提言・提案・意見表明

トラック等の自動車による歩行者事故被害を減らす対策強化の要望

投稿日:2015年11月6日 更新日:

2015年11月1日、クルマ社会を問い直す会は「トラック等の自動車による歩行者事故被害を減らす対策強化の要望」を提出しました。
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国家公安委員会委員長殿

警察庁長官殿

内閣府政策統括官(共生社会政策担当)殿

国土交通大臣殿

2015111

クルマ社会を問い直す会   

トラック等の自動車による歩行者事故被害を減らす対策強化の要望

我が国の交通事故は減少傾向にあるとはいえ、平成26年の死者は4838人にのぼり(事故後30日以内死者。前年の1年間死者数は6000人弱)、負傷者は70万人を超えています。また、死者の半数は歩行者・自転車利用者という現実が示すように、交通弱者の安全が脅かされている現状が長く続いています。

違法運転や不注意運転による事故は常態化しています。さらに今、種々の道路建設、2020年東京オリンピック関連、国土強靭化関連、リニア中央新幹線等、各地で工事が進行または予定されており、工事関係車両の増加、時間・経費節減による安全運転の軽視など、交通事故の要因がさらに増えることが心配されます。また、2017年より車両総重量3.5t~7.5t未満の運送用等のトラックの運転免許(準中型運転免許)が18歳から取得可能になるとされ、若年運転者による事故増加も懸念されます。このような状況下で、以下のような事故予防策の強化を要望いたします。第10次交通安全基本計画にもぜひ反映させてください。

1.歩車分離信号(完全型)の増設

 交通死亡事故を事故類型別にみると最も多いのは人対車両(横断歩道とその付近横断中)で約25%にのぼります。歩車分離信号は、歩行者を守る効果が高く、車両同士の事故防止にも有効な信号システムです。一般に歩行者巻き込み事故などは右折時が多いことから、右折のみ分離式の交差点が多いのですが、分離式になっていないことによる事故もあり(*1)、安全確保には完全分離式が望まれます。犠牲者を出す前に、自動車交通量特にトラック交通量の多い交差点では完全型歩車分離信号の早急な増設を進めてださい。

 なお、警察庁では平成23年に歩車分離式信号の整備推進の通達を出し、平成26年度末までに合計2600基以上の整備を計画目標に掲げています。どの程度整備推進が進み、それによりどのような変化が見られるかについて、お知らせください。

*120153月に東京都多摩市の右折のみ分離式の新大栗橋交差点で、横断歩道を青信号で横断中の8歳女児が左折トラックにはねられて死亡した事故は、完全分離式であれば防げたもので、ご遺族、市民、市長らの要望で完全分離式への変更がなされました。また、201211月に広島市の県道交差点でトラックが左折時に横断歩道上の小学生をひいて死亡させた事故でも、歩車分離信号の設置が望まれると分析されています(国土交通省中国運輸局平成25年度自動車安全セミナー発表事例)。

2.幹線道路の制限速度の強化

自動車はスピードが上がるほど歩行者や自転車を見落としやすく、衝突・接触時に与える被害も大きくなります。一般道の中でも国道、都道府県道などの幹線道路は制限時速4060㎞の区間が多くありますが、ほとんどの車は制限速度より速度超過して走ることが常態化しています(平成26年中の国内の道路交通法違反の取締り件数のうち最多は最高速度違反で約184万件)。幹線道路でも歩行者が多く横断するところや、歩道や自転車レーンが分離していないところも多くあります。そのような道路は制限時速を30㎞以下に下げてください。また、速度を下げる理由をドライバーに周知徹底させ、違反取締りと罰則を強化してください(*2)

*2:衝突時速度が時速30㎞を超えると致死率が急激に上がることは、警察庁交通局の「速度規制の目的と現状」資料等にも記され、「ゾーン30」の根拠にもなっています。ただし、その理由を理解して低速走行をするドライバーは極めて少ないように見受けられます。

3.一時停止線での停止の指導、取締り強化

信号のない交差点の一時停止線で確実に停止する自動車はほとんどありませんが、一時停止をすれば出会い頭の事故を大きく防げることが指摘されています(*3)。一時停止を必ずするよう指導教育および取締りを強化してください。

