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駐輪場をめぐる問題
自動車の交通分担率の高い名古屋ならではかもしれませんが、駐車場に関していえば都心部でも民間による供給が潤沢で、市の調査によれ ば(平成27年といささか古いものではありますが)ピーク時でも利用率は6~7割だそうです。そのため平成29年には駐車場の附置義務は見直され、附置義務台数が緩和されました。いっぽう、都心部の駐輪場は、記事の最初でも述べたように、大幅に不足しています。令和5年春の自転車放置禁止区域拡大時点で整備されていた駐輪場の収容台数は、令和元年に調査して判明した総駐輪台数の6割を切っていました。さらには有料化に伴って駐輪場の区画は定期利用と一時利用とに分けられるため(これは自治体によるのかもしれませんが、名古屋市が鉄道駅周辺に整備する場合は一定割合の定期利用枠が確保されることになっているようです)、有効に使えない部分がどうしても生じてしまいます
こうした状況下では、商業施設側が「駐輪場を無料にしておくとうちの店で買い物しない人にも駐輪されるかも」「なんのために駐輪場を作ったのかわからない」「自転車を捨てられでもしたら処分費用がかかってしまう」などと考えても不思議はありません。こうした懸念について以前市に訊ねた際には、それは施設側が考えることだ、とくに対応は予定していない、などとつれない返事でしたが、たとえば
- 不正駐輪で収容台数が減ることに対する補償として、店舗利用客に配布するための周辺有料駐輪場で使える回数券を発行する
- 無料の駐輪場を有料化するための施設整備費用を助成する
といったような対応が可能なのではないでしょうか。
求められる条例改正案
上に挙げたような、公設駐輪場の有料化に伴う問題について考慮されていなかったことも附置義務条例の問題のひとつですが、改善すべき点は他にもあります。
- 職員用駐輪場の定めがない
商業施設に自転車に乗ってくるのはお客さんだけではありません。職員用駐輪場についても、施設利用客用としっかり区別して確保するべきです。 - 対象が集客施設に限定されている
上で紹介したように、本来は利用客用とすべき駐輪場が契約者(おそらくはほとんどが職員)のみ利用可となっていて、しかもスペースが8割がた埋まっているといった例も珍しくありません。利用客がいないような、事務所・事業所ばかりの建物であっても、職員の人数に応じた収容台数の駐輪場設置を義務付けるべきです。広島市や札幌市は条例の対象に事務所を含めているようです。 - 公共施設の附置義務台数の基準がない
条例では「施設の利用者のために必要な自転車駐車場を設置するように努めなければならない」者として「官公署、学校、図書館等公益的施設の設置者」が挙げられているのですが、公益的施設の設置者に対しては面積あたり何台といったような基準が定められていません。それもあってか、公共施設でありながら、周辺駐輪場が有料化されたからという理由で施設付属の既存駐輪場を閉鎖してしまうところまで出てきました(50台以上が駐輪可能だったスペースはその後シェアサイクルのポートに転換され、最終的には11台ぶんの施設利用者向け駐輪ラックが設置された)。 - 案内表示の基準がない
私の知る例では、札幌市が令和6年2月の条例改正※によって、駐輪場の位置や利用方法をわかりやすく表示すべし、という項目を追加しました。名古屋市も見習うべきでしょう。
※自転車等駐車場の設置等に関する条例/札幌市 https://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/tyuusya/kyodojyutaku/bicycle.html - アクセシビリティの基準もない
地下や屋上の駐輪場はエレベーターに乗らないとたどり着けないのですが、これが一般利用客と共用だと、なかなか自転車を乗せられなかったり、一般客の視線が気になったりするものです。名古屋市ウェブサイトの条例紹介ページにも「エレベーターは自転車利用者専用とすることが望ましいです」との記述がありますが、やはり条例内で明示的に専用あるいは優先エレベーターの設置を義務化してもらいたいところです。 - 距離基準がゆるい
条例では駐輪場の位置は施設の「敷地からおおむね50m以内」と定められています。これは国が発出した標準条例の記述をそのまま採用したものと思われますが、50mという数字は「敷地の境界から境界までの直線距離」と解されているらしく、店舗正面入口から駐輪場入口まで100m超などという施設が存在しています。遠すぎる駐輪場は使われない駐輪場です。正面入口からの距離あるいは(エレベーター移動なども考慮して)所要時間を基準とすべきです。