クルマ社会 ~過度なクルマ依存~
クルマ社会(車社会)は、人の移動手段、物の輸送手段が自動車に過度に依存している社会です。
単に移動方法が自動車に依存しているばかりでなく、自動車の便益を維持・拡大させるために、人の生命・安全さえ軽視するという倒錯した傾向さえ見られます。
さらには、自動車に関わる制度・利益を優先させるあまり、社会の根幹の政治理念・正義理念に歪みをきたし、クルマ問題を黙過し、クルマの弊害を受忍するよう誘導するまでに至ります。
クルマ社会の問題
交通事故 ~たくさんの死傷者が出続けています~
交通事故死傷者は 2004 年をピークに減少してきているものの、年間100万人以上が負傷、約4500人が死亡(事故後1年以内)しています(2020年までの5年間の平均)。毎分2人が死傷事故に遭っていることに。
日本が他先進国に比べ歩行中・自転車乗車中の死傷割合が多いことは、安全対策の歪みが表れています。
また、交差点で歩行者が青信号に従ったにもかかわらず右左折車に巻き込まれて死傷する等の事故が後を絶たない状況があり、歩行者の安全を最優先にした道路設備・自動車規制等の諸対策が急務です。
大気汚染・騒音・振動 ~健康被害も深刻です~
15 歳以上人口のうち喘息治療のために通院している人の率は1989年~2004年の期間一貫して上昇し、また幼児、小・中・高の児童生徒のいずれも、喘息の被患率は1972年~2006年の期間ほぼ一貫して上昇し、現在もそのレベルが続いています。
ハウスダストなどのアレルゲンが喘息の原因である場合もありますが、自動車が出す排気ガス中の粒子状物質(PM2.5など)によって呼吸器疾患が憎悪することが明らかになっています。
沿道住民が騒音や振動による健康被害・苦痛感を訴える例も多くあるにもかかわらず、さらなる道路建設による地域破壊、自然破壊が進行しています。
公共交通の衰退・交通弱者の増加 ~クルマに乗れない人に不便なまち~
6歳以上の人口において、おそらく約3割前後の人々がクルマを運転できない交通弱者の立場にあると推測できます(2022年、当会試算)。
クルマ利用を前提とした、交通弱者に無配慮な都市計画を進める政策のもとで、採算のとれない公共交通は切り捨てられ、多くの地方で中心市街地の空洞化が進んだ結果、クルマに乗れない交通弱者の困難はさらに深刻になってきています。
交通弱者は、通勤・通学・買い物などの日常生活にも支障を抱え、割高な交通費を負担することになります。医療を受ける機会が制約されることは生命にもかかわる問題です。
また、代替移動手段がないという理由で、高齢になって知覚能力等が低下してもクルマの運転をやめることができず、重大事故を起こす事例が増えています。
地球温暖化 ~取り返しがつかなくなりつつあります~
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によれば、産業革命前に比べて地球の平均気温が2℃上昇すると、10年に1度の熱波に襲われる確率は5.6倍に増加するなど温暖化の影響の顕在化が予測されています。
そこでパリ協定では気温上昇をできれば1.5℃に抑えるとしています。その目標を達成するには、CO2 などの温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすることが必要です。 日本では運輸部門からのCO2排出量は全体の約19%で、その9割近くが自動車によるものです。走行中はCO2 を排出せず、再生可能エネルギー電力の使用を前提にCO2 排出を減らせるとされている電気自動車も、製造過程ではガソリン車の2~2.5倍のCO2を排出すると言われています。子孫に少しでも健全な地球環境を残すために、クルマの生産と走行を大きく減らす必要があります。
政治理念・正義理念の歪み ~弊害を容認・放置する社会~
クルマ社会の問題は、上記のような自動車が直接的に発生する弊害ばかりではありません。
自動車に関わる制度・利益を優先させるあまり、社会の根幹の政治理念・正義理念に歪みをきたし、クルマ問題に目をつぶり・固定化して、国民に対してはクルマ利用の偽りの享楽を与え、クルマの弊害を受忍するよう誘導するまでに至ります。
このような様相は、自動車交通・道路交通の範囲にとどまらず、社会の構造全般に影響すると危惧されます。
クルマ社会を問い直す ~人の命と安全を優先する社会へ~
クルマは便利な乗り物です。しかし、多くの問題を起こしている事実を受け止めねばなりません。あまりにクルマ優先に偏った社会システムの現状を反省し、道路や交通安全教育・免許制度のあり方、クルマ利用や公共交通のあり方、都市計画のあり方、自動車関連税制のあり方、交通事件司法のあり方などを根本的に考えなおす必要があります。
クルマ社会を問い直す会は、クルマ優先社会を変えることをめざす全国の仲間が集まり、1995年春に結成されました。これまで行政等への要請、出版など様々な取り組みを行ってきました。北海道から沖縄まで、全国各地で仲間が活動しています。