会報より『事務局より』

2008年4月発行第51号 事務局より

投稿日:2008年4月26日 更新日:

清水真哉

 福岡三児死亡事故の地裁判決で危険運転致死傷罪が適用されなかったことで、あらためて「危険運転致死傷罪」という法律が問われています。私は以前にこの欄で、この法にある「正常な運転が困難な状態で」という適用条件を削除すべきと指摘しました。さらに必要なことは、危険運転致死傷罪以前に「危険運転罪」という法律を設けることです。事故を起こした起こしていないに関わらず、飲酒運転やスピード違反、信号無視などを犯した者はこの罪に問い、故意犯として取り扱うのです。高速で走行する自動車の潜在的危険を考慮すると、こうした行為は路上で刀剣を振り回すのと類似の行為として捉えられるべきです。危険運転致死傷罪はその延長線上において初めて論理的に位置づけられます。
 福岡の事件では犯人は事故を起こした後、被害者の救護に当たることなく現場から逃走しました。轢き逃げという行為についても、道路交通法という枠の中に収めようとする現行法の考え方には根本的な問題があります。自動車事故に限定することなく過失致死傷、業務上過失致死傷に関して、自らの過失で負傷させた人に適切な医療処置を受けさせることなく、その人の元を立ち去る行為を罰する規定を新たに設けるべきです。罰則は、傷害致死に準ずるものとして、二十年以下の懲役くらいが適当かと思います。
 現代の科学・産業がもたらした、人間が暮らす生活空間に自動車という重量物が走行するという未曾有の現実について、法律家たちはその文明的な意味を本質的に捉えようとせぬまま今まで来てしまいました。国民の問題意識が高まった今こそ、危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪のような場当たり的な立法をするのでなく、自動車とそれにまつわる法を根本的に考え直す好機です。遅滞のない対応を望みます。

(2008年4月発行 会報第51号)

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