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「自動車への環境税・渋滞税導入でクルマ以外の移動手段推進を! ― 自動車関連税制をはじめとする交通政策に関する意見書 ―」提出

投稿日:2008年4月20日 更新日:

2008年4月20日、クルマ社会を問い直す会では、持続可能な地域交通を考える会 (SLTc)、エコ・クリエーターズ・クラブと共同で、関連する立法・行政各位に宛てて「自動車への環境税・渋滞税導入でクルマ以外の移動手段推進を! ― 自動車関連税制をはじめとする交通政策に関する意見書 ―」を提出いたしました。

自動車への環境税・渋滞税導入でクルマ以外の移動手段推進を!
― 自動車関連税制をはじめとする交通政策に関する意見書 ―

「持続可能な地域交通を考える会」のサイト内の、意見書のページ

各 位

自動車への環境税・渋滞税導入でクルマ以外の移動手段推進を!― 自動車関連税制をはじめとする交通政策に関する意見書 ―

平成20年 4月20日 クルマ社会を問い直す会
エコ・クリエーターズ・クラブ
持続可能な地域交通を考える会

 私たちは現状の「クルマ社会」が引き起こす様々な問題に向き合い、持続可能な交通・輸送手段が優先されクルマ優先ではなく人が優先される社会の実現に向けた諸活動を推進しているところです。

 後述するように、自動車が引き起こす様々な問題に対処するためには、自動車利用者の負担は引き上げるとともに、クルマを減らし、徒歩・自転車・公共交通による旅客交通および鉄道・船舶による貨物輸送が優先されるための政策を実施する必要があります。具体的には、以下の政策を実施するよう求めます。

1.自動車の社会的費用を利用者に負担させること。

自動車は様々な社会的費用(自動車利用者が自ら負担せず、他人や社会に押しつけられている費用。たとえば大気汚染・騒音などの公害、繰り返される「交通事故」、渋滞に巻き込まれる公共交通、地球温暖化など)を発生させていることに加え、現行制度下では道路の維持整備にかかる受益者負担も不十分である(「道路特定財源」に加え一般財源からも投入されている)ことから、汚染者負担・受益者負担ともに過少という著しい不均衡が生じている。市場経済の下でこうした不均衡を適正化するためには、外部不経済を内部化する(汚染者・発生者に負担させる)とともに、自動車走行空間の使用にかかる受益者負担を強化する必要がある。

また、かつて固定排出源からの大気汚染その他の公害については汚染者負担原則により被害者へ補償されてきたが、自動車公害では汚染者がその社会的費用をほとんど負担していないばかりか、たとえば喘息などの被害者は補償どころか医療費すら負担させられている状況であり、このような社会正義に反する状況は直ちに改善されねばならない。

さらに、今年度より約束期間に入った京都議定書の履行が国際公約になっている現状において、日本の総排出量の 16.7%(2005年実績)を占める自動車対策が急務になっている。欧州諸国では燃料等の価格を引き上げることで消費抑制を図る政策が実施され効果を挙げているが、日本においても実効性のある政策を早急に実施する必要に迫られている。(別紙1)

こうした状況を踏まえ、ガソリン・軽油価格は値上げこそすれ「値下げ」をする余地はない。むしろ税額は引き上げ、環境税(課徴金)として自動車利用者にその社会的費用に見合う負担をさせることを求める。

2.「道路特定財源」の在り方を是正すること。

いわゆる「道路特定財源」は自動車走行空間の拡大に大きく寄与しており、これが自動車利用を誘発することでクルマをますます増加させ、自動車公害が拡大し、公共交通は競争力低下を余儀なくされてきたが、こうした状況は早急に是正される必要がある。 現に、日本よりも早く「モータリゼーション」が引き起こす様々な問題を経験した欧米諸国では、かつての「道路特定財源」を一般財源化する、あるいは公共交通整備に振り向けるといった手法により、公共交通の活用を促す経済的・社会的制度づくりが進められているところである。 かたや日本では「道路特定財源」を維持してきた間に様々な矛盾が噴出しており、こうした制度を維持することはよもや時代錯誤である。特に地方においては公共交通の衰退が著しく、いくら道路を造ったところでクルマを使えない交通弱者はますます苦境に立たされるばかりである。(別紙2)

従来の道路整備偏重の交通政策を改め、「道路特定財源」は一般財源化し自動車公害や「交通事故」の被害者・遺族への補償および交通弱者解消が確実に実施される制度にするとともに、公共交通の活用や渋滞税導入などにより公害・環境問題、交通弱者、「交通事故」などが発生しにくい交通政策を進めてゆくことを求める。

