参議院内閣委員会 各委員あて(2022年4月11日)
衆議院内閣委員会 各委員あて(2022年4月12日)
クルマ社会を問い直す会
https://kuruma-toinaosu.org/
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2022年3月4日に閣議決定され、今国会に提出されている
「道路交通法の一部を改正する法律案」に関する意見
「道路交通法の一部を改正する法律案」に関する意見
いつも国民のためのご尽力をありがとうございます。
私どもは、交通事故をはじめとするクルマ社会の問題を考え、人命最優先の社会の実現を願って活動をしている市民グループです。会員は全国に約200名おり、交通事故ご遺族関連の会やその他交通問題の会とも交流をもちながら活動しております。
さて、2022年3月4日に閣議決定された「道路交通法の一部を改正する法律案」について、交通安全等の観点から多くの問題があると考えており、その点を以下にまとめました。国会においてぜひご議論いただきたく、お願い申し上げる次第です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
1:特定自動運行の許可等について
- 今回の道路交通法改正案は、本質的な思想に誤りがあると考えています。自動運転車が公道を走行することを前提とした場合、先ずは自動運転車が道路交通法を厳格に守るように自動運転車の開発者に要求すべきであり、道路交通法を守れなければ、その走行を禁止するべきです。
そのうえで、自動運転車が現行の道路交通法を守ることが技術的に困難な条項を開発者に申請させ、どうしても道路交通法の方を直さなければならないと考えられる条項のみを抽出し、技術等の専門家に諮り、検討を重ねた上で修正するべきだと考えます。その判断のためには、自動車の技術と道路構造を所管している国交省との緊密な連携が必要と考えます。
また、混在する他の交通手段、歩行者などとの相互干渉、危険防止方法など、新しく発生すると思われる事象を詳しく検討し、道路交通法に追加、修正していくことも必要です。 - 自動運行に関わる道路交通法の改正には、自動運転車の技術基準と認可に関わる国土交通省、技術開発推進に関わる経済産業省、加えて事故責任問題に関わる法務省など関係他省庁との緊密な連携とすり合わせが必要であることは明らかであり、今回の改正案にはそれらが十分に尽くされているか非常に疑問に感じています。
- この改正案は、自動運転車の運行に関し、従来してこなかった、してはならない警察の公共・民間事業への介入と、運営に対しての権限を拡大してしまうことが明白であり、この法律を通すことは、将来への禍根を残すことが憂慮されます。
具体的な条項の問題点を挙げます。
- 第75条の十二で、「特定自動運行を行なおうとする者は、公安委員会の許可を得なければならない。」としており、特定自動運行を行うものの住所氏名と運行計画を提出することを求めています。特に運行計画では、使用車両の要目、運行経路、日時、運送対象までを提出させることとなっており、公安委員会がその審査を行うのは事業運営に対する介入となります。
- 第75条の十三で、自動運行が他の交通に著しく支障を及ぼすおそれがないことを必要条件としていますが、逆に、自動運行と既存他の交通との混在における、他の交通の自動運転に対する妨害行為の禁止などは全く今回の改正案には含まれておらず、極めて中途半端な改正案であると思います。
- 第75条の二十で、自動運行の監視に係わる装置の設備と特定運行主任者の監視義務を求め、同時に特定運行主任者の自動運行車への乗務義務を規定していますが、設備の仕様を決める能力が公安委員会・警察にあるのか、また、特定運行主任者に常時監視を求め、なおかつ特定運行主任者の乗務を義務化するのでは、自動運行の経営的経済的な観点で意味があるのか甚だ疑問です。さらに、ここで定める規定は、現在時点でのある一つの技術と方式を想定したものであり、今後の技術の進展で大きく変わる可能性があるので、現在時点での技術水準を前提に法律で縛ることは馴染まないと考えます。
