小路泰広(世話人)
2025年9月27日に会員オンラインミーティング「クルマ社会をどうする?」の第2回を開催し、青木 勝さん(共同代表)の司会のもと、主に「運転教育・免許制度に関する要望書案」「自動車関連税制」「道路交通法の問題点」の3つのテーマについて、現状の課題認識から具体的な提言内容に至るまで、長時間にわたり密度の濃い議論が行われました。以下にその概要を報告します。
1. 運転教育・免許制度に関する要望書案の検討
足立さんより、交通事故削減を目的とした「運転教育・運転免許制度に関する要望書案」の修正版が提示されました。前回提案の要望書案については多くの賛同意見や補足の要望意見が出された一方、一部から反対意見が出された一方、「省庁側は前例がない・海外での事例もない・有識者の多くの意見がない等の内容については、極めて否定的」ということが推察されたため、その点も考慮して少し譲歩した内容で整理し直した案が提案されました。
主な論点と意見:
・運転者教育の実効性と「気の緩み」への対応
現行の教習課程では順法精神や歩行者優先意識の定着が十分でないこと、また教習所卒業後は社会環境に流され安全意識が低下する傾向があるとの指摘がありました。免許取得後一定期間の再教育や、更新時の再試験制度など、行動変容を促す仕組みの導入が必要ではないかとの意見が出されました。
・若年層教育と社会的コストへの理解
自動車の維持費や社会的コストへの理解が乏しい現状を踏まえ、高校や大学などでの交通・環境教育を通じ、自動車利用に伴う経済的・社会的影響を学ぶ機会を設けるべきとの提案がありました。
・救護教育の不足と改善の方向
海外と比べて日本では救護教育が十分でなく、救護義務を条例として明記している自治体が限られていることが指摘されました。人命尊重を基盤とした教育内容の拡充が求められる、という意見もありました。
・制度改革に向けた現実的課題
新たな制度導入には、国民の負担増への配慮や、効果を裏付けるエビデンスの確立が必要であるとの意見もあり、理想と実現可能性の両面から慎重な検討が必要という意見もありました。
2. 自動車関連税制についての議論
林さんより、ガソリン暫定税率廃止がもたらす「社会的外部費用の増大」や「気候変動対策への逆行」などの懸念が提示され、制度のあり方について幅広い観点から議論が行われました。
主な論点と意見:
・社会的費用の内部化と税制の簡素化
自動車利用に伴う外部不経済(事故、環境負荷、道路損傷など)は、受益者負担の原則に基づき税制で内部化すべきとの原則が共有されました。複雑な現行制度を見直し、わかりやすく公平な仕組みへの転換が必要との意見がありました。
・課金の新しい仕組みと技術活用
センサー技術を活用した危険運転への課金、走行距離や車重に応じた負担の調整など、より合理的な徴収方法の可能性が議論されました。近距離と長距離の移動を区別して課税する「近距離走行税」といった新しい発想も示されました。
・政治的・社会的制約
燃料価格高騰への不安や、増税への強い世論の反発を踏まえ、政策として実現するには相応の社会的合意形成が必要との認識が共有されました。
・行政資料から見える課題
総務省「自動車関連税制のあり方に関する検討会」資料に基づき、各業界が自らの利害で主張を行う現状が指摘されました。制度設計には政治的透明性と公平性が不可欠との意見がありました。
・高齢化社会との関係
高齢者の免許返納が進めば、ガソリン税見直しへの反対が弱まる可能性があるとの見方も示されました。シニアカーなど代替的な移動手段の整備が、税制の受容性を高める手段になりうるとの意見がありました。
3. 道路交通法の矛盾点と改正の方向性
榊原さんより、現行の道路交通法が抱える構造的課題や、時代の変化に合わなくなっている条文について解説があり、改善に向けた意見が交わされました。
主な論点と意見:
・法の目的と構造的問題
第1条に「他者への迷惑防止」や「絶対安全」の理念が欠けている点、第4条で公安委員会(警察)が規制権限を独占している点が問題として挙げられました。法体系全体の目的と執行構造を見直す必要性が示されました。
・形骸化した条文とその弊害
実態に合わない最高速度規制、第38条(横断歩道)の「歩行者等」の定義の曖昧さ、第37条の右折規定が「円滑」を優先し過ぎて事故を誘発している点など、具体的な条文の問題点が議論されました。
・教育・運用面での課題
警察教育で人道支援の視点が不足していること、高齢者の判断力低下が交通安全を脅かしていることが指摘されました。制度と人の両面からの見直しが必要との意見が出されました。
・安全を最優先する交通設計
人間の判断に依存する仕組みから脱却し、信号のない環状交差点(ラウンドアバウト)の普及や直進分離信号の導入など、物理的に事故を防ぐ設計への転換が求められました。また、自動運転技術の発展は、道路交通法を論理的に再定義する契機になりうるとの指摘もありました。
・参考資料と知見の共有
道路交通法の運用上の曖昧さを扱った専門書『警察・司法/道路交通法解説』(東京法令出版)が紹介され、「横断歩道付近」とは具体的にどの範囲を指すのかといった実務上の解釈も議論されました。
4. まとめと今後の展望
今回の議論を通じて、各テーマに共通して「理想と現実のギャップをどう埋めるか」という課題が浮き彫りになりました。今後はメーリングリスト等を活用し、意見をさらに集約して具体的な行動につなげていく方針が確認されました。
また、道路建設などのプロジェクトでは、計画が固まった最終段階での市民参加では影響を及ぼしにくいという実情が共有されました。構想・計画段階(上流工程)から情報を把握し、早い段階で意見を届けることの重要性が指摘され、圏央道建設計画の事例も参考として紹介されました。
以上を踏まえ、今後も定期的なオンラインミーティングを開催し、実効性ある提言づくりに向けた検討と議論を継続していくことが確認されました。
担当:小路泰広、青木 勝
