駐車場の費用すら負担していない自動車利用者
もうひとつ、自動車の利用に不可欠なものが駐車場だ。自動車は出発地と目的地を直接結ぶ便利な移動手段だと喧伝されるが、利用するには道路が必要であることに加え、出発地と目的地の両方に駐車場を整備する必要がある。
道路(渋滞)と駐車場の問題は電気自動車(EV)になったところで何も解決せず、公共交通や自転車など他の交通手段への転換でしか解決し得ない。
とりわけ地価が高い都市部においては道路用地の確保に加え、駐車場の確保には費用が嵩むし、供用するには機械の導入や警備員の配置といった維持負担も生じる。
ところが商業施設等では駐車場にかかる費用を徴収せずに無料で提供する例も多く、自動車ユーザーの費用負担を過少化し、不要不急の自家用車利用を増大させる一因となっている。
日本交通計画協会の会報誌『都市と交通』136号では、田中伸治氏が「駐車マネジメントを論じた海外文献」を紹介していた[11]。その冒頭で米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のドナルド・シャウプ名誉教授が2005年に出版した著書『The High Cost of Free Parking』[12]が紹介されていたが、自動車分担率が極めて高い米国ですら駐車場提供にかかる費用は大きく、しかし受益者の費用負担が極めて過少(無料など)であることを指摘しているという。
日本の都市部では公共交通や自転車の分担率も高く、例えば東京都23区では自動車の旅客分担率はわずか8%だが、そのために商業施設や公共施設等は多額の費用負担をして駐車場を整備し、それを自動車利用者にだけ無料で提供している施設も多い。一方で鉄道やバスで来店した客は運賃を自腹で負担せねばならず、酷い店ではクルマはタダで駐車させ、自転車での来店客には有料駐輪場へ誘導していたりもする。

東京都市圏パーソントリップ調査より代表交通手段分担率[13]
そして都市部においても鉄道運賃が値上げされているが、政治家やマスコミはこの問題に触れることなく、自動車ユーザー(の背後にいる自動車メーカー)にのみ擦り寄って「ガソリン値下げ」が声高に叫ばれ、マスコミもそうした矛盾を論ずることすらしない。まさに「車輛覇権」を地で行っているのが今の日本なのだろう。
【脚注・出典】
11. 日本交通計画協会刊『都市と交通』通巻136号
12. 原著は英語であることに加え、600ページ以上もの大作で、価格も152ドル(約22,800円)もしてハードルが高い。
13. 2018年(平成30年)実施の第6回東京都市圏パーソントリップ調査結果より地域別代表交通手段分担率(ニューズレター vol.35 より抜粋引用)