2:電動キックボード等小型原動機付自転車の走行について
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小型原動機付自転車について、「時速20㎞以下のものは免許不要・16歳未満の運転は禁止・ヘルメット着用は努力義務・走行場所は車道や自転車レーン・ただし最高時速6㎞以下なら自転車走行可の歩道等を通行可」としていますが、次の点が懸念されます。
- 電動キックボードは車輪が小さくてふらつきやすく、自転車に比べて不安定な乗り物です。しかし、電動かつ小型のため他の乗り物の間をすり抜けて先を急ぐ懸念が大きく、地面を蹴ることにより電子的に制御された速度以上の速度を出せる点も問題です。
- 日本は道路幅員が狭い道路が多く、自転車の走行空間自体も極めて不充分な現状です。そこに、免許不要の電動キックボードが加われば、自転車、バイク、自動車との接触事故の増加が懸念されます。日本バス協会もヒアリングにおいて「停留所で乗客が降りる際の接触等の危険、追い抜き等においてバスによる接近回避時の車内事故の発生等を危惧」し、全日本トラック協会も安全運転への影響を危惧しています。
- 時速6㎞以下なら「自転車走行可の歩道」も通行可としていますが、自転車の多くが狭い歩道を違法走行している現状を見れば、走行場所違反、速度違反が横行するリスクは高く、歩行者の安全もさらに脅かされます。
以上の点をふまえ、次の案を提案いたします。
(当会の提案)
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① 電動キックボード等の運転には、運転免許制度を設ける。また、乗り物には国土交通省と協議の上、ナンバープレート装着、スピードメーター装着を義務づけ、安全運転の責任意識を持たせる。
② 走行場所は車道左側とし、追い越し禁止、バス停付近でのすり抜け禁止とする。歩道の走行は認めない。
③ 今後も多様な乗り物が増えていく現実をふまえ、幅員の広い自転車道の整備(車道を削ることも検討)を急ぐ。
④ 原動機付自転車、小型原動機付自転車という名称区分もわかりにくく、自転車という名称自体も誤解を生じさせる。名称区分も明確な基準を設けて再検討する。
3:自動配送ロボット等(遠隔操作型小型車)の走行規制について
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自動配送ロボット等(遠隔操作型小型車)は、「通行場所は歩行者と同じで歩道・路側帯・横断歩道を適用すること」となっていますが、次の点が懸念されます。
- 自動配送ロボットは、最高時速6km、大きさ約120×幅70×高さ120㎝、重量約120kgが標準的大きさとされ、歩行者と衝突した場合の歩行者への衝撃は甚大です。
- 日本の歩道は現状でも非常に狭く、平らでない所も多くあります。操作ミスや歩道のがたつきなどによって配送ロボットが傾いて転倒する危険もあります。
- 歩道は、高齢者や幼児、視力の弱い人、心身障害者、車いすの人やベビーカーも利用します。しかも、自転車の違法走行も絶えません。そこに無人の配送ロボットが走行すれば、混乱も衝突の危険も増します。配送ロボットを慌てて避けようとして転倒する危険や、配送ロボットを避けようと車道に降りて自動車や自転車と接触する危険も増すことが危惧されます。
- 遠隔操作を安全に行うには操作の熟練、通信の安定性が必要ですが、その点が未整備の状態です。
以上の予測される危険をふまえ、走行場所と安全対策の再検討をしていただくことを望みます。
4:改正案全体について
- 日本の道路安全の現状は、交通死者に占める歩行者・自転車利用者の割合が全体の半数以上を占め、先進諸国に比べて非常に高い状態が続いています。その要因の1つは歩行者・自転車の安全な移動空間の乏しさ、自動車運転者の違法走行蔓延状況にあります。その現実を改善することなく、人命の安全より産業活性を優先することには納得がいきません。これ以上の交通死傷者を出さないために、安全第一の対策を望みます。
- 今回のような重要な改正案を国会に提出するならば、パブリック・コメントの手続きは絶対に省いてはならないと考えます。
以上