法務省にも、危険運転致死傷罪等のあり方見直しの要望書を送付

足立礼子(世話人)

会報114号でお伝えしましたように、危険運転致死傷罪の適用範囲が極端に狭く、無謀な暴走運転にも適用されないケースが多いことから、事故被害者ご遺族らが法の運用改善を世に訴え、それを受けて昨年(2023年)10月、自由民主党内に危険運転致死傷罪の見直しを議論するプロジェクトチーム(PT)が発足しました。

同PTではご遺族や専門家の意見を聞いて議論し、12月末、自由民主党として「悪質・危険な運転行為による死傷事犯の根絶に向けた提言」を内閣総理大臣、法務大臣、国家公安委員長に提出しました。
提言には、悪質・危険な運転行為による死傷事犯について国民全体の納得を得られる厳しい処罰に見直すこと、悪質・危険な運転を抑止するための施策推進などが記されています。

当会では、11月に自民党PT座長の平沢勝栄議員に「危険運転致死傷罪等の刑罰のあり方について、交通事故削減の観点から望むこと」という要望書を提出し(会報114号に掲載)、12月末には以下の要望書を法務大臣宛に提出しました。
どちらもほぼ同じ内容ですが、「事故を起こさせない対策」の要望は法務大臣宛では省きました。

2023年12月23日

 法務大臣 小泉 龍司 様

クルマ社会を問い直す会
共同代表 青木 勝 足立礼子

危険運転致死傷罪等自動車運転処罰法のあり方について、
交通事故削減の観点から望むこと

本年11月、危険運転致死傷罪のあり方について交通事故ご遺族の訴えを受けて自由民主党で検討がなされました。そこでまとめられた、自動車運転処罰法の見直しを求める提言書が、法務省にも送られ、検討がなされると伺っています。この件につきまして、私どもの要望をお伝え申し上げます。交通事故抑止のために前向きなご検討をお願いいたします。

●危険運転致死傷罪の判断基準に、幅広い視点の導入を

危険運転致死傷罪は悪質性や故意性がかぎとされますが、故意の実証は難しく、条文の適用要件の難しさから立件されないことが多く、結果として加害者にとって逃げ道が多くなってしまうことが課題となっています。
そのため、常軌を逸した違法行為が軽い刑で済まされるという、常識からかけ離れた判決が出されることも少なくありません。

そのような理不尽な判決を出さないよう、判断の際に、《加害者の運転の道路交通法と照らしての逸脱程度、それが招いた結果、加害者の事故前後および過去の運転や行動状況》等を判断基準とし、重視する方向で法の改正をご検討ください。

また、危険運転の類型が限定的で「スマホながら運転」など該当しないものもありますが、その都度あとから類型を追加検討するのではなく、上述の《 》のような判断基準に照らしての柔軟な適用が可能となる法改正をご検討ください。

●過失運転罪も見直しを――結果責任を重視した『違法運転致死傷罪』に

現状では被害者が死傷させられた事故でも危険運転致死傷罪が適用となるのは0.1%と極めて少なく、大半は過失運転致死傷罪となっています。
しかも、過失運転致死傷罪の84%は不起訴扱いであり(令和4年版犯罪白書より)、裁判にかけられても大半は執行猶予付きで刑期も極めて短いという現実があります。
そこにも被害者と遺族は強い疑問と不満を抱いています。

重量と速度を有する自動車の運転は他者への重大な加害の危険を伴いますが、社会生活上の有用性の観点から、安全への配慮を条件として使用が許されています。
運転は、運転に伴う危険を知覚でき、適切に制御し操縦できる能力があると都道府県公安委員会が認めて運転免許証を付与され、かつ、道路交通法の定める遵守事項を守ることができる者だけに許される行為です。
それに反する運転行為は「許されない危険行為」であり、それほどに自動車の運転は重大な責任を背負った行動です。

しかし、戦後自動車の急増に伴って交通死傷事件が激増したため、「許されない危険行為」に対する刑法の検討もされぬまま応急的に過失(業務上過失)罪扱いとされ、1970年代には「国民皆免許」「くるま社会」の現実に合わせるべく業過事件の起訴率を大幅に減らすなど、寛刑化が著しく進みました(この動向は「平成5年版犯罪白書」に詳しく記されています)。
どのような違法運転で人を死傷させても過失だから許そうという意識が蔓延し、それが違法運転を増長させてもきました。

そうした中、被害者遺族から悪質で危険な運転への厳罰化を求める声が挙がり、危険運転致死傷罪ができたわけですが、現実には上記のように危険運転致死傷罪への適用が極めて少ない上に過失運転致死傷罪の刑が極めて軽いという現実に、強い疑問と「適切な処罰」を求める声が高まっています。
突然命を奪われたり重度障害を負わされたりした方やその家族の一生続く悲痛、苦しみに対し、加害者は何の咎も受けずに生きられるなら、法治国家といえるのでしょうか。

今、危険運転罪の見直しと同時に求められているのは、過失運転致死傷罪を、「許されない危険行為」(違法性)の重さと「結果責任」の重さとをふまえた罪刑(仮称『違法運転致死傷罪』)に切り替えていくことであり、それは、運転者にハンドルを握る際の本来の責任を自覚させ、事故抑止にもつながるものです。
ぜひこの点も併せてご検討をお願いいたします。危険運転致死傷罪は、仮称『違法運転致死傷罪』の中の特に悪質性の高いものとして位置づけるか、もしくは、一つにまとめてもよいと思われます。

最後に、この問題を検討されるにあたり、広く国民にヒアリングをしていただき、また、パブリックコメントも実施していただきたく、その点も含めましてなにとぞよろしくお願い申し上げます。

以上