会報より『事務局より』

2013年9月発行第73号 事務局より

投稿日:2013年9月26日 更新日:

清水真哉

<果てしなき欲望の果てに 鰻とシェール革命>

 安倍政権の経済政策について、前号書き残したことがあるので、少し書かせて下さい。
 安倍政権は経団連など経済界に対して賃上げを要求している訳であるが、その一方で足元の国家公務員の給与を大幅に引き下げ、地方公務員の給与引き下げも推し進めている。日本人の平均所得が毎年じりじりと低下していく中で、公務員の給与もある程度調整されるのは避け難いことである。日本では非正規雇用の割合も上昇し続けているが、自治体や公教育の場なども例外ではない。生活保護の支給水準も引き下げられた。最低賃金よりも年金よりも高水準の公的扶助など維持しうるはずがない。このように税金で生活する人たちの収入も低下しており、日本人の所得を大幅に上昇させるという安倍政権の経済政策が空論に過ぎないことは、ここに最もあからさまに露呈している。

 日本の世論が物事を真剣に根本から理解しようとするところから発していない浮薄さは、土用の丑の日のウナギの話題でも見られた。
 日本人の節操のない食欲は、ニホンウナギの資源量を激減させ、ヨーロッパや北米のウナギを食べ尽くしてしまった。ニホンウナギはとうとう環境省によって絶滅危惧種に指定され、さらに国際的なレッドリストに分類されようとしている。だがこの期に及んでも業界には危機感が見えない。未だに食べながら資源保護をしていくなどと言っている。シラスウナギ、成魚ともに全面禁漁にするという当然の措置を誰も言い出そうとしない。それどころか今度は、インドネシア産というものを見つけ出してきて、それを絶滅するまで食べ尽くそうとしている。専門店や養鰻業者が存在するため厳しい措置が採り難いのであろうが、二十年も前から漁獲制限を行っておけば、ここまでの事態は防げたかも知れない。ところが資源量の減少は明白であるのに、スーパーで惣菜として売られていたり、資源保護に取り組む姿勢は見られなかった。このまま何の手も打たなかったら鰻は姿も見られなくなるだろう。監督官庁である水産庁の無責任、無能ぶりはいくら糾弾してもし足りない。絶滅危惧種を商業利用するなど論外である。鰻資源は業界の私物ではなく人類全体の財産である。
 鰻などハレの日のご馳走にとどめておけばよかったのに、蒲焼をスーパーの特売品にし、牛丼屋でまで鰻を出し、とうとう鰻という日本の伝統食文化を今の時代に根絶やしにしてしまうことになりそうだ。恥ずべき口汚さである。全ての日本人は、後世の日本人に対して土下座して懺悔すべきである。私はもう鰻は一生口にしないと決めた。

 いつまでも問い直す会と直接関わらない話をしていても仕方がないが、今号ではシェールガス・シェールオイルの話を書こうと決めていた。化石資源の話でも世界の人間の欲望の果てしのなさは、鰻で見るものと繋がる。
 昨年ごろから、突如としてアメリカのシェール革命について世界で語られ始めた。私のような、石油資源の有限性を強調してきた人間には、石油枯渇の日を迎えることが一生叶わなくなった。
 だが、シェールガス・オイルは、資源埋蔵量が100年分、150年分と言って、さもたっぷりあるかのように喜んでいるが、その存在はオイルサンドとともに以前から知られていたことで、ただ採掘の採算が合わなかっただけなのである。第二第三のシェール資源がいくらでも埋まっている訳ではない。だとしたら、なぜ使用量を十分の一にして、資源の寿命はあと1000年、1500年と言わないのであろうか。人類が築いた今の文明はあと百年かそこらも続けばそれで十分と言うのであろうか。それとも、今生きている自分たちが科学技術文明の恩恵に浴せば良く、後は野と成れ山と成れというほど、我々は刹那的に生きているのであろうか。
 シェール資源の登場により、温暖化対策としての化石燃料採掘制限の必要性がますます高まった。天然ガスは石炭ほど二酸化炭素を排出しないとはいえ、シェール資源の価格の安さは需要を刺激し、結果的に世界の総排出量を増大させるであろう。国際社会はいよいよ気候変動対策に真剣に取り組まなくてはならないが、その機運は見えない。
 原発が停止して以来、化石燃料への依存を深めている日本であるが、そのために貿易赤字が膨らんでいる。にもかかわらず日本人はエネルギー資源の浪費を止めない。現在のようなエネルギーの消費水準は、もはや日本人の所得水準からして身の丈に合わない贅沢となり始めているというのに。人間、一度身に付いた生活習慣はなかなか変えられないものである。

(2013年9月発行 会報第73号)

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