度外視されてきた道路の維持費用
田中角栄氏らが「道路特定財源」(=現在に通じる自動車諸税)を創設した頃は、道路は造ることしか考えられていなかった。有料道路(高速自動車道路)にしても、建設費を償還した後は無料化することを前提にしており、当時は道路の維持費を度外視していたわけだ。
歩行者や自転車が通るくらいならば道路はほとんど傷まない。自動車もごく少数であれば負担は少ない。しかし1970年代以降国策として「モータリゼーション」が進められ、自動車が激増したことで状況は一変した。
物理法則として衝撃力は速度×速度×重量で決まる。重量物である自動車が高速で走ると道路は激しく傷むので、生活道路や歩道ではめったに舗装替えはされない(生活道路では工事等で地面を度々掘り返すことで傷んで修繕されることが多そうだ)のに対し、自動車の通行量が多い道路では定期的に舗装替えが行われている。
また、南北に長い日本は気候の変化に富み、北海道、東北、北陸を中心に豪雪地帯が多い。冬は除雪に、さらに寒冷地では舗装面にクラック(ひび割れ)が発生して補修費用も嵩む。気候変動が深刻化する近年は道路のひび割れがさらに増えているようだ[7]。
自動車が普及する前は、雪国では積雪期には2階などから出入りし、雪の上を歩いていたこともあった。しかし自動車を通すためには除雪が不可欠。ところが鉄道の除雪や保線が原則運賃負担で行われているのに対し、道路では除雪や路面補修費用すら自動車利用者は満足に負担していない。
そして、前述したように日本では1960年代以降に築造された道路インフラが多いが、半世紀経って老朽化が顕著になっている。
2012年に中央自動車道の笹子トンネルで天井板のコンクリートが崩落する事故が起き、それを契機として国交省は全国のトンネルや橋などの道路インフラに5年毎の点検を義務づけた[8]。
今年は道路下に埋め込まれている埼玉県の幹線下水道管が崩落した事故が記憶に新しいが、国交省では2012年の事故をきっかけに従来の後追いの対策(事後保全)から「予防保全」に切り替えることとし[9]、これで大幅にコストを削減できる(今後30年間の累計で約3割の費用縮減効果)と見込んでいる。ところが、現在の過少な自動車諸税ではこうした維持管理費用を賄うことができず、自治体によっては点検や予防保全(老朽化対策)の費用捻出に苦慮し、橋等が撤去される事例も出始めている[10]。
これらは自動車利用に直接係わる費用であり、自動車諸税は道路整備費用の捻出を念頭に創設された税制であることは前述した。しかし現在の自動車諸税では道路の維持管理にかかる費用すら賄えていない状況を見れば、むしろ「ガソリン値上げ」が必要な状況であることは明白だが、こうした現実に触れずに「ガソリン値下げ」を謳う政治家やそれを批判しないマスコミの態度は今さえ・自分さえ良ければいいという利己的な態度であり、極めて無責任と言わざるを得ない。
【脚注・出典】
7. 道路のひび割れ、穴が雪国で増加…原因は温暖化「災害復旧と捉えて」新潟県知事が国に初の支援要望( 新 潟 日 報、2024年11月20日 )
8. 道路の老朽化対策の本格実施について(国土交通省)
9. 予防保全によるメンテナンスへの転換について(国土 交 通 省 )
10. 道路橋等の集約・撤去事例集(国土交通省)