富山地方鉄道の存廃問題~県民経済をつなぐ地方鉄道の現状~

自治体の参画が求めらている

地方鉄道の運営はこれまで鉄道事業者が丸抱えしてきたが、道路改良が進みクルマ依存が深刻化した昨今、鉄軌道の維持活性化には自治体の参画が欠かせない。

富山県でも手をこまぬいて見ているわけではなく、例えば高岡駅を起点とするJR城端線・氷見線は、鉄道施設等を県と沿線4市およびJR西日本の負担で改修し、第三セクター[8]の「あいの風とやま鉄道」が引き継ぐことになった。地域公共交通活性化再生法(2023年10月改正)に基づく「城端線・氷見線鉄道事業再構築実施計画」が2024年2月に認定され[22]、自治体が参画することで国の社会資本整備総合交付金などを活用できる。

城端線の輸送密度は2,481人/日、氷見線は 2,157人/日であり(いずれもコロナ禍の2022年度)、通勤通学時間帯には混み合う。日中は毎時1本程度しかないが、増便と車両および軌道の更新、交通系ICカード(ICOCA)対応などにより利便性を向上させて乗客を増やす計画となっている。
今の国の公共交通支援制度では、国が主体的に動くことはなく、実質的に自治体の参画が前提になっている。その是非はともかくとして、地鉄もそれを解っているからこそ、まずは自治体に支援を求めているのだろう。

富山地方鉄道鉄道線のあり方検討会

2025年5月に鉄道路線の広範囲の廃止をほのめかし[23]、物議を醸した富山地方鉄道(地鉄)だが、廃止ありきと考えているわけではなく、自治体の参画を得て国の補助制度を活用して再生を図りたい考えなのだろう。
富山県での鉄軌道の廃線は1984年が最後で[24]、以降はJRや地鉄の手からは離れても、富山県や沿線自治体が参画して存続させてきた。富山県は鉄道の存続に前向きであり、鉄道に冷酷な北海道などとは状況が異なるが[25]、しかし地鉄周りのごたごたぶりを見ると、予断を許さなさそうだ。

地鉄の鉄道線については、富山県の「富山地方鉄道鉄道線のあり方検討会」が2024年11月に設置され、2025年より「本線分科会」「立山線分科会」「不二越上滝線分科会」に分かれて沿線自治体と地鉄が協議してきた。
大部分が富山市内を走る不二越上滝線の分科会においては、富山市が迅速に利用状況を調査し、今後の展望を示して、地域公共交通活性化再生法に基づき「みなし上下分離」される方向で固まった。
かつて廃止が取り沙汰された旧JR富山港線は富山市が引き受けて投資し、富山ライトレール(現在の地鉄富山港線)として蘇った。その実績を近隣市町も間近に見ているはずだ。

ところが、他の沿線市町は富山市ほど迅速な行動をしておらず、富山市以外の市町と県は責任の押し付け合いのような構図になっている。そこで、地鉄は富山市の迅速な行動を歓迎するとともに、他の不採算線区では廃線手続きを進めることで沿線市町の行動を促しているものと思われる。

JR富山の駅前広場を出る路面電車の写真です。
富山市が富山港線に投入したLRV「ポートラム」

 


【脚注・出典】

22城端線・氷見線鉄道事業再構築実施計画の認定について(あいの風とやま鉄道) https://ainokaze.co.jp/17634
23. 富山地方鉄道「支援なければ廃線検討」 鉄道事業赤字8億円(日本経済新聞、2025年5月29日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC297260Z20C25A5000000/
24. 鉄道線では1980年に廃止された地鉄射水線の新富山~新港東口間が、市内軌道線では1984年に廃止された西町~不二越駅前間が最後。以降に廃線が取り沙汰された旧JR富山港線は富山市が引き受けて投資し、富山ライトレール(現在の地鉄富山港線)として復活した。
なお、2006年に神岡鉄道が廃止されているが、JR高山本線と連絡する猪谷駅以外は岐阜県のため、除外している。
25. 三セク移管検討のJR西日本、「城端線・氷見線」 富山県は資金面で主導の方針(鉄道乗蔵、2023年8月6日) https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/28903222a8869e996a94c0cde1c320b2265f5bfe