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地方鉄道の路線維持と活性化への施策を求める意見書を国交省に送付しました

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 今年(2023年)4月に、「改正地域公共交通活性化再生法」が成立しました。この法律は「大量輸送機関としての鉄道の特性」を生かすのが困難なローカル線については、事業者や自治体の要請を受け、国が「再構築協議会」を設置し、地域に適した交通手段を話し合い、バスなど鉄道ではない方法に転換する場合でも財政支援するというものです。
 地域に適した交通手段について協議をするということは理にかなったものとも思えますが、ここで問題となるのは鉄道の特性として「大量輸送」だけが強調され、その他の特性については重視されていないということです。そのことにより「大量輸送」をしていないと判断された地方の赤字ローカル線は「使命を終えた」とされ、その多くが廃止される可能性があります。しかし鉄道の特性は「大量輸送」以外にも多くあります。鉄道が廃止され、その特性が生かされなくなると地域の公共交通網が大きく衰退する恐れがあります。そこでこのたび、国土交通省に宛てて「地方鉄道の路線維持と活性化への施策を求める意見書」を提出しました。
 鉄道の特性を大量輸送機関とだけ考えるのではなく、幅広い視点からその存在意義を示し、鉄道路線の存続と活性化のための施策の実行ととともに、バス転換せざるを得ない場合は、バスをもっと便利で快適なものにするための取り組みをすることを要請するのが意見書の目的です。この意見書は会報112号に掲載した林 裕之の投稿原稿「赤字ローカル線問題はバス転換で解決するのか」を土台に、会員メーリングリストで会員の皆さんのご意見を聞いて加筆・修正する形で作成しました。

地方鉄道の路線維持と活性化への施策を求める意見書

2023年7月31日

国土交通大臣 斎藤鉄夫 殿
鉄道局長   上原 淳 殿

クルマ社会を問い直す会
共同代表 青木 勝
共同代表 足立礼子

 当会は、クルマ依存社会の弊害(交通事故、移動の格差、環境汚染、気候変動加速等)を問題視し、その解決のために公共交通の充実が極めて重要と考えている市民団体です。

 国土交通省の有識者会議は2022年7月1日に、『輸送密度』についてJRの場合、1000人未満で要請があれば国、自治体、鉄道事業者で協議会をもち、存廃を判断する仕組みを導入すべきだという提言を出しました。今年4月には、「改正地域公共交通活性化再生法」が成立しました。これは「大量輸送機関としての鉄道の特性」を生かすのが困難なローカル線については、事業者や自治体の要請を受け、国が「再構築協議会」を設置し、地域に適した交通手段を話し合い、バスなど鉄道ではない方法に転換する場合でも財政支援するというものです。さらに、今年6月、国土交通省は、鉄道による大量輸送の利点が十分に生かせない4千人未満までは存廃協議の対象になり得るとする方針を固めました。
 確かに鉄道は大量輸送に適しており、輸送密度が低下した線区ではバス等に転換することがより合理的であるとする考え方もあるでしょう。しかし鉄道の特性は「大量輸送」だけではなく、次に示すような多くの利点があります。それをご理解いただき、最後に記す路線の維持・活性化の施策を実施していただきたいと思います。

鉄道の利点①「優れた速達性」-バス転換で所要時間が延びる懸念がある
 路線によって違いはありますが、一般的に言えば鉄道はバスよりも速達性に優れているため、バスに転換されると所要時間が延びることが多いと言えます。
 かつて石川県能登半島には、JR(西日本)七尾線(金沢-輪島)と能登線(穴水-蛸島)がありました。しかし能登線は1987年に廃止されました。また七尾線のうち、電化されなかった和倉温泉-輪島間は1991年に廃止され、いずれも第3セクター「のと鉄道」に経営が移管されました。しかしこの「のと鉄道」七尾線は2001年に、能登線も2005年に廃止され、バスに転換されました。能登線は延長61kmの長大路線でしたがバス転換されて所要時間が大幅に延びたことが問題となっています。同じ区間で比べればおおむね倍になりました。
 バス転換された場合に所要時間が延びるという現象は各地で見られます。北海道の旧天北線(1989年廃止)の音威子府-鬼志別間も鉄道時代よりもかなり所要時間が延びています(急行列車と比較した場合は約1.5倍、普通列車と比較した場合は約1.1倍)。同じく旧岩内線(1985年廃止)の岩内-札幌間(小沢-札幌は函館線)の場合も鉄道時代と比べてバスの所要時間は約1.2倍(函館線内は急行として運転されていた列車とバスの比較)になりました。

