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書籍の紹介 『真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち』

投稿日:2024年9月16日 更新日:

書籍「 真冬の虹」の表紙です

「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」

柳原三佳 著 若葉文庫 2024年7月刊
A5版 192ページ 1,650円(税込)
ISBN 978-4908752216

著者の柳原三佳さんは、交通事故被害者のおかれた不当な立場の現状や司法の問題などを多く取り上げているジャーナリストです。本も多く出されており、本会でも2014年に「取材から見えてきた『危険運転』の現実」というテーマでご講演いただきました

この新刊で柳原さんは、コロナ禍の頃に出会った交通事故被害者ご遺族の話や現場の状況、裁判の判決などを追い、今も繰り返され続ける交通事故の理不尽な現状と課題を伝えています。事故現場の初動捜査に不備や甘さが多いこと
(加害者のスマホを押収することもしない例があるなど)、被害者が死亡した場合加害者の言い分が通りやすく被害者は濡れ衣を着せられやすいこと、疑問を正すには被害者遺族が自ら調べて証拠を集めなければならないこと、確信犯的な違法運転や非常識な運転操作で相手を死なせてもほとんどの判決は加害者に甘く執行猶予がつくこと、過去に死傷事故歴が複数あっても職業運転手として働けること、死亡ひき逃げ逃走犯の時効が過失致死罪逃走犯の時効より3年も短いこと……等々。

突然の交通事故で命を奪われる、あるいは重傷を負わされるということ自体あってはならないことなのに、その被害に遭った側がこれほど不当で納得しがたい状況におかれていてよいのか、――穏やかな文の中にも、現状放置の政府や警察や司法への強い疑問が垣間見えます。

交通事故が絶え間なく起きる中で、警察も司法も数をこなすのに追われ、「前例にならう」ことしか考えずに黙々と「処理」している、というのが現実でしょうか。ほとんどの国民は、事故被害に遭うとこのような理不尽な現実と直面するかもしれないとは全く知りません。いや、国民が知らないから、平然と繰り返されているのかもしれません。
そうした疑問と同時に、本書に記された被害者ご家族の方々の話からは、かけがえのない家族、慈しみ育てたわが子を突然車につぶされて奪われることの残酷さ、やり場のない怒りや絶望感、一生癒えることのない悲しみの深さが、痛いほど伝わってきます。

本会会員である佐藤清志さんや長谷智喜さんのお話も登場します。
コロナ禍にスポットを当てたことについて、柳原さんは、『はたして、交通事故から命を守る対策にも、感染症と同じだけの熱量が注がれてきたといえるだろうか……』という疑問を抱いたこと、『同じ「命」であるはずなのに、その優先順位に差がつけられているような気がしてならなかった』という思いをあとがきに記しています。 (A)

講演報告は会報76号に掲載されています。

 

書籍の紹介 『移動から公共交通を問い直す コロナ禍が気づかせたこと』

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