会の活動 提言・提案・意見表明

「交通弱者の人命と安全な移動を最優先で守る道路交通対策を求める要望書」を送りました

投稿日:2024年8月5日 更新日:

本会ではこれまでも歩行者や自転車利用者(交通弱者)の安全を守る対策を求める要望書を、関係省庁に何度も出しています。
自動車優先の国の方針はなかなか変わらないものの、大きな事故などを契機に、関係機関のご努力により道路交通環境は少しずつ改善されてきています。

特筆すべきは、2026年9月から生活道路の法定速度を時速30㎞とする道路交通法改正案が今年7月に決定したことです。
これは当会でも25年ほど前から折に触れて何度も要望してきたことで、大きな前進だと思います。
とはいえ、歩行者や自転車利用者の犠牲が多い現状はまだ続いており、交通事故自体も昨年からまた増えています。
そこで今回新たに、事故犠牲者を一人でも出さないことを願って、この要望書を、警察庁、国家公安委員会、国土交通省宛に送りました。
(以下は警察庁宛の文です。)
*8月上旬に警察庁交通局より、「今後の警察活動の参考とさせていただきます」という回答がありました。

2024(令和6)年7月 28 日

警察庁長官 露木康浩 殿

クルマ社会を問い直す会
共同代表 青木 勝 足立礼子
https ://kuruma-toinaosu.org/
group@kuruma-toinaosu.org

交通弱者の人命と安全な移動を最優先で守る道路交通対策を求める要望書

 

私どもは、交通事故をはじめクルマ社会の問題を考え、交通弱者の安全が最優先に守られ、だれもが平等に移動できる交通社会の実現を願って活動をしている全国市民団体です。

貴庁をはじめ関係省庁の皆さまの交通安全対策へのご尽力に、感謝いたしております。

しかし、残念ながら2023年の交通事故は事故件数・死者数・負傷者数とも前年度より増え、24時間以内死者数は2,678人(1年間の死者は3500人前後と推計)、重傷者数は27,636人にのぼります。半世紀前の交通戦争時代に比べれば減ったとはいえ、今なおこれほど多くの人々の生存権を侵害する事態が繰り返されている現場は他に類がありません。中でも歩行者・自転車利用者、高齢者や子どもの被害が多い現状は、わが国の道路交通が弱い者の犠牲の上に成り立っている現実を表しています。

先頃、警察庁においては、生活道路の法定速度を時速30㎞に定める方針(2026年9月より実施予定)を出され、歩行者の事故削減につながることと期待しております。

この対策に続いて、より安全・安心な移動空間を創出するためにさらなる規制強化や対策をお願いしたく、その提案を以下に要望として記しました。

欧州の安全先進諸国では、交通事故死者・重傷者をゼロにする「ビジョン・ゼロ」政策を掲げ、国と関係組織の連携により、交通弱者の安全を重視した対策を実施し、大きな効果をあげています。日本においても「一人の命も失わせてはならない」という責任意識をもって以下の対策要望の実施をご検討いただけますよう、切にお願いいたします。

★本要望書は、国家公安委員長、国土交通大臣、各位へも送付しています。省庁連携にて前向きにご検討をお願いいたします。

 

【具体的要望項目】

1:一般道路(高速道路、自動車専用道路を除く道路)の制限速度を次のように定めることを要望いたします。

1-1:規制速度標識のない一般道路は、法定最高速度を時速30㎞とする。かつ、市街地の道路は法定最高速度を原則とする。

1-2:市街地の中でも、幅員6m前後の車道と分離した歩道のない道路、住宅地などの生活道路、小・中学生が通学によく使用する道路、教育・保育・コミュニティ関係施設および公園の各周辺道路については、規制速度を時速20㎞以下とする。また、これらの道路では、歩行者を見かけたら徐行することを義務づけ、路面への目立つ速度表示や模様ペイントなど、ドライバーに速度抑制を促す対策を講じる。「ゾーン30」「ゾーン30プラス」のエリア内にも 時速20㎞以下のゾーンを積極的に設け、さらなる速度低減化をはかっていく。

1-3:自転車走行空間がない、もしくはあっても車道に線を引いただけの自転車通行帯しかない道路は、規制速度の可能な限りの低減をはかる。

1-4:幹線道路等で、車道と分離した歩道および自転車道のある道路は、規制速度を時速50㎞とする。

(補足理由)

一般道路の法定速度は現在60㎞/hのため、制限速度表示のない道路は60㎞/h前後で飛ばす車が多くみられます。制限速度表示のある道路でも速度超過して走ることが常態化し、逆に制限速度遵守で走る車は迷惑がられるという現実があります。しかし、全死亡事故のうち制限速度違反によるものは25%に上り、速度を守った場合に比べて死亡率は9.2倍になります*1。一般道路での死亡事故は危険認知速度50㎞/hが最も多く、次いで60㎞/hです。致死率は40㎞/h以下で1%のところ、50㎞/h以下で3倍、60㎞/h以下で6倍と急激に上がります*2。

