会報より『代表より』

2010年6月発行第60号 代表より

投稿日:2010年6月26日 更新日:

杉田正明

 4月24日の総会の冒頭で挨拶させて頂いた内容を掲載して本号のメッセージとします。

 この1年クルマのもたらす弊害は軽減されたでしょうか。歩車分離信号はどこまで設置されたでしょう。ドライブレコーダーの設置はどこまで進んだでしょう。東京都で始まった喘息患者の医療費救済制度が他の県に拡大したでしょうか。何か具体的な自動車からの温暖化ガス排出抑制策が決まったでしょうか。どこかで数km以上の路面電車の新設あるいは復活が決まったでしょうか。皆さんのまわりに自転車レーンが整備されたでしょうか。
 皆さんは公共交通と歩きだけで暮らすことに少しでも近づけたでしょうか。私は大きく見ると否定的にならざるを得ません。
 ただし個別には少しずつ進んでいることもあります。歩者分離信号は“たまに”ですが見かけるようになってきました。コミュニティバスが走るまちも増えているようです。富山で既存路面電車の路線が環状に連結され中心部がより便利なゾーンになりました。前号で紹介したように富山市はコンパクトシティに向けて総合的な施策を進めつつあります。pm2.5の環境基準が決まったことなどは大きな成果といえるでしょう。ただし測定体制の整備とクルマからの排出基準の制定はこれからです。
 私はこの1年を振り返るとこの先よりいっそうクルマ社会化が進みそうで、危機感と少し孤立感を感じます。
 エコカー論議が盛んになりました。ハイブリッドカーの販売が伸び、電気自動車への期待が大いに高まっています。オバマさんはグリーンニューディールとは言っても脱クルマとは言っていないようです。彼は都市構造のコンパクト化を言っているのでしょうか、私には聞こえてきません。中国・インドは現在猛烈なクルマ社会化を推し進めています。
 便利な乗り物であるクルマをやめろと言うのは大変困難な雰囲気です。日本もこのままでは電気自動車時代に突入していきそうです。私たちはこれをどう捉えどう対処していったらよいでしょう。
 中国でも、インドでも、日本でも、クルマ利用を公共交通へ誘導することが必要です。しかしクルマの利用は何らかの形・規模・分野で続くでしょう。せめて規制を強力にかけて、事故を起こさないクルマ、pm2.5を排出しないクルマの生産と利用を強制すべきです。
 世の中がなかなか変わらないの理由の一つは私たちがあまりに非力であり、仲間をなかなか増やせていないためでしょう。私たちは省庁交渉を行うことが出来ていません。省庁に応じさせるだけの常日頃の提案・キャンペーンが出来ていません。
 ただし昨年度は民主党の無定見な暫定税率撤廃と高速道路無料化政策に反対する意見書を他の市民団体に先駆けて送付公表したことはそこそこ誇って良いことでしょう。
 私たちは自身の現状を踏まえて、出来るだけ個性的な特色ある活動を、非力なだけに効率的に行うことを考えなくてはいけないでしょう。
 私達の会はクルマの問題全般を扱っていることが特色でしょう。これを踏まえると脱クルマの基礎的で包括的な提案を目指すべきと私は考えます。また重要だけれども他の団体がまだ提案出来ていない重要問題解決策を目指すべきとも考えます。
 私が世話人を引き受けて以降機会あるごとに述べさせてもらっている「クルマの外部費用課税」は前者すなわち基礎的で包括的な提案に沿うものと私は考えています。一方他の団体がまだ提案出来ていない重要問題解決策としては、交通事故予防のための政策提案があると私は考えています。これまた繰り返し述べさせてもらっている「クルマの安全性能基準制定」の提案はこれに沿うものと私は考えています。
 問い直す会は、会員がそれぞれの持ち場で出来ること・問題と受け止めることにそれぞれ取り組んでいく、他の会員や周りの人と連携・交流して取り組んでいく、これが基本と思います。ただしそれはそれとして、会全体を世話する立場にある世話人としては、個別問題の中では重要で改善効果の大きい方策の提案に取り組み、また一方クルマ社会を基礎的なところから包括的に転換させうる方策の提案を探っていきたいと考えています。

(2010年6月発行 会報第60号)

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