3.クルマ依存の現状から脱却するための施策を総合的に推進すること。

旅客交通においては徒歩・自転車・公共交通の利用を促進する総合的な施策を実施すること、貨物輸送においてはモーダルシフト(トラックから鉄道・船舶輸送への移行)などのクルマを減らす交通・運輸を推進するための総合的な施策を実施することが求められており、いずれも過度な「クルマ社会」化による様々な問題を抑制するために不可欠である。

こうした課題に積極的に取り組むためには、自動車保有およびガソリン・軽油にかかる課税(課徴金)強化や渋滞税導入などで社会的費用を利用者に負担させる手法(前述)、交通需要管理(TDM、モビリティ・マネジメント(MM))などの需要管理手法、および環境教育などを総合的に実施するといった方法により、マイカーやトラックではなく公共交通鉄道貨物輸送などを利用することに対し経済的・社会的合理性を与える施策を実施することを求める。

 以上のとおり申し入れます。これらの提案に対する貴殿の見解を当会(別紙2参照)宛ご回答ください。

(別紙1)自動車の社会的費用を利用者に負担させることの必要性について

 1960年代以降に進んだ「モータリゼーション」は、人間の健康と環境への影響、特に大気汚染と気候変動に深刻な被害をもたらし続けている上、「交通事故」と交通弱者の発生、騒音、酸性雨などによる土壌汚染、生態系を撹乱する土地利用、水質汚濁、廃棄物の発生なども指摘されて久しいが、これらの問題が改善する気配すらない。 もちろん、車両単体での効率改善や排ガス浄化装置の取り付け義務化などの規制的手法により車両単体の公害発生を改善した効果は大きく、こうした努力は引き続き強化してゆくことが望まれるが、そもそも自動車輸送の全体的な増加が人間や環境に及ぼす影響が、こうした改善効果をはるかに上回っているため、全体的な公害・大気汚染は増加し続けている(注1)。 その結果、地域・国・世界のどの単位で見ても、自動車輸送は大気汚染と気候変動の主因になっている。自動車からの排出ガスは化石燃料消費と直接連動しており、日本はもちろん、世界中の大気汚染物質排出量で見ても大きな割合を占めている(注2)。 [喘息有症者数(日本全国)推移] 個別には二酸化炭素 (CO2)、窒素酸化物 (NOx)、粒子状物質 (PM)、オゾン (O3)、揮発性有機化合物 (VOC) などがあり、日本においては左記すべての大気汚染物質の最大の排出源になっている(CO2 については2005年実績で 16.7%)と考えられている上、無策のまま推移すれば 2020年時点での CO2 排出量は 1990年のほぼ 2倍になるとの試算もある。日本においては自家用乗用車いわゆる「マイカー」の増加が顕著で、 CO2 排出量は 1990年度から 2004年度までに 52.6% 増加している(注3)。

 こうした状況が野放図に続いてきたのも、自動車利用者が汚染物質排出に対する責任を負わずに済む状況が続いてきたことが一因であると考える。大気汚染物質の排出という行為にかかる費用が安すぎたことから、徒歩・自転車・公共交通の利用やモーダルシフトなどで排出削減に努めるよりも排出を続ける方が得である状況が続き、結果として大気汚染は拡大を続け、たとえば近年測定が始まった PM2.5 では多くの測定局で WHO大気質ガイドライン(注4)の 2~3倍という深刻な汚染状況が続いている。 [各種消費者物価指数(CPI)と交通関係金額の変動 (1970-2005)] そうした結果として喘息有症者数は過去 18年間で 2倍超へと急増している(右上グラフ)が、公害被害者である喘息等の患者本人は補償はおろか医療費すら負担させられている状況であり、こうした社会的不正義が拡大し続けている。

 また、「ガソリン値下げ」の理由として語られる「原油価格上昇」についても、そもそも他の物価(食料品、自動車以外の交通・エネルギー費、公共料金など)に比べてガソリン価格が割安に推移している状況(左グラフ)において、ガソリン・軽油のみを「値下げ」することに社会的合理性は存在せず、むしろ不公平・不公正を助長するものであるから、「ガソリン値下げ」を求める主張に何らの正当性も存在しない。

 自動車が及ぼす様々な公害・環境汚染を食い止めるためには、これまで他人に押しつけられていた自動車公害の費用を自動車利用者本人に負担させることで、自動車利用にかかる費用を高め、不要不急の自動車利用を抑制するとともに、公共交通などを活用した交通体系を整備することが唯一最大の解決策であると考える。そのためには「ガソリン値下げ」などという選択肢はあり得ず、ガソリン・軽油価格はむしろ引き上げ、自動車がもたらす社会的費用を織り込むことが必要である