日本では長年、死亡事故のうち歩行者・自転車乗用者の割合が約半数にのぼり、その約半数は自宅から500m以内で被害に遭い、死亡率、死傷率は高齢者と小学生が高くなっています。

欧州では都市部全体を時速30㎞制限にするまちが増えており、交通事故の2割減少、大気汚染・騒音の改善などの効果がノルウェー交通経済研究所の調査で明らかにされています*3。

日本では生活道路の法定速度を2026年9月から時速30㎞にする道路交通法施行令改正案が出されましたが、時速30㎞制限の範囲をより広範囲に市街地全体などに広げることで、まち全体の安全が向上します。

一方、生活道路のような狭い道路では、歩行者や自転車にとって時速30㎞の車がすぐ脇を走ることは決して安全とはいえません。上記1-2に記した道路では、車の速度は時速20㎞以下で、かつ、できる限り徐行運転を義務づけることが望まれます。

デンマークやオランダ、ドイツなど欧州各国では、住宅街を時速10~20㎞制限の子ども優先のエリア(ボンエルフなど)にする取り組みが浸透しています。最も弱い立場の者の身体特性や行動特性を考慮した交通安全対策、まちづくりを要望いたします。

*1:令和2~4年。警察庁資料。

*2:平成30~令和4年。警察庁資料。

*3:https://forbesjapan.com/articles/detail/71391?s=ns

 

2:制限速度を徹底して守らせ、速度超過による事故を減らすために、また、道路交通法違反による事故を減らすために、次の施策を要望いたします。

2-1:道路、特に一般道路に速度違反自動取締り装置の設置を増やし、速度違反の取り締まりを強化する。設置場所は、事故や速度違反の多い地点のほか、通学路、教育・保育施設や公園の周辺なども対象とする。また、平均速度取締装置の設置も増やす(平均速度表示を行うこ ことで、一過的な速度遵守ではなく、恒常的に速度遵守の習慣を促す効果が期待できる)。

2-2:速度違反として検知する超過速度は、制限速度に極力近い速度に設定する。現在一般に設定されている検知速度では違反への認識の甘さを抑止する効果がない。

2-3:日本で速度違反自動取締り装置の設置が進まない理由の1つに、違反者に対する出頭要請等の処理の手間の多さが挙げられている。その手間を減らし効率化を図るため、装置の読み取ったナンバープレートの登録住所へ違反通知・違反金支払い通知を自動送付するシステム を整備する*4。

2-4:信号無視、一時不停止、横断歩行者妨害、携帯電話使用、交差点内停止、追い越し禁止違反等についても、ナンバープレート自動認識装置とAI等を利用した自動取締り装置の設置を増やし、取締りを強化する。

2-5:速度違反や信号無視、横断歩行者妨害、ながら運転等の違法行為が人を死傷させるリスクに直結するという重大性を認識させ、再発を防ぐため、違反に対する罰則・罰金を大幅に強化する。現状では罰則・罰金も司法判断による刑罰も極めて甘く、抑止力になっていない。

*4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9F%E5%BA%A6%E9%81%95%E5%8F
%8D%E8%87%AA%E5%8B%95%E5%8F%96%E7%B7%A0%E8%A3%85%E7%BD%AE

「事後捜査の負担」、「世界各国の速度違反自動取締装置」参照。

(補足理由)
北欧など欧州諸国では、一般道に速度違反自動取締り装置等を多く設置し、速度違反や信号違反などの監視を強化し、かつ違反者に高額の罰金を課すことにより、速度遵守などの徹底に大きな効果をあげていることが報告されています。カメラをあえて見える位置に設置して自発的に法を守らせる手法も功を奏しています。速度違反の検知速度も非常に厳しく、罰金も再発防止のため高額に設定している国が多くみられます。

また、違反者への通知の自動システム化を導入すれば、多くの違反について取締まりから反則金納付書の送付までを自動的に行うことができ、手間も大幅に節約でき、装置を多く設置しても対応できると思われます。

速度違反等違法行為のもたらす危険性に対する認識が甘い日本の多くのドライバーに速度遵守や一時停止、歩行者優先の意識を徹底させることは、事故削減の重要なカギとなります。「スマホ注視」などの「ながら運転」の抑止にも有効です。早急な実施をお願いいたします。

 

3:一般道路は自動車だけでなく歩行者・自転車利用者も平等に利用する権利があること、公共交通はマイカーに優先されることを保障し、その認識をみなが共有できるよう、次のことを要望いたします。

