7. 判決を受けて
判決は求刑禁錮4年に対して「禁錮2年6ヶ月」という実刑判決が下されました。この刑期は他の罪状と比較してみると「数百万円規模の横領罪」や「複数回の窃盗罪」と同等の期間です。被害者感情や一般世論から見ると何て短いのだと思われる方が多いかと思いますが、今回の罪状である「過失運転致死傷」の判決の中では極めて重い判決であるというのが法曹界での評価のようです。
私も実際に当事者となって驚愕しましたが、R5年度の犯罪白書では過失運転致死罪で立件された罪の96%は第一審では執行猶予付きの判決となっています(図3)。
人を殺めても多くの加害者は服役することなく社会復帰できている現実があります。
私は正直なところ、裁判前は「倖が戻ってこないのであれば早く裁判を終結させて、家族の日常生活を少しでも落ち着かせたい」との思いがありました。
ただ、倖のメッセージでもある「同じ思いをする子が出てこない世の中」を実現していくためには、ここで裁判を終わらせてはいけないと思い、検察に控訴していただくよう要請を行いました。
しかし、検察の判断としては、控訴に必要な要件 1 を満たしていないとの判断により、受け入れられませんでした。
また、今回の起訴罪状は「過失運転致死傷罪」であり、それよりも重い量刑である「危険運転致死傷罪 2 」は適用されませんでした。その理由を検察に確認したところ、「意識障害を引き起こした要因を薬物の影響と裏付ける客観的(定量的)事実 3 がなく、その点を追求されると裁判が不利になる可能性がある」との理由でした。
理屈はわかるのですが、検察には起訴した案件が無罪になることを嫌う組織の建前、プライドが働くことも含め、現在の法制度には条文と実情との間に落とし穴・抜け道が存在していることを痛感させられました。
犯罪被害者にとって本来罰せられるべき罪状で裁かれないことは二次被害と言っても過言ではない苦しみとなります。現在適用要件の見直し(基準の明確化≒数値基準の設定)が法務省内で検討されていますが、数値基準が設定されたとしても、アルコール検査以外の検査値を初動捜査段階でどれだけ確認できるのか、懸念は残っています。
1 控訴要件は①事実誤認②量刑不当のどちらかである
2 危険運転致死罪(正しくは「自動車運転死傷行為処罰法」)における危険運転行為の中に「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」が含まれている
3 例えば「事故発生直後の血糖値がXmg/dl」のような検査値指標が必要