*3:松永勝也九州大学名誉教授など。

4:中型・大型自動車の車体の安全対策の義務づけ

車体の安全対策に関する装置については、別提出の「最近の重大交通事故を教訓とした緊急要望」に記載の通り、全車装備義務化をしてください。

さらに、中型・大型自動車については以下の装置の取り付けについても義務づけをし、導入推進を図ってください。

◎ふらつき注意喚起装置

◎車両横滑り時制動力・駆動力制御装置

◎後方視野確認支援装置(バックアイカメラ、近接センサー、複合曲面ミラー、等)。

GPSつきデジタルタコメーター、ドライブレコーダー(これらは上記要望書にもありますが、スピード抑制の行動監視としても重要であり、タコメーターは制限速度内の一定速度での安定した運転を促す訓練にもなります。運行管理者による機器の毎日のチェックも義務づけてください。)

5:運転に影響する病気の検査の義務化

免許取得時・更新時に、道路交通法で定めた運転に影響する病気の医療機関による検査と診断書提出を義務づけ、問題がある場合は免許交付を止めてください(*4)。 

中でも睡眠時無呼吸症候群はスクリーニング検査(睡眠時の血中酸素濃度を経皮的に測定する方法など)が可能なので、早急に実施してください(*5)

無自覚性低血糖については、インスリンなど薬剤療法中の糖尿病患者には年1回医師による無自覚性低血糖がない旨の証明書提出を義務づけ、無自覚性低血糖がない場合も「運転前に血糖値を測定して100/dl以下なら運転しない」「運転中は1時間ごとに血糖値を測る」ことを義務づけてください。

心血管病に関してはホルター心電図のほか有効な検査方法について専門医による研究を進めてください。心筋梗塞や狭心症の発症後は一定期間(例えば最低でも3か月間)運転禁止とし、再度運転を希望する場合医師の診断書の提出を義務化してください。

・アルコール中毒については、久里浜医療センター開発の久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)を義務化し、「依存症の疑い群」は免許交付を止めてください。また、検査の義務化がされていない現状においては、飲酒運転で検挙されて免許停止等になった者が再度免許申請をする際には医師の診断書提出を義務づけ、「飲酒運転歴」を記録して継続監視してください。

認知症が原因で歩行者が死傷する事故が多発しています。認知症は若年性もあるので、検査は少なくとも50歳以上から義務化してください。

視野狭窄を伴う緑内障などの検査の必要性も関係学会等から意見が出されています。加齢とともに視野狭窄の症状は増え、信号や交通標識、歩行者等の確認能力も低下します。高齢化が進む中、眼底検査と視野検査も早期義務化対象としてください。

国土交通省の「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル平成26年改訂版」によれば、運輸交通業労働者は心血管病等の割合が全産業平均より10ポイント以上高く、約64%に及ぶと報告されています。その点をふまえ、運輸ドライバーには①②の検査を年1回行うことを運輸事業者の責務とし、過重労働がないか抜き打ち検査などで監視を強化し、違反時の刑罰を重くしてください。

*4:当会では2011920日に「自動車運転免許取得・更新時の、医学的・技能的・資質的運転適性検査の義務化を求める意見」を提出しています(再添付します)。

*5:睡眠時無呼吸症候群の患者は国内に数百万人いるといわれますが、眠気など自覚症状のない場合も多く、日本人は非肥満者でも発症する例が多いといわれ、スクリーニング検査の重要性は多くの専門家から指摘されています。

6:定期的な運転技能・資質の検査および教育の義務化

通常、免許取得後は運転技能の再検査・再教育の機会がありませんが、事故を防ぐには定期的な運転技能・運転資質(性格)の検査や教育が必須です。免許更新時は簡単な講義やビデオ教育ですませるのではなく、再検査・再教育の場としてください。また、交通違反者には別に定期的な再検査・再教育を義務づけてください(これも注4の意見書に記載)。

さらに、運輸事業者によるドライバーへの検査と教育も義務づけてください。教育は受け身の講習ではなく、運転シミュレーターによるもの、自ら行動をふり返り課題に気づかせて行動変容を促す行動療法(*6)等、実効性のある教育を専門家の助言のもと行ってください。

*6フィンランドでは、事故や違反を起こした者にはグループ討論による自己分析などを通して行動変容を促すカリキュラムが設けられ、効果が認められています(公益財団法人国際交通安全学会レポートより)。

以上

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