郷原信郎著
KADOKAWA
2023年3月20日刊
四六判/272頁
1760円 (税込み)
ISBN:9784046061539
この本は、理系出身でありながら司法試験を受け、検察官として奉職した異色の経歴を持つ著者による、司法に関わるいくつかの問題の実例を告発した啓蒙の書である。
目次にある様にテーマは広範囲にわたっていてそれぞれ読み応えがあるが、評者は第五章が読みたくて、本書を手に取った。
最近の池袋の暴走事故でも、最初被告は自動車の制御機構の誤動作を強く主張していた。しかし、結局それは否定され、有罪となった。では、現実に事故後の自動車の事故原因究明はどうやって行われているのであろうか。そこには信じられない実態が隠されていることが本書によって明らかにされる。本書では軽井沢のスキーバス転落事故などを取り上げて、警察がどのようなやり方で証拠固めをしているかがつまびらかになる。
以前より警察当局の理系マンパワー不足には懸念を抱いていたが、この本で明らかにされる実態を知ると、真の原因が隠され、全て運転者の罪にされてしまう惧れがひしひしと伝わってくる。今後の自動運転の事故原因究明に際しても、同様の問題が生ずる強い危惧を抱かざるを得ない。事故調査委員会の設置など市民として要求すべきことはある筈だ。 (SS生)
【目次】
第一章 刑事司法が「普通の市民」に牙をむくとき~日本の刑事司法制度で被告の訴えは届くか
第二章 「日本の政治」がダメな本当の理由~「公選法」「政治資金規正法」の限界と選挙買収の実態
第三章 東電旧経営陣への一三兆円賠償命令という「異常な判決」~「原子力損害賠償請求法」とガバナンスなき電力会社
第四章 「消費税は預り金」という“虚構”が日本経済を蝕んでいる~転嫁困難な中小企業が置かれた厳しい環境
第五章 交通事故の加害者が“つくり出される”とき~「自動車運転過失致死傷罪」による事故原因究明は正しいか
終章 “歪んだ法”をなくしていくために~急がれる法教育の導入