井坂洋士
本誌116号(2024年6月号)では長野県上田市の「TicketQR」を紹介したが、ここ数年は地方都市の路線バスで「地域連携ICカード」や独自ICカード等の導入事例が増えている。
首都圏では2001年に「Suica」が、2007年に「PASMO」が、関西では2003年に「ICOCA」が、 2004年に「PiTaPa」が導入されて、従来の磁気式プリペイドカードが置き換えられた。他の大都市圏でも順次交通系ICカードが導入され、大都市圏ではすでにほとんどの公共交通機関が交通系ICカードに対応している。
地方都市では、2005年に導入された高松琴平電鉄(ことでん)の「IruCa」や、2010年に導入された富山地方鉄道の「ecomyca」などの早くからICカード化されている地方都市がある一方で、従来の磁気式プリペイドカードを使い続けている地方もあった。
しかし磁気カードの利用減少に伴い機器メーカーも撤退しており、維持限界を迎えていたことから、近年は地方都市での磁気カードの置き換えが進んでいる。
例えば岩手県交通が2021年に「Iwate Green Pass」を、岩手県北バスが2022年に「iGUCA」を、青森市営バスが2022年に「AOPASS」を、福島県浜通りの新常磐交通が 2024年に「LOCOCA」を導入し、それまで使っていた磁気式バスカードを置き換えた。
これらはJR東日本が開発した「地域連携ICカード」を採用することで、首都圏のバス事業者が採用しているPASMOよりも導入コストが抑えられている。また、地域独自のポイント等を追加できるようになっており、既存のバスカード(回数券替わりの「プレミア」が付いていることが多い)を置き換えるのに向いている。さらに、Suica導入済みの鉄道にも同じカードで乗れる、逆に首都圏等でSuica等の全国交通系ICカードを使っている人は手持ちのカードを 使える(この場合はポイント等の特典は対象外)、駅の券売機等でチャージできる(バス事業者が独自にチャージ機等を整備して現金を扱う負担が軽減される)等の様々なメリットがあって、JR東日本エリアの多くの地方都市で導入が進んでいる。こうした動きの背景には、磁気カードの機器類老朽化に加え、2021年に新500円硬貨が、2024年に新紙幣が発行されたことで、バス会社は運賃箱を更新する必要に迫られていることがある。運賃箱を更新するタイミングで新たなICカード乗車券を導入しようというわけだ。
栃木県宇都宮市が導入した地域連携ICカード「totra」[1]の例。Suica互換でチャージ機など既存のインフラに相乗りできるメリットもある
脚注
[1] 宇都宮市が導入した「totra」については本誌107号(2022年3月号)を参照。Suica互換でJRや東武の駅でチャージできるので、地域の導入事業者(関東自動車、宇都宮ライトレールなど)がチャージ機の整備や現金の扱いといった負担を軽減できるメリットもある。