人手を介したサービスは縮小・廃止される
一方で、首都圏を含む比較的小規模な駅では自動化・無人化が進められていて、人手を介したサービスは段階的に縮小・廃止されている。近頃は早朝深夜や昼間などに駅係員が無人になる駅もよく見かけるようになった。
例えば例年春夏冬の長期休暇時期に発売されて老若男女を問わず人気のある企画乗車券「青春18きっぷ」は、お得さもさりながら、利用期間内の好きな日に使える利便性が好評だった。しかし乗車時に駅係員に日付印を入れてもらう(無人駅から乗車の場合は車掌に申し出て手書きで日付を入れてもらう)必要があり、自動改札機を通れなかった(駅係員や車掌がいることが前提になっていた)。
これが2024年12月利用分からリニューアルされて[10]日付印を廃し、自動改札機を通れるようになる一方で、好きな時に利用できる利便性が失われる(購入時に利用日を指定する必要がある)ことから話題になった。自動化により便利になる一方で、残念だが人手を介するサービスは段階的に廃止されるのかもしれない。
決済インフラの「乗り換え」を後押しする国の補助制度
電子マネーの先駆けとなるプリペイドカードは公衆電話から普及し、バスカードなどに発展した。そして技術の進展とともに非接触ICカードを使う「電子マネー」に進化し、Suicaなどの鉄道でまず普及したが、昨今は他の買物等でも電子マネーやコード決済が普及している。
買物でも現金の扱いは負担になるが、鉄軌道やバスでは乗車の度に運賃表を見て小銭を出して支払うことになるため尚のこと煩わしかった。
Suica・PASMO等が普及した都市部で利便性を享受している人なら想像できるだろうが、今さら昔のように乗る度に券売機に並んで紙の切符を買う頃に逆戻りはできないだろう。
しかし地方によっては今でも都度乗車前に紙の切符を買わねばならない(あるいは車内で運賃表を見て小銭を出して支払わねばならない)不便を強いられている地域も少なくないのが実情だ。こうした運賃支払いの煩わしさが公共交通離れの原因になってしまってはいけない。
現金の扱いは、無くすことはできないにしても、事業者・乗客双方の負担になるので、減らすのが望ましい。
しかし中小鉄道・バス事業者にとっては運賃箱の更新費用も重荷になる。国や自治体には公共交通のキャッシュレス化を積極的に支援してもらいたいし、今年は新紙幣の導入という後ろ向きな理由はありつつも、キャッシュレス化が進んだことは乗客にとっては望ましいと言えるだろう。
ところが、決済インフラを「乗り換える」動きも出てきた。例えば熊本市では「くまモンの IC CARD」を導入しており、従来のFeliCa方式(Suica等で採用されている)では全国交通系ICカードも利用できるが、これをNFC-A方式(クレカタッチ決済で採用されている)に切り替えることにした。
機器の更新に際し従来のままだと国の補助金が出ず全額事業者負担になるが、他の方式に切り替えると国の補助金が出て事業者負担を軽減できるというのが理由のようだが、全国交通系 ICカードからの離脱に市民から反対の声が挙がっているようだ[11]。
事業者としては設備負担を軽減したい思いも理解はできるが、誰でも乗れることが重要な公共交通において、利用者を無視して一方的に決済システムをころころ変えるのはいかがなものかと思う。
誰もが利用しやすい公共交通にするためには、国も補助金の在り方を見直し、決済システムの「乗り換え」にしか補助金を出さないといった意地悪をせず、また新札発行などの際には手厚く手当てすべきではなかろうか。
(掲載写真は全て筆者撮影)
脚注・出典
[10] 「青春 18 きっぷ」「青春 18 きっぷ北海道新幹線オプション券」の発売について https://www.jreast.co.jp/press/2024/20241024_ho01.pdf
[11] 熊本市電・バスの全国交通系IC決済、「廃止」方針に抵抗強く 熊日S編アンケート 若い人ほど「反対」(熊本日日新聞、2024年6月12日)https://kumanichi.com/articles/1449761