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日本で遅れたハンプの普及
速度抑制施策として挙げられる道路の狭窄や屈曲ですが、実効性を伴う基準は作られておらず、地域によって形状・効果に差があるのが現状です。また狭い生活道路では、これらの設置が物理的に難しいことも少なくありません。そこで省スペースながら上下方向で速度を抑制できる「ハンプ」がきわめて重要なものとなります。
アメリカではハンプを「スリーピングポリスマン(眠る警察官)」と呼びます。これは、あたかも警察官が立っているかのように、ドライバーが自発的に速度を落とす効果がハンプにはあるということを的確に表した表現です。ただの凸部が警察官と同じ抑止効果を持つ、という意味で非常にポジティブな名称です。しかし、これほど有効なハンプが、世界でおそらく最も普及していないのが日本です。過去の失敗経験(円弧ハンプの問題)が尾を引き、長らく「ハンプ=悪」というイメージが定着してしまいました。
この状況を変えるため、私たちは2000年に様々 な形状のハンプを作って実験を行い、最も効果的で、かつ騒音や振動、危険性が少ない形状はサインカーブ(三角関数のサイン曲線)であることを突き止めました。国土交通省がようやく設計基準を発表したのは2016年(平成28年)のことですが、この中で提示されているハンプの標準形状は、台形の前後の勾配部をサインカーブ型にしたものです。この形状であれば、時速30km以下で通過すれば不快感はなく、30kmを超えると明確な突き上げ感があるため、ドライバーは自然と速度を落とすようになります。
日本の生活道路には歩道がないことも多く、高齢者を含む歩行者や自転車、車椅子利用者もハンプを通過することになるため、バリアフリーへの配慮が不可欠です。設計基準はもともと道路のバリアフリー基準を満たすように定められていましたが、実験の結果でも、適切に設計されたサインカーブハンプであれば、つまずいたり転んだりすることなく通れることが確認されています。
住民主導で始まったハンプ導入
以上のように技術基準が整備されたことで、地域住民の声に応える形でハンプの導入が始まりました。東京都小金井市では、住宅街を抜け道にしている自動車の危険にさらされる住人の悩みがNHKの番組に取り上げられ、ハンプを仮設して効果を確かめる実証実験を実施することができました。また、小金井市の実験を番組で見たという朝霞市の住人の方からご要望をいただきまして、日本で初めての設計基準通りのハンプの恒久設置にこぎつけることができました。
当初は道路管理者や警察からもハンプ設置に反対されることが多かったのですが、少しずつ理解が進み、音や振動の問題がないことも確認していただき、埼玉県内での設置事例が増えてきました。上尾市では交差点の手前にハンプを作って一時停止を確実にするという取り組みも見られました(写真A)。

写真A:上尾市浅間台大公園横のハンプ(現在では撤去ずみ)
そうして、2006年時点で導入のあった4市で設置前後の事故件数を比較したところ、設置前の18件が設置後は4件と、8割減を達成できたのです。