杉田正明
同じ石油エネルギーを元に、ガソリン車を走らせる場合と電気自動車を走らせる場合とを比較すると、石油の持っているエネルギーの内、人なり貨物なりを運ぶのに有効に使われるエネルギーは、電気自動車の方が2倍から4倍多いというデータがあります。電気自動車の方が総合的なエネルギー効率が高いということです。
ガソリン車を走らせる場合は、原油からガソリンを精製しそれをユーザーに運ぶ過程ではさほどロスが発生しないのですが、ガソリンを燃やし車を動かす過程で廃熱になってしまう部分や機械を動かす際に失われるエネルギーロスが大変大きいそうです。一方電気自動車の方は、原油のエネルギーを電気エネルギーに変換する過程で多くの廃熱が発生しロスが大きいのですが、その後の送電ロスや電気エネルギーを動力に変換する際のロスは機械体系がシンプルなこともあり比較的少ないそうです。そして総合効率が先ほどのように2倍から4倍電気自動車の方が優れているということになるそうです。
このことはCO2削減の観点からみると、ガソリン車を電気自動車に置き換えることはCO2の発生を1/2から1/4減らす効果があるということになります。
それでは電気自動車への転換を政策的に推し進めるべきでしょうか。
人を運ぶ場合、自家用車からトラム・鉄道に転換すると、CO2をトラムで1/6、鉄道で1/9に削減できるというデータがあります。
また貨物を運ぶ場合、営業用貨物自動車から鉄道に転換するとCO2を1/7に削減でき、自家用貨物自動車から鉄道に転換するとCO2を1/50に削減できるというデータもあります。
現在において、CO2削減のためにどのような交通手段を選択すべきかといえば、電気自動車への転換ではなく、トラム・鉄道への転換こそが正解であるといえます。
このように、私たちは、(交通事故や交通弱者等の問題を持ち出すことなく)CO2排出の観点のみからみても、電気自動車への転換を進めるべきではなく、トラム・鉄道への転換を進めるべきだと声を大きくすべきでしょう。
ただし、ここで比較参照しているトラム・鉄道のCO2排出原単位は日本の現状に基づくデータですが、それは利用密度次第で大きく変動しうるものです。トラム・鉄道を新たに計画する場合は十分利用密度が高くなるような都市計画上の措置が必要です。
電気自動車には、加えて、現時点では、①電池の価格が大変高い、しかも②電池の容量が十分でなく航続距離を長くできない、という大きな弱点があります。その結果、ガソリン車に置き換わることには自動的に大きな制約がかかっています。
問題は将来です。将来クルマはどのような位置を占めるでしょうか、占めさせるべきでしょうか。このことはこれからの産業構造のあり方、経済のあり方を大きく左右します。
地球温暖化への対応が進み、脱化石燃料もしくはCO2削減が進むならばクルマからのCO2排出はさしたる問題ではなくなるはずです。
電池の価格は下がり容量もアップするでしょうから、この面からの電気自動車への制約は小さくなるでしょう。
電気自動車とトラム・鉄道の比較選択が問題になると思います。
大量輸送が可能なトラム・鉄道の方がエネルギー効率は勝ると思いますが、発着地および移動時間の選択の自由度が高く同時に荷物が運べる電気自動車の利便性はトラム・鉄道を大きく上回るものと思います。
社会が比較選択する上でのキーポイントは結局、交通弱者の発生を抑止できる交通手段はどちらか、交通事故発生を抑止しうる交通手段はどちらかということになる気がします。後者についてはおそらく今後クルマの技術的な対応が大きく進むと思いますし、また進ませねばいけないと思います。となるともっとも大きなポイントは交通弱者を電気自動車の元で生み出さないですむかという点だろうと思います。電気自動車社会が交通弱者をなくせない・生み出すとすれば、将来の基幹的な交通手段はクルマではなくトラム・鉄道でなければならないということになると考えます。
(2009年10月発行 会報第57号)