3-1:歩道、自転車通行空間がない道路は、可能な限り車道の車線数削減や車道の幅員の削減によってその確保を進める。

3-2:幅の広い中央分離帯がある場所は、中央分離帯を撤去するか細い柵にすることにより、自転車通行空間および車道との間隔を確保する。

3-3:複数車線の道路で路上駐車が多い場所は、1車線がほどんど機能していないので1車線を潰して荷捌き停車場や植栽、電柱スペースとして緩衝帯とし、その左側に自転車道又は自転車専用通行帯を設ける。ただし、交差点付近は右左折時の見通しの確保を第一とする。

3-4:自転車専用通行帯または自転車通行帯(車道端の簡易的通行帯)の歩道側に植栽や電柱帯がある場合、その場所を入れ替えて自転車通行空間と車道との間に植栽や電柱帯を配置する。ただし、交差点付近は右左折時の見通しの確保を第一とする。

3-5:生活道路は、歩行者・自転車が優先的に使用できる場所であることを車の運転者が明確に認識できるような「道路標示」(目立つカラー舗装など)を施す。

3-6:生活道路を通行する自動車の車幅は「車両制限令」第5条・6条に則るよう、各地域の警察署で道路に制限車幅数値の表示を掲げ、通行車両に周知する。

3-7:路上駐車の取り締まりを強化する。

3-8:バスや路面電車の優先レーンや優先信号を渋滞する全ての場所に整備し、バスや路面電車の速達化をはかる。

(補足理由)

日本で歩行者・自転車利用者の事故被害割合が多い要因の一つに、歩行者・自転車が安全に移動できる空間の乏しさがあります。一般道の歩道設置率は15%で、車道横の狭い路側帯を歩かねばならない道路が多く、通学路も例外ではありません。

日本の自転車の交通分担率は、先進諸国の中で自転車大国と言われるオランダやデンマークに次いで多いにもかかわらず、自転車通行空間は欧米諸国と比べて桁違いに少ない(東京23区の面積当たりの自転車通行空間はコペンハーゲンの1割弱*5のが現状です。近年欧米では、地球温暖化防止やSDGsの観点から車道を減らして自転車道や歩行空間を増やし、公共交通網を使いやすくし、自動車利用を減らす対策に舵を切り替えています。国土交通省では「歩いて暮らせるまちづくり」を提唱されていますが、その実践のためにも自動車利用削減は必須です。

*5:国土交通省資料「自転車等利用環境の向上の取組」より

 

4:多発する交差点での事故、右左折車による歩行者や自転車利用者の被害を減らすため、歩車分離信号の増設を、設置条件の前向きな見直し(ヒヤリ事故が1件でも起きたら検討する、等)とともに要望いたします。

(補足理由)

歩車分離信号は、「過去2年間に右左折による人対車両の事故が2件以上発生した場合」等の設置条件や、渋滞への考慮を求める指針などがあり、設置率は未だに全信号の5%に届きません。しかし、渋滞より安全が重要であり、状況により渋滞はむしろ減るというデータも警察庁は示しています。右左折事故が起きやすい交差点、1件でもヒヤリ事故の起きた交差点などを対象に、「事故が起きる前」の設置を進めてください。

 

5:上記要望に記した交通安全対策には、それに見合う十分な予算が必要です。関係省庁 は「第11次交通安全基本計画」達成のために必要な予算確保に努めることと同時に、以 下の点も要望いたします。

5-1:立ち遅れている自転車の環境整備として、駐輪場も含めての費用を国が地方自治体に補助金 として出す。

5-2:国は94・95年度に自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の積立金から借入れた金額のうち 今も約6000億円が未返済で、その一方で2023年4月から自賠責保険加入者の保険料に「被害者  保護増進等事業に充当するための賦課金」を上乗せしている。しかし、保険料の目的から考え ると、国が未返済の借入金は、交通事故防止対策に充当するのが筋である。借入金の早急な返 済と交通安全対策への活用を行なうこと。また、自賠責保険の積立金も、事故被害者への手厚 い救済と交通事故防止に積極的に役立てるよう、使途を明確化すること。

5-3:交通事故削減には公共交通網の拡充と利用推進も欠かせない。鉄軌道と道路の予算配分(令和5年で鉄道予算は道路予算の5%)に見るような道路偏重を大幅に見直し、公共交通網拡充推進と、自動車から公共交通への乗り換え誘導策を、国の責任において取り組むこと。

 

★本要望について、意見交換の場を設けていただきたく、お願いいたします。もしくは、文書にてご回答をお願いいたします。

 

-会の活動, 提言・提案・意見表明

Copyright© クルマ社会を問い直す会 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.