みなさんは、政府が5年ごとに交通安全基本計画を定めていることをご存知でしょうか。最初の第一次計画は、交通事故死者が年間2万人を超え、第一次交通戦争と呼ばれた頃の昭和46年度(1971年度)に策定されました。道路交通だけでなく、鉄道、船舶、航空も含めての安全計画です。
現在は、令和3~7年度(2021~2025年度)を対象とする、第11次交通安全基本計画が適用されています。
https://www8.cao.go.jp/koutu/kihon/keikaku11/index.html
今年の夏、内閣府は次の第12次基本計画の参考にするため、「交通事故被害者等の団体」からの意見聴取を、ホームページにも記して実施しています。交通事故被害者等の団体からの意見聴取は、以前から実施されているそうです。
本会は交通事故被害者等だけの団体ではありませんが、会員には交通事故被害者もご遺族もおられますので、内閣府にその旨を伝えて、意見を提出しました。9月には意見聴取会が開かれる予定です。
なお、来年には計画の中間案が公開され、それに対する市民全体からの意見公募と公聴会が開かれると思います。本会では、第7次計画の頃から中間案に対して意見を述べています。
【第12次交通安全基本計画に係る意見聴取へのクルマ社会を問い直す会の意見】
(内閣府の書式に則り、対策の視点と柱を記し、それをふまえて、課題の具体的内容と対策を記しました。)
(1)分野、対策の視点、柱
分野 | 視点 | 柱 |
道路交通 | 1:歩行者、自転車の安全・安心な移動の保障
2:交通事故の詳細な原因分析による多角的な事故防止策の推進 3:自動車の運転のリスクを共有認識できる社会作り |
1:歩行者、自転車の安全を保障する道路交通環境の整備
2:自動車車両の事故防止機能の強化 3:運転免許制度の強化と教育対策 4:交通違反者の取締り・罰則の強化 5:交通死傷事故の第一当事者の行政処分・刑罰の強化 |
(2) 課題の具体的内容及び対策
(課題の具体的内容)
自動車は、人と衝突すれば一瞬で死傷させる破壊力を有しているため、道路を走らせるにはさまざまな安全対策が必要ですが、そこが万全ではないために事故が繰り返されています。
一般道路は歩行者・自転車(交通弱者)の安全を第一とした構造やシステムにすべきですが、現状では多くの場合、道路構造や空間配分、速度、信号システム等の多くは自動車の走行が優先されています。
また、自動車は足の操作1つで暴走する危険をはらんでいますが、操作ミスや違法な運転行為を防ぐ、いわば安全弁となる装置は極めて不充分です。
さらに、運転者が安全運転をするという保障はなく、事故の大半は運転者の不注意や慢心や誤操作によるものです。しかも、日本の社会は車優位意識が根強く、違法運転にも甘く、速度違反やスマホ見ながら運転が横行しています。事故はいつ起きてもおかしくない、まさに道路は無法放任状態です。
日本で歩行者・自転車の犠牲者割合が高いのは、そのような現状の表れでもあります。昨年は交通事故死傷者が増えており、道路の危険は増しています。
第11次交通安全基本計画に記されている「世界一安全な道路交通の実現」を目指すには、道路交通環境、自動車車両の安全性、運転免許制度、違反者取締り、危険運転者の厳罰化等、どの面からも安全を最優先にした対策が必須です。今の交通安全は、子どもなど弱者側への教育指導に比重がおかれていますが、最も重要なのは、自動車は危険物であるという認識とその周知徹底、それをふまえた走行を中心とした使い方の管理と対策です。
以上の観点から、具体的な視点と、解決のための柱を提案させていただきます。ぜひ第12次交通安全基本計画に盛り込んでいただきたく、ご検討をお願い申し上げます。
(対策)
「柱1:歩行者、自転車の安全を保障する道路交通環境の整備」について
歩行者、自転車の安全向上のためには、道路に自動車と分離した移動空間を設けることが第一の対策ですが、充分な空間を設けにくい現状において、自動車の速度抑制も併せて重要な課題だと思います。
2026年9月より、生活道路の法定速度を時速30㎞に定める方針が警察庁より出され、歩行者の事故削減につながる英断と期待しておりますが、さらに一歩、以下のような対策を進めていただきたいと思います。
