クルマ社会の諸相

“建築基準法”の「みなし道路」に係る問題点

投稿日:2011年2月28日 更新日:

■“建築基準法”の「みなし道路」に係る問題点■
田中 牧

“建築基準法”の「みなし道路」に係る問題点(PDFファイル)

1.法律で道路はどのように規定されているか

 “建築基準法”の「みなし道路」の規定とこれにかかわる行政の運用が、国民の生命の安全を脅かし、その生活の質を低下させているという現状を指摘することが本論のテーマである。
 1952年12月5日に施行された“道路法”は、「この法律は、道路網の整備を図るため、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定め、もって交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的とする」が、適用されるのは公道のみである。
 これに対し、1950年11月23日に施行された“建築基準法”は、「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」が、適用されるのは公道に限らず私道も含まれる。そして、“建築基準法”の道路は、大きく分けると、幅員が4m(地方によっては6m)以上の場合(42条1項)と4m未満の場合(42条2項)に分かれ、後者を「二項道路」とか「みなし道路」と呼んでいる。「二項道路」の場合には、道路の中心線から2m以内の部分は道路とみなされ、建物の建て替えが順次進むにつれ、やがて、幅員4mの道路が出来ると期待した。自家用車が普及していない、1950年代の私道の幅員は1.8m~2mの道が多く、建物を新築する際には、既存の道から左右それぞれ約1mずつ、後退(セットバック)することになる。
 現在、横浜市は360万の人口を抱え、18の行政区に分かれている。敗戦当時は、農地や山林だった土地に、東急田園都市線などの鉄道を敷設し、又、歩道付きの、往復4車線の幅員10数mの道路を建設した後に、住宅が建設された内陸部の青葉区や都築区は、「みなし道路」が少ないのに対し、敗戦前に住宅が建設された沿岸部の中区や南区などは、「みなし道路」が多い。

2.道路が4mに拡幅されることの長短

 自発的であれ、義務的であれ、みなし道路が拡幅され、4m前後の幅員となると、そのプラス面は、①介護車輌などが進入しやすくなること ②道路がきれいになり、歩行者が通行しやすくなること ③道路幅員が広がり、車の通行が確保されることで、隣接する敷地の資産価値が上がることである。しかし、反面、①道路幅員が広がった分、クルマが以前よりスピードを出すことになり、歩行者の危険が増大する、というな大きなマイナス面がある。

横浜市南区庚台87-15の私道は、隣人のブロック塀の撤去を機に、当 会会員・永田治夫氏を含む地権者の総意で自発的なセットバックをし、みなし道路の拡幅をした。左上写真は、2000年9月18日撮影。右上 写真は、2007年9月18日、当 会会員・富田義之氏撮影。

3.「二項道路」の規定はどうあるべきか

 “建築基準法”を制定した目的は、建築物に関する基準を定めることで、国民の生命、健康及び財産の保護を図ることにあった。そして、“建築基準法”が、道路の規定を設けているのは、幅員4m以上の道路に接する敷地に建築物を建てることを義務付けることで、災害時の安全性や防火の面から安全を確保するためであった。“建築基準法”が施行された1950年代は、マイカーなどは無く、クルマの通行の危険と歩行者の安全の確保が考慮されていたとは思えない。
 “建築基準法”の施行から60年経過した現在、“建築基準法”の「みなし道路」の規定に従い、道路幅員は2mから4mに広がっていくが、手をこまねいていれば、この「みなし道路」は、人(歩行者)優先でなく、クルマ優先の道路となり、人(歩行者)の安全が脅かされる。建築物に係る安全を確保するために、4mの道路幅員を義務付けしたことが、今度は、クルマに対する人(歩行者)の通行の安全を損ねるという結果を生んでいる。 そこで、クルマに対し、人(歩行者)が安全に道を歩く権利を保証するために、「みなし道路」の規定に、「歩行者の安全を確保する」という趣旨の規定を追加することで、道路幅員が広がっても人(歩行者)が安全に通行する権利 があるのだということを明確にする必要がある。

4.“都市計画法”との関係において

 1969年6月14日に施行された“都市計画法”は、「この法律は、・・・都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし」、開発、つまり、道路や建物の建設の進め方、そして、人とクルマのあり方などを含んだまちづくりの方向を大きく決めている。
 『都市計画法施行令』の第19条によれば、横浜市の市街化区域の中では、500㎡以上の土地で開発行為をするには、行政の開発許可が必要とされる。そして、『都市計画法による開発許可の手引き』の「接 続道路」規定によれば、「建築物が建ち並んでいる等拡幅が困難と認められる場合には、次の①建築基準法第42条第1項に規定する道路、または、②2.7メートル以上の幅員を有する建築基準法第42条第2項に規定する道 に規定する道路を接続道路とすることができるとされ、かつ、また、上記①または②の区間の延長が60メートル以内ごとに次の(ア)又は(イ)のいずれかの道路が確保されているもの

  • (ア)車両のすれ違いが可能な幅員4メートル以上の道路空間
  • (イ)幅員2.7メートル以上の道路と交差し、車両の退避が可能な交差点」

とされている。
 この規定を法律の目的に照らして素直に読むならば、上記の接続道路要件を充たさない土地は開発行為ができないはずである。ところが、実際は、開発業者は、500㎡未満の細かい敷地面積に設定することで、”都市計画法”の規制を免れ、また、行政(特に、筆者が住む横浜市)もこれを後押しすることで、道路が未整備なまま、すなわち、歩行者の安全がないがしろにされたままの不健全な市街地が無計画的に実現されているのである。こうした意味では、「クルマ社会」とは、「 野放図な開発促進社会」と 同義であると言ってよい。

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