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2022/11/24「運転労働者の労働条件を改善し、持続可能な輸送を求める要望書」を提出

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 2024年から適用になる「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が2022年12月に改正・告示されます。運転労働者と道路利用者すべての命と人権を守る観点から、今後のさらなる見直しと、持続可能な輸送方法への転換を求め、関係省庁に対し「運転労働者の労働条件を改善し、持続可能な輸送を求める要望書」を提出しました。

運転労働者の労働条件を改善し、持続可能な輸送を求める要望書

2022年11月24日

厚生労働大臣 加藤勝信様
国土交通大臣 斉藤鉄夫様
警察庁長官  露木康浩様
経済産業大臣 西村康稔様

クルマ社会を問い直す会
 https://kuruma-toinaosu.org/
group@kuruma-toinaosu.org
共同代表:青木 勝 足立礼子

運転労働者の労働条件を改善し、持続可能な輸送を求める要望書

 当会は、交通事件(事故)や環境汚染、移動の格差などクルマ社会の問題を改善したいと活動している市民団体です。会には自動車運転労働者も、交通事件の被害者遺族も多く加わっています。
 2024年から適用になる「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が、22年12月に改正・告示されると聞いていますが、「運転労働者と道路利用者すべての命と人権を守る観点」から、今後のさらなる見直しと、持続可能な輸送方法への転換を要望いたします。

◆事業用自動車と交通事故の現状

 トラック、バス、タクシー等の運転労働者が安全な運転を行うには、高い注意力や精神力、体力を必要とします。特に日本のように一般道に歩道が少なく、狭隘な道路や複雑な交差点なども多い現状では、一瞬の不注意も許されません。それは運転労働者にとって大変過酷なことであり、実際に事故は頻発しています。中でも歩行者や自転車利用者の死傷被害が多いのが実態です。
 近年交通事故の総件数は警察庁発表では減りつつありますが(ただし、自賠責保険の負傷者件数は減っておらず、警察庁の数値には疑問があります*)、コロナ禍以前の10年間では、事業用自動車の事故の減り方は事故全体の減り方に比べて緩やかです。しかも、事業用自動車では事故に占める「人対車両」の割合が増えており、その割合は死亡事故では2010年約35%⇒2019年50%に増え、重傷事故では2010年約22%⇒2019年約27%に増えています。近年は軽貨物の増加に伴う事故が急増しているのも憂慮すべき事態です。

*加藤久道著『交通事故は本当に減っているか』。この問題は金融庁設置の「自動車損害賠償責任保険審議会」の議事録にも記載され、内閣委員会でもとり上げられました。

◆運転労働者の健康管理と交通事故

 安全運転のためには充分な休息や睡眠確保や心身の健康保持は必須の条件ですが、運転労働者は全産業より労働時間等の法的規制が甘く、過重な長時間労働を余儀なくされています。運転労働者は全産業と比べて平均年齢が高いことに加え、脳・心臓疾患等による過労死の労災請求件数が極めて高いことも、審議会の資料が示すように明白な事実です。夜間(深夜)運転や車内宿泊型長距離運転等が健康障害や事故リスクに及ぼす影響も指摘されています。
 事業用自動車の重大事故のうち健康に起因する事故は2000年代から増え続けています。2020年の健康に起因する事故は286件で、乗合バスとトラックで8割近くを占めています。原因疾病は心臓疾患、脳疾患、呼吸器疾患が上位3位で、心臓・脳疾患の6割はトラック運転手であり、過労死実態とも符合します。
 事業用自動車の事業者には運転者の定期健康診断の実施が義務づけられていますが、有所見者に対する運転業務の最終判断は事業者や運行管理者任せです。運輸産業では事業規模が小さいほど定期健診受診率が低い実態も報告されています。しかも、近年増えている軽貨物運送個人事業主は、定期健診の実施義務すらもありません。

