会報より『事務局より』

2009年4月発行第55号 事務局より

投稿日:2009年4月26日 更新日:

清水真哉

 昨年11月4日、アメリカ大統領選と同時にカリフォルニア州では、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴなどをつなぐ高速鉄道建設のための債券発行の是非を問う住民投票が行われ、賛成票が過半数を超えたそうです。
 一方、この日選出されたバラク・オバマ新大統領は、折からの世界金融危機に対応するためグリーン・ニューディール政策を打ち出し、その中にも高速鉄道の整備が謳われているようです。東海岸やシカゴ周辺でも構想があるようです。
 ビッグスリー、アメリカ自動車大手3社のトップがワシントンでの公聴会に自家用ジェット機で出掛けて批判され、次の公聴会には車で行くことにしたという記事を目にした時、鉄道という選択肢が存在しないことに遺憾な思いがしていたので、時代の転換に希望を感じました。
 環境意識の高まり、石油資源の枯渇への不安から、世界的な鉄道復権のうねりが起きています。韓国、台湾では既に高速鉄道が走り始めています。中国では高速鉄道への巨額投資が行われ、インド、ロシア、ブラジル、ベトナム、北アフリカ、中東などでもそれに続く計画があるようです。ヨーロッパ各国間では高速鉄道相互乗り入れが次々と進められています。アメリカでも既存の地下鉄や都市間鉄道の利用者数が大幅な伸びを見せているとのことです。
 日本でもJR東海が中央リニア新幹線を自己資本で整備するという耳目をそばだたせる発表がありはしましたが、鉄道大国と言われるこの国では、大規模投資が大きな効率性の向上をもたらすような案件は最早そう残ってはいないでしょう。それよりも既存の鉄道の近代化により高速バスに流れた需要を鉄路に取り戻したり、道路に再び線路を敷いてコンパクトな街づくりの軸に路面電車を据えるといった肌理(きめ)の細かい方策が必要です。
 エネルギー危機、世界同時不況という苦境の中だからこそ、次の時代への芽が芽吹いている気がします。

(2009年4月発行 会報第55号)

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