◆鉄道の利点②「優れた定時性」-バスに転換されると遅延が頻発する懸念がある
 鉄道の場合は天候異変や事故など特別の障害が発生しなければほぼ定時運行です。たとえば、新幹線ではおおむね1列車あたりの平均遅延時間は1分以内です。在来線も約9割が定時運行しているとされています。
 一方、専用道路を走るBRTを除き、渋滞などに巻き込まれやすいバスの場合は定時運行は困難で、遅延が常態化している線区が多数あります。

◆鉄道の利点③「乗り物酔いが少なく、乗車中の時間を有効に使える」-バスに転換されると乗り物酔いに苦しむ乗客が増加する懸念がある
 揺れの少ない鉄道車両は車内で細かな文字を追うような作業を長時間続けことが可能です。実際に鉄道車両内では多くの人が、学習や仕事(パソコンの操作を伴う仕事をしている方も少なくありません)、読書などに励んでいます。鉄道車両の場合は、乗車中の時間をとても有効に使うことができるのです。これは鉄道の大変大きな特性です。
 一方、揺れが大きいバスの場合、車酔いで気分が悪くなる乗客もいます。また、バスに乗るだけでは酔わなくても、車内で学習や仕事、読書などをすると気分が悪くなることが多いので乗車中の時間を有効に使うことは困難です。またバスは定員が少ないので、混み合う通勤・通学時間帯は揺れる車内で長時間立たされて疲労しやすくなります。

◆鉄道の利点④「トイレや駅の待合室など利用者が安心して利用できる設備がある」-バスに転換されると利用時の不安要素が増大する懸念がある
 大都市圏の頻繁に運転される路線の電車(JR・私鉄)や、運行距離がごく短い鉄道車両などを除いてほとんどの鉄道車両にはトイレが設置されています。そして多くの鉄道駅にトイレがあります。交通機関の車内や駅にトイレがあると安心して旅行ができます。また、多くの鉄道駅には待合室があるので夜間や雨天時にも安心して利用することができます。
 一方、高速バスを除くとほとんどのバスとバス停にはトイレがありません。そのために距離が離れた場所へのバスによる移動は困難です。また、地方のバス停の多くはポールだけで上屋やベンチ、照明すらないものも目に付きます。そのため場所が分かりづらいだけではなく、特に夜間や雨天時の利用が困難になっています。

◆鉄道の利点⑤「自転車との併用が容易である」-バスに転換されると自転車との併用が困難になる懸念がある
 多くの鉄道駅には駐輪場があり、駅まで自転車を利用することができます(近年は自転車をそのまま車内に持ち込めるサイクルトレインも徐々に増加しています)。
 一方、ほとんどのバス停には駐輪場がなく、また自転車をバス車内に持ち込むこともできないため、自転車と併用することが困難になります。そのことによりバス停からある程度距離がある地域に居住する人の利用が困難になります。

◆鉄道の利点⑥「環境面での優位性」-バスに転換されると環境破壊をより深刻化させる懸念がある
 国土交通省の2019年度の資料によると、輸送量当たりの二酸化炭素排出量(旅客)は、バスが57g(人km)、鉄道が17gであり、バスは鉄道の3倍以上となっています。もちろんこの数値は輸送量によって変わってきます。鉄道の場合、おおむね一車両当たり49人が乗った場合の計算です。従って1車両あたりの乗車人数がこの3分の1以下になればバスの方が二酸化炭素排出量が少なくなります。
 しかし鉄道がバスに転換された場合、大幅に利用者数が減る事例が多いのが実態です。今年4月18日に、参議院の国土交通委員会で地域交通活性化再生法の改正に向けての参考人質疑が行われましたが、そこで参考人として招聘された日本大学名誉教授の桜井徹氏からは、鉄道を廃止してバスに転換した場合の乗客の減少率について過去のデータに基づいた具体的な発言がなさました。それによると、2020年に廃止されたJR北海道の札沼線(学園都市線)北海道医療大学―新十津川間(代替バスの利用者数は鉄道時代の約3割にとどまっています)を始め、鉄道が廃止され、バスに転換された路線の多くで利用者数が大幅に減少したという実態が明らかになりました。
 これは鉄道を利用していた人の多くが鉄道の廃止後の代替移動手段としてバスを選ばず、自家用車(高校生など未成年の場合は家族の自家用車による送迎)を選んだ結果と考えられます。その理由としては前述したように、バスの場合、速達性や定時性などの点で鉄道に劣るということが考えられます。
自家用自動車の二酸化炭素排出量は130g(人km)となっており、鉄道の7倍以上です。鉄道の廃止に伴い自家用車を利用する人の数が大幅に増加し、そのことより環境破壊が深刻化する可能性が高くなります。