注1 『OECD世界環境白書 2020年の展望』、OECD環境局、平成14年(原著は2001年)、ISBN 4-502-64670-9、第14章「輸送」。
注2 前掲書 p.241、自動車が OECD 諸国における単独かつ最大の大気汚染物質排出源になっている。1997年時点で CO の 89%、NOx の 52%、VOC の 44% が自動車起源であった。
注3 環境省『2004年度(平成16年度)の温室効果ガス排出量について』→http://www.env.go.jp/council/06earth/y060-35/mat01_1-1.pdf
注4 2005年版で 10µg/m3。WHO『Air Quality Guidelines Global Update 2005』→http://www.euro.who.int/informationSources/Publications/Catalogue/20070323_1

(別紙2)「道路特定財源」の在り方を是正することの必要性について

これまでは日本の道路の維持管理および新設にかかる費用の 1/3 ほどが自動車以外の税源から拠出されていると指摘されており(注1)、この大部分が自動車走行空間に使われることから、道路の維持整備に投入される税金に対し自動車への課税が過少である、つまり自動車利用者は受益者負担すら満足にしていない状況が続いている。 これに対し、特に子供や高齢者などの交通弱者、およびクルマの諸問題を鑑み利用を控えている人々にとって欠かすことのできない交通手段である公共交通機関では、独立採算を求められる傾向が強い。こうした現状は、結果として公共交通の運賃が政策的に比較的割高な水準に誘導されていることを意味し(別紙1左下グラフからもその傾向が見て取れる)、環境保全・地球温暖化抑止を推進する立場からはもとより、公共交通の衰退が懸念されている現状は交通権を保障する視点からも問題視される状況である。
[地域別面積あたり道路延長]

このような交通政策が続いたことが、自動車走行距離の増加を促すこととなり、公害や交通事故はますます増加し、その被害者は生活を破壊された上に補償すら満足に受けられない状況が続いているのである(別紙1 にて既述)。 しかも、日本ではこれまで道路整備への財源を保障する「道路特定財源」により、自動車道路への予算投入が最優先されてきた。クルマを有利にする道路整備関連に巨額の財源が保障され続けた結果、今や日本の可住面積あたり道路延長は世界最大となっており(右グラフ)、この上に林道・農道などの形で造られている道路もあり、前述の問題はもとより、土壌汚染・森林破壊などによる環境破壊にもつながっている。環境的な持続可能性を担保することが求められる中、さらにこれ以上道路を増やし続けるための財源を維持することなど時代錯誤も甚だしい。

なお、かつて同様の「道路特定財源」が存在した欧米諸国では、「クルマ社会」の弊害に直面したことを受けて、既に見直しが進められている。たとえばイギリスやフランスでは既に廃止されているし、ドイツでは特定財源制度は存続しているものの年金保険料の引き下げなどに充てられている。米国では 1991年の総合陸上交通効率化法 (ISTEA) 以降、公共交通整備などに割り当てる予算が拡大されている(注2)。いずれの国においても、自動車が引き起こす大気汚染や交通事故、交通弱者排斥、土地利用の非効率さ、さらには地球温暖化といった弊害を食い止めるため、自動車利用者に環境税・渋滞税(課徴金)を課してこれを大気汚染防止や公共交通の整備活性化などに充てるとともに、交通需要管理 (TDM) や徒歩・自転車を優先する道路構造に改めるといったクルマを減らす努力がされているのである。(注3)(注4)

ところが、日本では相変わらず道路整備偏重の交通政策が続けられている。しかしこうした不均衡の温床になっている「道路特定財源」を存続させる必要性はよもや存在しないのだから、これを速やかに一般財源とするとともに、公害等の被害者へ補償を行う制度を設ける、徒歩・自転車・公共交通による旅客交通や鉄道・船舶による貨物輸送の利用を促進する制度を設ける、渋滞税や交通需要管理、環境教育などを実施するといった方法により、クルマを減らし、「クルマ社会」が発生させている諸問題が発生しにくい社会の仕組みにすることを求める。

注1 右記文献で詳説:柴田徳衛・中西啓之・編『クルマと道路の経済学』、大月書店、1999年、ISBN 4-272-14039-6。上岡直見『市民のための道路学』、緑風出版、2004年、ISBN 4-8461-0409-5。
注2 西村弘『クルマ社会アメリカの模索』、白桃書房、1998年、ISBN 4-561-71120-1。
注3 John Pucher, Christian Lefèvre『都市交通の危機―ヨーロッパと北アメリカ』、白桃書房、1999年(原著は 1996年)、ISBN 4-561-76130-6。
注4 白石忠生『世界は脱クルマ社会へ―逆行する日本』、緑風出版、2000年、ISBN 4-8461-0014-6。

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