最近、警察庁は、歩行者の安全向上に関する道路対策を2つ打ち出しました。1つは生活道路の法定速度引き下げ、もう1つは、歩車分離式信号の設置基準緩和です。どちらの対策も、当会でもかねてより要望してきたことであり、大きな前進です。
その1 生活道路の法定速度時速30㎞に引き下げ
2024年7月23日、道路交通法施行令の一部改正が閣議決定され、いわゆる生活道路(センターラインや中央分離帯がなく、多くは道幅が5.5m未満の道路)の法定速度が時速30㎞となることが決まりました。2026年9月より施行される予定です。これまでは、指定速度のない道路は、住宅地や学校付近の生活道路でも時速60㎞で走行可能とされており、疾走する車による歩行者被害が絶えませんでした。
当会では20年以上前から、生活道路を時速30㎞以下とし、ハンプなどの速度抑制対策を講じるよう求める要望を警察庁や内閣府に何度も伝えてきました。ようやくそれが実を結んだことは、うれしい一歩です。
ただし、日本は速度違反が常態化し、違反することへのドライバーの罪の意識も薄いので、スピードカメラによる取り締まりなど、違反を防ぐ対策の強化も重要です。こうした要望を引き続き続けていきます。
その2 歩車分離式信号の設置基準緩和
2025年1月末、警察庁は、歩車分離式信号について、23年ぶりに指針を改定し、導入基準を緩和しました。歩車分離式信号とは、交差点で自動車の通過と歩行者の横断が交わらない(右左折車との交錯も防ぐ)ように信号を制御する信号機です。これまでは、歩車分離信号の導入指針がいろいろ厳しく、設置率が全国の信号の5%に留まっていました。今回の改訂では指針を緩和し、設置を積極的に進めていく姿勢が示されました。
★導入基準(指針)のおもな変更点(文章は一部省略改変しています)
2002(平成14)年の指針
- 歩車分離式信号であれば防止できたと考えられる事故が過去2年間で2件以上発生している場合。
- 児童などの交通の安全を特に確保する必要があり、かつ、住民から歩車分離式信号導入の要望がある場合。
↓
2025(令和7)年の新たな指針
- 歩車分離式信号機があれば防止できたと考えられる事故が過去5年間で2件以上発生している場合、その危険性が高いと見込まれる場合、死亡事故があった場合。
★旧指針では歩車分離式信号機により防げた事故が「過去2年間で2件以上発生」だったが、新指針では「過去5年間で2件以上発生」「その危険が高い」「死亡事故があった(1件でも)」場合に緩和された。
- 児童などの交通の安全を確保する必要がある場合。
★旧指針では「安全を特に確保する必要がある場合」だったが、新指針では、「特に」の文字が消えた。また、旧指針では「住人からの導入の要望」が必要条件とされていたが、新指針では不要となった。
歩車分離式信号の必要性は、当会会員でもある長谷智喜さん(命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会会長)が、ご子息の事故を契機に、30年以上にわたり訴え続けておられます。右左折車による事故の被害者ご遺族とともに設置の要望をしたり、全国各地で市民や交通関係者を対象に講演などもされています。
警察庁でもその必要性は認識しています。2002年の警察庁の試験運用調査では、歩車分離式信号運用後は歩行者事故が約70%減り、全交通事故も約40%減ったという効果が報告されています。
一方で、歩車分離式信号にすると交通渋滞を招く懸念があるとされ、設置が進まない一因とも見られてきました。しかしながら、上記の試験運用調査では渋滞は約2%減少しています。また、長野県警による歩車分離信号機設置の前と後の調査(2001~2009年)では、渋滞は設置後に26%減少したと報告されています。
当会でも、歩車分離式信号の増設を繰り返し要望しています。直近の2024年7月に警察庁に提出した要望書の中でも、次のように設置基準を緩和する要望を記しました。
★提出文:交通弱者の人命と安全な移動を最優先で守る道路交通対策要望・警察庁宛 24.7.28
「4:多発する交差点での事故、右左折車による歩行者や自転車利用者の被害を減らすため、歩車分離信号の増設を、設置条件の前向きな見直し(ヒヤリ事故が1件でも起きたら検討する、等)とともに要望いたします。
(補足理由)
歩車分離信号は、「過去2年間に右左折による人対車両の事故が2件以上発生した場合」等の設置条件や、渋滞への考慮を求める指針などがあり、設置率は未だに全信号の5%に届きません。しかし、渋滞より安全が重要であり、状況により渋滞はむしろ減るというデータも警察庁は示しています。右左折事故が起きやすい交差点、1件でもヒヤリ事故の起きた交差点などを対象に、「事故が起きる前」の設置を進めてください。」
今回の指針改定は、長谷さんをはじめ多くの交通事故ご遺族や、人命の安全を第一に求めてきた人々のご尽力の賜物であり、また、当会の活動もそのあと押しの力となったと確信しています。
本年1月末に警察庁長官に就任した榊芳伸氏は、交通畑が長く、産経新聞の取材に対して「交通事故の被害者を一人でも減少させるようしっかりと取り組む」と語っておられます(2025.1.30付「人」)。その言葉を信じ、これからもさらに、歩行者や自転車の安全を守る道路交通システムを、「事故が起こる前の整備」を、繰り返し求めていきたいと思います。