://www.fnn.jp/articles/-/939447
6. 富山県生活路線バス協議会 令和7年7月4日 第1回協議会資料 https://www.pref.toyama.jp/8000/kendodukuri/koukyou/koukyoukoutsuu/seikatsurosenbus/kj00070710.html
7. 経営悪化の「富山地方鉄道」新卒4職種採用、高校生からの応募ゼロ…選考の期限は設けず(読売新聞、2025年10月11日) https://www.yomiuri.co.jp/economy/20251010-OYT1T50055/
