杉田正明
前回会報配布時にお届けした『脱クルマ、その課題の広がり』では、クルマ社会の主な問題を4つに絞って考察しました。会報の今号で、私の近所の「関さんの森」土地収用を巡る動きについて簡単な報告しましたが、クルマのための道路が自然環境・緑の破壊をもたらすことも主要問題の一つだと思います。
クルマの社会的費用の推計に、この自然環境・緑の破壊を含めている事例があるかないか、不勉強で承知していないのですが、私の知る限りでは見かけません。道路建設の社会的費用としてそれがきちんと計上され、クルマの社会的費用にも連動反映することが望ましいと思うのですが、国土交通省の費用便益分析マニュアルでは、道路の費用にこの項目は入っておりません。(また道路の費用に大気汚染や騒音、温暖化・気候変動も入っておりません。ただし一方で便益の方に交通事故減少の便益を挙げています。)同マニュアルでは、費用項目は整備事業費と維持管理費とされ、整備事業費の内訳としては工事費、用地費、補償費が挙げられています。そしてこの補償費は当該地権者に対する補償費のみで、周辺住民が受け取っている自然環境・緑からの便益に対する補償は含まれません。当該地権者に対する補償もおそらく材木としての市場価値ぐらいしか評価しないのではないでしょうか。
環境アセスメントという制度があります。そのマニュアルでは評価項目に「動植物の生息又は生育、植生及び生態系の状況」「景観及び人と自然との触れ合いの活動の状況」が起こされています。しかしこの制度は、道路事業の場合4車線未満の道路は対象にしておらず、関さんの森のようなケースでは適用対象になりません。また仮に対象になったとしてもこの制度では、道路事業を行う場合と行わない場合との総合的な得失を比較検討するとか、複数の代替的な事業のやり方の間でその得失を比較検討する訳ではなく、事業の内容・やり方が事業による悪影響を可能な限り回避・低減するものであるかどうかを評価するものです。緑の価値を他の価値との比較の中で見極めようとするものではありません。
緑の価値の評価は大変難しいです。しかしそれでも何らかの形でその評価を組み込んだ上で、それを失うことを何らかの形で社会的な手続きのもとに“正当に”評価した上で、公共事業の意志決定がなされるべきではないでしょうか。
(2008年10月発行 会報第53号)