◆鉄道の利点⑦「優れた安全性」-バスに転換されると交通事故が増加する懸念がある
 鉄道は安全面で優れており、10年以上にわたって鉄道事故による乗客の死者は出ていません。一方バスは過去10年間平均で年間30人以上が事故によって亡くなっています。今年6月18日には北海道でバスとトラックの衝突事件が起き、5名の方がなくなりました。バス転換されるとこうした事故を増やすことが懸念されます。
 またバスの場合は、バス停で待っている時、あるいはバスを降りた後で道路を横断する際にも交通事故に巻き込まれる危険があります。

◆鉄道の利点⑧ 「地域公共交通網の幹線軸を担うに相応しい交通モードである」
 交通政策基本法五条にもあるように、公共交通サービスは単体で利用するものではなく、他の交通モードと連携して機能するものです。とりわけ鉄道はバス・タクシーや自転車等と結節し交通軸を担っている場合が多くあります。交通軸を担っている鉄道が廃止され、バスに転換されると、運転手不足などの問題が深刻化し、地域の交通網が崩壊することにもなりかねません。
 単に他の(運営費が安い)移動サービスで代替すればいい、輸送力が足りればいいといった考え方ではなく、交通結節点に相応しい設備と、潜在的に公共交通を利用したいと考えている国民が選択できるサービス水準を維持する必要があると考えます。

【地方鉄道を含めた公共交通機関の維持と活性化に向けた提言】
 鉄道が廃止されバス等に転換された場合、以上述べました鉄道の特性が失われ、公共交通機関による移動が大変困難になる地域が少なくないと考えられます。
 確かに鉄道が維持できなくなり、やむを得ずバス等に転換される路線もあるでしょう。しかしできるだけ鉄道の維持に努めるべきであると考えます。それを可能にするために次のことを要請いたします。

  • 道路に偏った国の予算配分(令和5年度道路関係予算は2兆1,183億円ですが、鉄道局予算は1,064億円に過ぎません)を見直し、鉄道関連の予算を増額していただきたいと思います。事故が多く、環境破壊(特に大気汚染と気候変動)の大きな原因となっている自動車関連の課税を強化してその分を鉄道予算に回すことも考えられます。
  • 必要に応じて上下分離方式を採用し、地方公共団体だけではなく、国も鉄道インフラの保持に関わること、鉄道の利便性を向上させ、利用者を増加させるための投資を可能にするため鉄道会社への財政上の支援を強化するなどの取り組みをしていただくこと要請いたします。
  • 運転手不足が問題となっているトラックから鉄道への貨物輸送の移行を容易にするための施策を実施していただくことを要請いたします。
  • バス等に転換する場合は、バス等の代替交通機関の定時性や速達性、安全性を高め(車体の強度を高めるなど)、一定以上の距離を走るバスにはトイレを設置するなどその弱点を極力補い、より利便性が高く持続可能な交通機関にするための対策を講じていただくことを要請いたします。

 交通政策基本法には、国民等の交通手段の基本的な需要の適切な充足(第二条)、国民の交通手段の確保その他必要な施策を講じることの必要性(第十六条)、交通の利便性の向上(第十八条)等が謳われています。また持続可能な開発目標(SDGs)の目標11には安全で安価な公共交通機関などの整備が謳われています。これらの目標を達成するには鉄道を含めた公共交通機関の維持と活性化が不可欠であると考えます。

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