ドライバーとアイコンタクトをしてから渡れ、という指導の問題点

横断歩道での「アイコンタクト指導」への疑問を警視庁に送付

提出した意見書

足立礼子(世話人)

上述のように、当会では2月末に警視庁に対して、横断歩道を横断中の歩行者への「アイコンタクト指導」についての意見書を送りました。
しかし、残念ながら春の交通安全運動週間ではその指導を一層強化しているかのような様子が見えました。

「交差点アイコンタクト運動実施中!」のポスターの写真です。

警視庁では「アイコンタクト運動」を盛んに
推進している。都内のある警察署のポスター。

一例として、昭島警察署では小学生を対象に、トラックに試乗させて死角があることを伝えた上、子どもの「人型」がトラックの後輪に巻き込まれてつぶされる様子を見せ、アイコンタクトの重要性を教える様子がニュースで報じられました(表紙写真参照)。
人型がトラックに無残につぶされる光景は、実際の子どもだったらと思うとショッキングなものです。子どもたちもその光景を凍りついたように見つめていました。
すでに交通ルールを懸命に守っている子らにこのような残酷な場面を見せ、「指導を守らないとこうなるよ」と脅してまで注意させようとする交通社会は、人の命・安全を第一にする正常な社会といえるでしょうか。ちなみに、策定されたばかりの第10次交通安全基本計画の基本理念には「人優先の交通安全思想」が盛り込まれ、「文明化された社会においては、弱い立場にある者への配慮や思いやりが存在しなければならない」と記されています。

トラックに死角があることは古くから周知の問題であり、死角による事故を防ぐには、死角を減らす車体の安全装置対策、歩行者横断中は右左折車をストップさせる歩車分離信号増設、ドライバーの教育強化や免許基準の強化など、とるべき対策は山ほどあります。当会でもそうし
た要望を再三伝えています。しかし、対策はなかなか進まず、痛ましい事故が各地で繰り返され、そのたびに過失のない弱者側への注意指導が強化されています。本末転倒といわざるを得ない現状です。

ダンプカーの写真です。

アイコンタクトをせよと言っても、フロントガラスの反射などでドライバーの姿さえ見えないことも多い。

歩行者が横断中に「ドライバーとアイコンタクトをとる」という行為自体にも、多くの問題が潜んでいます。4月16日の総会においても、その後のメーリングリストにおいても、さまざまな意見が出されました。警視庁に出した意見書に記した点も含めて、問題点を改めて整理しておきます。

【ドライバーとアイコンタクトをしてから渡れ、という指導の問題点】

《歩行者の身体能力の問題》

・アイコンタクト指導は主に小学生や高齢者を対象に行われている。しかし、子どもは判断力、思考力、視力・視野、体力等が未熟・未発達な存在であり、とっさの適切な判断や行動は難しい。高齢者も身体機能や判断機能が低下していることが多く、同様である。

《双方向性の問題》

・歩行者側がアイコンタクトをしようとしても、ドライバーが歩行者の存在に気づかず目を合わせなければコミュニケーションは成立しない(その場合は渡ってはいけないのか)。
・横断を始めてから、後方から右折・左折してくるクルマや、信号無視で疾走してくるクルマとアイコンタクトをとることは困難。ドライバーが歩行者に気づかなければ事故は回避できない。

《視認性の問題》

・トラックなどの大型車は運転席が高く、大人でもドライバーの視線をとらえにくい。小学低学年生や杖をついた高齢者などにとってはさらに難しい。
・天候によりクルマのフロントガラスの反射、雨天時は水蒸気によるくもり、歩行者の傘差し、夜間はクルマのライトなどで、ドライバーの視線や表情が見えない場合も少なからずある。

《時間の問題》

・右折、左折のクルマとアイコンタクトをしてから横断するには充分な時間が必要だが、現実には多くの交差点において歩行者の横断時間は短く、そのゆとりがない(小学低学年生や足腰の弱った高齢者などにとっては特にゆとりはない)。
アイコンタクトが重要というなら、歩行者の横断時間を長く設定する必要がある。

《意味合いの理解の問題》

・アイコンタクトは目だけによる意思疎通だが、その意味合いは共通認識として人々に周知されておらず、個々の場面で異なる。もし歩行者側もクルマ側も「相手が止まる」と解釈をすれば、逆に危険な事態を招く。意味合いも不明確なコミュニケーションツールに身の安全を委ねさせることは無責任。

《歩行者の横断の権利の問題》

・青信号でもドライバーとアイコンタクトをしなければ横断中の安全は保障されないなら、視覚障がい者の安全も保障されないことになる。そもそも、歩行者の横断の権利は何によって保障されるのか。ドライバーの意思に委ねるしかないなら、道路交通法の存在意義はどこにあるのか。

今後も、アイコンタクト指導の是非について考え、多方面に疑問の声を届けていけたらと思います。ご意見などお寄せいただければ幸いです。

横断歩道での「アイコンタクト指導」への疑問を警視庁に送付

提出した意見書