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通学路Vision Zero:日本で死亡重傷事故ゼロをめざすための道のり
ではどうすればこのゾーン30プラスを広めていけるのか。国は交通安全基本計画の中で「究極的には交通事故のない社会を目指す」と言い続けていますが、その究極目標を実現するための具体的な戦略はいかにあるべきか。その答えが、私たちが提唱する「通学路 Vision Zero」です。
ビジョン・ゼロというのは、1997年にスウェーデンで始まった交通安全の理念であり、「交通事故による死亡者・重傷者をゼロにする」という究極の目標を掲げています。同じくビジョン・ゼロを打ち出しているノルウェーの首都オスロでは、すでに歩行者・自転車利用者の死亡事故ゼロを達成しています。国全体としても、15歳以下の子どもの死亡事故ゼロを実現しました。
日本でも同様の目標を達成するための第一歩となるのが「通学路Vision Zero」です。なぜ通学路から始めるのか。それは、「子どもの命を守る」という目的が、社会全体で最も広く合意を得やすく、最優先で取り組むべき課題だからです。
日本でもすでに「通学路交通安全プログラム」というものが始まっているのですが、ハード対策として最も多かったのは路面標示の整備で(図6)、実質的な安全性向上にはつながっていません。

図6:通学路における緊急合同点検で実施されたハード対策の種類
対策実現の鍵:ワークショップによる合意形成
ほんとうに安全な道路を作るためにはどうすれ ばよいか。私たちが提唱するのが住民参加によるワークショップによる合意形成のプロセスです。具体的には以下のような段階を踏んでいくことになります。
- 現状把握・課題共有:
地域の危険箇所、ヒヤリハット体験、さらには車の速度や台数、事故 件数などの調査結果を持ち寄り、問題意識を共有します。 - 対策案検討:
ゾーン30プラスのメニュー(ハンプ、スムーズ横断歩道、狭窄、ボラード等)の中から、地域の状況に合った最適な対策の組み合わせを議論します。 - 対策案決定・合意形成:
実現可能性や費用対効果を考慮し、短期・中期・長期の実施計画について合意を形成します。 - 効果測定・評価:
対策実施後、事故件数や走行速度の変化などを測定・評価し、必要に応じて計画を見直します。(PDCAサイクル)
短期間で成果を出すために、最大4回ということで提案しております。新潟市の小学校統合に伴う事例では、開校までの9ヶ月というきわめて短い期間であったにもかかわらず、このようなプロセスを経て、ゾーン30や通学時間帯の交通規制にとどまらず、ライジングボラードや狭窄、歩道や横断歩道といったハード対策も実施されることとなりました。

写真H:新潟県新潟市の日和小学校の通学路。登校時間になるとライジングボラードが上がってきて車が通れなくなるため、子どもたちは安心して歩くことができる。
中でもライジングボラードは、地域の方々には、行政が設置してくれたというよりはむしろ
「住民が相談し知恵を出しあって作ったもの」としてシンボリックに受け止められていて、雪かきなどの自発的な維持管理活動につながっています。
まとめ
市街地の重大交通事故根絶には物理デバイスの活用が欠かせません。そのために、まずは徒歩の通学路から対策を始め、そこから子どもたちが帰宅後に過ごす場所、あるいは自転車や電車の通学路と範囲を広げていくことで、物理デバイスに対する受容性を高めていくことが有効なのです。「通学路Vision Zero」という明確な目標を地域社会全体で共有し、ゾーン30プラスというツールを活用していくことで、子どもたちや高齢者はもちろん、あらゆる住民が安心して通行できる道路環境を実現することができるはずです。
みなさん、私たちと一緒にこの取り組みを全国に広げていきましょう。