『鉄道ジャーナル』誌の休刊
そんなこんなの状況を踏まえて『鉄道ジャーナル』誌の話に戻ると、同誌は新刊も既刊も電子化されることのないまま、休刊になるそうだ。きっと様々な事情があったのだろうが、同誌が発信してきた日本の鉄道の置かれた状況を振り返る役割と、今後の発信の担い手の不足を思うと、残念に思う。
しかし休廃刊となる雑誌は多数あるものの、他社に継承されて継続刊行される雑誌もまた少なくない。例えば先に触れた、倒産した枻出版社が発行していた自転車雑誌などは他社に引き継がれて継続している。今回『鉄道ジャーナル』誌が休刊を決めた背景には「出版不況」のみならず、鉄道をはじめとする公共交通の衰退と、その問題への社会の関心の低さもあったのだろう。ここ数年の『鉄道ジャーナル』誌では「凋落のメインライン(本線)」といった鉄道の衰退を題材にする連載も行われていたが、鉄道の衰退が読者離れの一端を担っていたであろうことは想像に難くない。
同誌はあくまで趣味雑誌なので、売上が減れば休刊という流れは自然なのかもしれないが、同誌に掲載される記事からはその誌名の通り交通政策に通じるジャーナリズムの一端を担う気概を感じていただけに、今回の休刊は残念に思うし、個人的には電子化などで継続してほしかったと思う。
国民生活不在の政治のツケ
一雑誌の休廃刊に直接関係しないものの、その背景にあった出版や電子書籍の課題にせよ、鉄道をはじめとする公共交通の衰退にせよ、背景には政府の政策の不備や偏りが見え隠れする。鉄道をはじめとする公共交通の衰退に政府の 政策が足りていない(または自動車・道路に偏重している)ことは、以前にも拙稿で度々触れてきたので今回は割愛するが、出版をはじめとする知の流通に関しても、紙の本の流通が衰退する傍らで、電子書籍を購入したユーザーがプラットフォーマーの都合で不利益を被りかねない状況が放置されているし、公共図書館における電子書籍収蔵の体制も整備されていない。
今、国会では食料品をはじめとする物価高とそれに伴う消費税の在り方が議論されているようだが、一方で自動車には減税とガソリン等への補助金に巨額の公金(2024年度は累計8兆1719億円)を突っ込みながら、公共交通利用者には運賃値上げ等の負担が直撃したまま放置されている。クルマ脳の政府がここ数年で突っ込んできたガソリン補助金は、鉄道・バス無料デーを15年間以上も毎日実施できるほどの巨額だとも指摘されているが[5]、公共交通への公金支出には重箱の隅をつつくような過剰反応をするマスコミも、巨額のガソリン補助金に異を唱える向きはほとんど見られない。自動車メーカーからの巨額の広告宣伝費が報道を歪めているのだろう。
消費税にしたって鉄道などの公共交通に課税する傍ら、自家用車ユーザーには(旧物品税の廃止や自動車重量税などの)減税が繰り返されてきたことは議論すらされない。あまつさえ一般国民から徴収した消費税の3割以上は自動車メーカーなどの輸出業者に還付されており[6]、トヨタ自動車などは昨今の超円安と相まって巨額の利益を上げているが[7]、この還付制度の是非がマスコミや国会で取り沙汰されることはほぼない。
[図5]輸出大企業に対する消費税還付金額上位20社の推算『全国商工新聞』2024年9月23日号より引用
これらの個別の動きに直接の関連はないものの、国の政策に通底するクルマ優先と国民生活軽視が様々な場所に噴出している一例と言えるだろう。
鉄道をはじめとする公共交通と出版、私たちの健康で文化的な生活を支えるふたつの衰退に危機感を覚えずにはいられない。
(神奈川県川崎市在住)
脚注・出典
[5] 今年度のガソリン補助金8兆円超え! でも7000億円の補助だけで電車バス運賃「毎日無料」にできた!(鉄道乗蔵、2025年1月27日)
[6] 2022年度の消費税収は21.6兆円、同年の消費税還付申告額が7兆円。
国税庁について(国税庁) 適正・公平な課税・徴収(国税庁)
[7] トヨタなど輸出大企業20社に消費税を2.2兆円還付 23年度異常円安で対前年比3千億円も増(全国商工新聞、2024年9月23日)