杉田正明
地域のミニコミ誌に頼まれて「持続可能な社会をめざして、クルマ社会を問う」というタイトルで短文を書きました。それを転載して今号の「代表より」とさせていただきます。ここのところ述べていることの繰り返しです。アジテーション調で書きました。
馬鹿な政策が横行しています。高速道路土日千円に続いて、自動車購入補助金を出そうというわけです。馬鹿なのは日本だけではありません。世界的にです。不況を理由に自動車産業を支援しようという政策です。
東大の山本良一さんが書かれた「温暖化地獄」「温暖化地獄ver2」を読んでみてください。地球温暖化は今や加速過程から暴走過程に入りつつあることが危機感いっぱいに述べられています。
私は温暖化への対応は最優先課題の1つと考えます。不況からの脱却、雇用の回復はこの課題と矛盾する形で行われてはならないと考えます。
クルマからのCO2排出は日本では全体の2割、アメリカでは3割以上を占めます。洞爺湖サミット前に当時の福田首相は2050年までに世界の排出量を半減させようというビジョンを示しました。しかしそれを実現するには、私たちは大変な取り組みをしなければなりません。世界の人口一人当たり許容排出量をすべての国で同じとする前提で計算すると、先進国(OECD諸国)は平均で一人当たり87%カットしなければならないのです。
すべてを再生可能自然エネルギーに依拠して走るクルマは存在しません。エコカーと言っても化石燃料に依拠しています。クルマの使用を大幅に減らすことが課題なのです。
国土交通省のホームページに輸送機関別にみた輸送量あたりCO2排出原単位が掲載されています。それによると、旅客輸送においては、営業用乗用車(タクシー)は鉄道の22倍、自家用乗用車は鉄道の9.6倍でバスの3.4倍、バスは鉄道の2.8倍の大きさで排出します。貨物輸送においては、自家用貨物車は鉄道の51倍で営業用貨物車(運輸業者のトラックなど)の6.8倍、営業用貨物車は鉄道の7.5倍の大きさで排出します。
私たちはマイカーやタクシーを使わずに鉄道、路面電車、バス、自転車そして徒歩を使うライフスタイルに移行しなくてはなりません。また貨物輸送においても、自家用車による輸送は避けて、運輸業者を使う輸送と貨物鉄道の利用に切り替えていかねばなりません。
このためには私たちは住む場所も変えていかねばなりません。鉄道や路面電車が利用できるところ,バスの利用できるところに移っていかねばなりません。戸建て住宅へのこだわりも捨てねばなりません。
バスよりは鉄道・路面電車の方がCO2排出が少ないです。従って都市に路面電車を導入して行かねばなりません。現在バスが走っている道路の大半は片側1車線ですので、道路の拡幅が望ましい場合が多く路面電車の導入には大きな困難を伴います。しかしとりあえずは片側1車線の道路でも導入すべきです。また単線運転になっても仕方ありません。温暖化を抑制するには私たちの交通手段を路面電車に切り替えていかねばならないのです。
化石燃料を再生可能エネルギーを置き換えることも当然必要です。断固進めねばならないでしょう。ただし、風力発電,太陽光発電、太陽熱利用、バイオマス利用、小規模水力発電、地熱発電、いずれについても課題が山盛りです。となると、いずれ再生可能エネルギーでクルマを走らせられるからクルマ利用を変える必要はないという考え方はとるべきではありません。
不況の打開、雇用の創出は本当の意味でのグリーン・ニューディールで行うべきです。化石燃料産業を自然エネルギー産業へ置き換えるだけでなく、自動車産業を鉄道・トラム産業へ置き換え、路面電車都市への都市再編・再開発事業を実施する形で行うべきです。
(2009年7月発行 会報第56号)