サステイナブルな世界をつくろう!

林 裕之

物価高が続いている現在、日本では減税の必要性が声高に叫ばれています。確かに生活必需品を含む物価の高騰は所得の低い人々などの生活を直撃しています。しかしこれは減税すれば解決する問題ではないと思います。減税をするには財源が必要です。必要な財源を見つけることが困難であるという状況で大規模減税をすれば、社会保障関連などの予算が削減され、かえって国民の生活をより苦しくしかねません。また、赤字国債の発行を増やせば、若者や子ども達へのより重い負担となるでしょう。この問題には慎重に取り組まなくてはならないと思います。

特に私は、政府の方針が、ガソリンへの補助金の続行やガソリン暫定税率の廃止に向けて動いていることに大きな懸念を抱いています。政府はすでに8兆円を超える金額をガソリン補助金に投じていますが、これを続けるとその額はさらに大幅に増加するでしょう。また、ガソリン暫定税率を廃止すれば約1兆5千億円の税収減になります。このような施策が自動車走行量の増加とそれに伴う事故の増加(下げ止まり)につながる恐れがあるということや、地球温暖化(地球沸騰化)対策に逆行することにもなるということも重大な問題です。

昨年(2024年)の世界の平均気温は記録が残る 1850年以降最も高く、産業革命前と比べて1.6℃上昇したとEU(ヨーロッパ連合)の気象情報機関が発表しました。また、北極で冬季に観測された海氷の最大面積はデータが残る1979年以降で、観測史上最も小さくなっていることがJAXA(宇宙航空開発機構)と国立極地研究所の観測で分かりました。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書によると、2081~2100年の地球の平均気温は、温室効果ガスの「非常に高い排出シナリオ」では、産業革命前と比べて4.4℃前後上昇し、「非常に低いシナリオ」でも1.4℃前後上昇するとしています。そして10年に一度の豪雨は、2℃上昇で1.7倍に、4℃上昇で2.7倍に、10年に一度の熱波は、2℃上昇で5.6倍に、4℃上昇で9.4倍になると予想しています。さらにこうした異常気象の増加は、農業生産量や漁獲量の大幅な減少とそれに伴う難民の激増、紛争やテロの拡散などをもたらすと考えられます。温暖化(沸騰化)対策はもはや一刻の猶予もない状況です。決してそれに逆行するようなことをするべきではないと思います。

大気汚染の問題もあります。WHO(世界保健機関)は、世界で一年間に600万人以上が大気汚染で死亡しているとみられると発表していますが、その主な原因の一つがガソリンや軽油の燃焼です。こうした化石燃料の消費を大きく削減する努力こそ必要なのです。

また日本のガソリン価格は国際的に比較しても決して「高い」とは言えません。今年4月26日時点では1リットルあたりレギュラーで181円です。イタリア、フランス、ドイツは280円を超えています。イギリスも266円です(ヨーロッパ諸国の価格は昨年11月時点)。ガソリン補助を続けたり、ガソリン減税を行うとしても、それは自動車を使用せざるを得ない生活困窮者や日々の活動においてまとまったガソリンを消費せざるを得ない第一次産業従事者、特別の事情がある中小企業などに対象を限定するべきです。そして少しでも自動車に乗らなくてもすむように、公共交通機関の充実や自転車道・歩道の整備などに取り組むべきです。

フランスには、Après nous(moi) le déluge という言葉があります。これは18世紀のフランスの国王ルイ15世の愛人であったポンパドゥール公爵夫人が言ったとされています。直訳すれば、
「私たち(私)の後には洪水」になりますが、「私たち(私)が去った後に何が起ころうと知ったことではない」という意味があるとされています
(別の解釈もあります)。私たちはこのような考え方をするべきではないと思います。私たちは目先の利益を追求するのではなく、将来の世代のことも、異なった環境に暮らす人々のことも、そして人間以外の生きとし生けるものすべてのことも考え、世界を持続可能(サステイナブル)にするための行動をする必要があると思います。

(山口県下関市在住)