◆改善基準告示など労働時間規制の問題点とクルマ依存政策の問題点

 運転労働者の労働時間規制は、労働者保護と交通事故抑止対策として1967年に出された厚生労働省通達に始まり、その後89年に改善基準告示が設けられ、以降見直しがなされていますが、交通事故につながる長時間労働は改善されていません。
 2024年から施行される予定の改善基準告示改正案も、課題が多くあります。一例では、最低でも11時間の休息時間が求められていましたが、バス・タクシーでは9時間以上を基本として11時間は努力義務に留められました。トラックでは11時間以上を基本として9時間を下回らないこととしていますが、例外事項が多く、基本が守られる保証がありません。時間外労働も上限を年間960時間(休日労働を含まず)としていますが、それは月80時間に相当し、国の過労死認定基準と同等の労働を認めるものです。
 行政処分の強化はされていても、労働基準監督官の数が大幅に不足しているため、労働基準関係法令や改善基準告示に違反する状況が広くみられます。また改善基準告示には法的拘束力がなく、直接的な罰則が存在しないため、実効性に欠けるという点も問題です。
 運転労働者は全産業に比べて賃金が低いため、労働者の多くは少しでも長い時間働きたいと考え、雇用者(事業主)側はそれを理由に長時間労働をさせるという構図があり、国も交通や物流の円滑化のため長時間労働を条件付きでも容認しているのが現実です。しかも事業主は中小企業が多く、労働組合組織率が低いため、多くの労働者は物言えぬ立場です。また、労働者も事業主も荷主や旅行業者など依頼主の不当な要求に対して弱い立場にあります。こうした状況においては、今後も事態の改善が進まず、しかも、改善基準告示の例外条件を利用した長時間労働の常態化が懸念されます。また、急増する軽貨物事業者は多くが個人事業主で労働基準法や改善基準告示などが適用されず、健康管理も自分任せのため過重労働になりやすく、それにより交通事故が増えていることも深刻な現状です。

 過酷な運転労働に頼る現代社会、その背景には、高速道路の延伸とともに貨物輸送も長距離移動もクルマ依存を加速させてきた政策があります。また、2000年前後の規制緩和政策が運輸事業者を人権無視の過当競争にさらし、労働条件を悪化させ、交通事故による人命損失を増やしたことも否定できない事実です。
 国は「第11次交通安全基本計画」の基本理念で「人命尊重の理念に基づき,究極的には交通事故のない社会を目指す」とうたっています。なにより優先されるべきは命と健康であるという視点に立ち、かつ、過去のクルマ依存政策や規制緩和政策への反省に立ち、以下の対策を講じられるよう、要望いたします。

【要望項目】

  1. ILOとWHOの研究では週55時間を超える労働は心疾患や脳卒中のリスクとされています。このような研究をふまえ、運転労働者の休日労働を含む時間外労働時間の上限の見直しを図ってください。少なくとも運転労働者にも他産業の労働者と同基準で時間外労働の上限規制を適用してください。また、改善基準告示の「休息時間」は11時間以上を原則としてください。
  2. 歩合制のウエイトが大きい運転労働者が無理な時間外労働をしなくても暮らせるよう、最低賃金を引き上げること、正当な賃金が支払われるよう労働実態調査と監督・指導を定期的に行い、深夜超過勤務・休日勤務等に対する適切な賃金割増率を監督・指導してください。
  3. 労働基準関係法令や改善基準告示が守られるよう、違反の罰則や行政処分を強化し、労働基準監督署の監督官の数を大幅に増員し、監督調査の実施率を上げてください。また、厚生労働省の労働相談コーナーをより充実させて広報し、違法な働かせ方の監視・指導強化に努めてください。
  4. 貨物輸送において、荷主等の不当な要求に対する荷主勧告制度の監督体制を強化し、違反に対する罰則制度を設けてより実効性を持たせてください。
     ツアーバスなどの高速長距離バスについては、安全運転を担保する運転者の勤務体制、正当な労働報酬、走行速度遵守や休憩確保などをふまえての適正な運行プランと利用料金設定をするよう、運行会社やツアー企画会社を指導・監督し、ツアー企画会社には発注金額の報告を義務づけてください。
  5. 事業用自動車の事業者には運転者の定期健康診断実施が法令により定められていますが、この定期健康診断実施を個人事業主にも義務づけてください。同時に、受診者の診断結果を公的機関で判定する仕組みを設け、一定基準以下の者は運転不可とする制度を導入し、その制度を定着させるため受診費用補助を行い、違反した事業者への罰則を設けてください。
  6. トラック輸送、高速長距離バスの増加は、夜間運転や不規則業務で運転手の健康に大きな負荷をかけ、交通事故を増やすだけでなく、大気汚染や地球温暖化の加速を招き、少子高齢化と相まって運転手不足という課題ももたらしています。
     貨物輸送はトラックから鉄道・船舶への転換を図る対策を、予算を増額して積極的に推進することを求めます。中・近距離では鉄道の貨客混載も推進してください。また、国として、貨物輸送および人の長距離移動における鉄道利用の意義を、交通事故防止、地球温暖化対策、SDGsの観点で国民にアピールし、理解を求めてください。

以上

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