清水真哉
<人口減少する日本の将来>
リニア中央新幹線には様々な議論があるが、日本の人口減少という要素がどこまで考慮されているのか疑念がある。2027年に名古屋まで開通の予定であるが、2030年の日本の人口は今より一千万人少ない1億1,661万人、2045年に大阪まで開通したとしても、2048年の人口は一億人を割り込み9,913万人、そして2060年には8,674万人と今の七割以下の人口が予測されている。この状況で東海道新幹線とリニア中央新幹線の両線が本当に維持できるのであろうか。
JR東海は東海道新幹線のバイパスとして中央新幹線が必要と主張するが、東海道新幹線のバイパスとしては既に北陸新幹線が建設されている。ただ北陸新幹線はJR東とJR西が運行する。もしそれがゆえに北陸新幹線が東海道新幹線のバイパスにならないとするのなら、国鉄の分割は日本の鉄道政策に看過できない歪みをもたらしたことになる。
日本は極めて長期に渡る、というより、いつ終息するのか見通しのつかない人口減少の局面に入った。
人口が増加する時代に生きることに比べて、人口が減少する時代に生きることは難しく、しばしば辛い事でもある。あなたの会社で、今年は支店が一店増え、来年はもう一店と拡大していく時には社内もなごやかで気分もよかろう。それが、今年は一店閉鎖、来年はもう一店、おそらく再来年はとなれば、会社の中の空気もぎすぎすして来よう。
人口が減少していくことを計算に入れれば、多くのことでこれまでとは行動パターンを変えていかねばならなくなるはずだ。ところが慣性の力というものは大きいようで、大抵のものが縮小していく見通しであるのに、拡大志向をあらためられない人々がいる。
政府は少子化対策に多額の予算を投じているようであるが、人口減少が確実に予測できるのは、母親の数が減ることが既に確定している事実だからである。生む人数が減る以上、出生率が多少上がっても効果は限定的である。そもそも資源を多量に浪費する先進国の人口が減少することは望ましいことである。
日本の将来を考える上で、もう一つ忘れてはならないことは、日本人が今後ますます低所得化していく可能性である。
正社員は解雇し難いため、新卒の部分で、正社員として雇うのか、非正規で賄うのかの選別が厳しくなる。そのためどうしても若年層で非正規雇用の比率が高くなる。若年層での非正規雇用の比率は、年数を経ていくうち、中年層、さらには高年層の比率にスライドしていくであろう。
少子化による労働者不足が正社員化を促す反転が起こってくる可能性はあるが、非正規の比率が高まり続ける限り、日本人の平均給与所得は下がり続けると考えるべきである。
若年層の低所得化は、年とともに上の年代に持ち上がることになり、日本人全体に分厚い低所得者の層を成すことになる。それは日本の所得税、消費税、資産税、その他税収の低下を招来することになる。
所得格差はどこの先進国でも拡がっている社会問題である。東西対立が終焉し、自由主義経済圏がほぼ地球規模になったことは、単純労働者の過剰供給をもたらした。世界最大の経済大国アメリカでも低賃金労働者の層は拡大しており、今後も拡大していくであろう。
一方、企業は世界的に展開し、企業間の競争も世界規模になっている。国際的に活動できる人材は高給でも求められる。日本人の多くの大卒者が非正規の職にしか就けずにいる一方、日本の大手企業は海外から日本の大学に留学している優秀な外国人を正社員として奪い合うように雇用しているのである。
企業の戦略立案などの核となる部門では少々高い給与を支払ってでも優秀な人材を確保しようとする一方、工場を海外移転するのか日本に残すのかという選択で日本に残すと決めた場合でも、国内の人員は出来るだけ非正規で賄い人件費を低く抑えることが条件となってしまう。つまり海外の労働者と同一内容の仕事をしている限り、賃金は国際水準まで下がっていってしまう。経済政策では教育にこそお金を掛けるべしというのは、世界のどこででも調達できる単純労働以上の技能を身に付けることによってしか、所得の上昇は望めないからである。
産業を活性化させるための政策は当然とられなくてはならないが、それによって国民の所得が増大していくかのように宣伝するのは国民を惑わすというものである。最大限の経済対策を実施したとしても、厳しい国際競争の環境下、世界中のどの国も自国民の生活のために必死に努力しているのであるから、日本だけが勝ち続けられるはずもなく、生活水準が低下していくのを何とか食い止められるかというところである。
国と地方の借金の問題も、人口減少と所得低下の観点からもっとシヴィアに見る必要がある。国と地方を合わせた借金は1200兆円近く、国民一人当たり1000万円にもうすぐ手が届くであろう。人口が減少を始めたということは借金を背負う国民の数も減っていくということで、一人の国民が分担する金額はその分増える。そして借金を背負う国民の所得が減少するとは、返済能力も低下していくということである。
国債が暴落し、日本の財政が破綻したら、公共事業を通じて経済を刺激するなどという政策が認められるはずもなく、厳しい国際監視の下、福祉は切り詰められ、公共サービスの料金は跳ね上がり、その上増税され、国民は耐乏生活を強いられることになる。だったら自らのことは自ら決められる今のうちに緊縮財政を行った方がはるかに痛みは少なかろう。
自民党政権は国土強靭化と称して、防災を錦の御旗に公共事業を増やしているが、自分たちの将来をもっと冷徹に見通してもらいたいものである。
(2013年12月発行 会報第74号)