・規制速度標識のない一般道路は、法定最高速度を時速30㎞とする。市街地の道路も法定最高速度30㎞を原則とする。
・市街地の中でもいわゆる生活道路、通学用道路、教育・保育・コミュニティ関係施設・公園の周辺道路は、歩行者優先空間として、規制速度を時速20㎞以下、歩行者のそばは徐行を義務づける。「ゾーン30」のエリア内にも歩行者優先空間を拡大していく。
・自転車走行空間がない、もしくはあっても車道に線を引いただけの自転車通行帯しかない道路は、規制速度の可能な限りの低減をはかる。
・交差点での右左折車による歩行者等の被害を減らすため、歩車分離信号を増やす。ヒヤリ事故が1件でも起きたら設置を検討する。
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「柱2:自動車車両の事故防止機能の強化」について
自動車の暴走や誤操作、違法な運転操作を防ぐ装置の研究は国内外で進んでいますが、事故を減らすにはそれらの積極的な搭載が急務です。EUの自動車車両安全基準、最新安全技術等も日本で適用し、新車への搭載のほか、後付け可能なものは使用過程車に搭載を義務づけ、車両の安全性能を早急に向上させることが望まれます。
特に高齢者や交通違反検挙者で重大事故発生可能性の高い運転者の運転に関しては、問題となる運転を防ぐ装備を搭載した車に限定し、違反者には運転免許取消等の罰則を設ける、等の対応も必要です。以下は、搭載義務化を急いでいただきたい主な機能です。
・ペダル踏み間違い時加速抑制装置、後付け式ペダル踏み間違い防止装置
・ドライバーの異常の自動検知・自動停止装置
・衝突警報・ブレーキ装置
・ISA(自動速度制御装置)
・側方障害物検知装置
・アルコールインターロック装置
・免許証インターロック装置
・ドライブレコーダー
・eCall(自動緊急通報システム) 等
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「柱3:運転免許制度の強化と教育対策」について
運転免許証は、自動車という危険物を公道で走らせてよいとする許可を都道府県公安委員会が認める、いわば証明書ですが、交付後は当該者の運転技能、資質、法規知識、責任意識、健康状態等についてチェックする機会は、一部の職業運転手以外はほとんどありません。
しかし人間の心身機能は極めて不確実・不安定で、気分や忙しさ、加齢などによっても変化し、それが事故に直結することは、日々の交通事故の現状が如実に物語っています。そうした運転者に起因する事故を減らすためには、次のような対策が強く望まれます。
・運転免許取得のための教習内容のレベルアップ(夜間、雨天時運転、一時停止義務、速度遵守、車間距離の徹底、歩行者・自転車優先の徹底など)
・運転免許取得時の試験と健康診断のレベルアップ(事業用自動車の初任運転者に義務づけているのと同等の適性検査の導入など)
・運転免許更新時にも再試験を導入し、厳しい判定基準を設ける制度の新設。
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柱「4:交通違反者の取締り・罰則の強化」について
EU各国等では速度違反自動取締り装置等を多く設置しており、速度超過が少ない場合も違反とし、かつ違反者に高額の罰金を課すことにより、大きな違反抑制効果を上げているそうです。速度違反が常態化している日本にこそ取締り装置は必須です。また、違反者への通知の自動システム化を導入すれば、多くの違反について取締りから反則金納付書の送付までを自動的に行うことができます。それにより手間も大幅に節約でき、装置を多く設置しても対応できると思われます。
さらに、速度違反だけでなく、信号無視、一時不停止、携帯電話使用などの違反についても、ナンバープレート自動認識装置とAI等を利用した自動取締り装置の活用により、取締りを強化していただきたいです。
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「柱5:交通死傷事故の第一当事者の行政処分・刑罰の強化」について
現在、運転者が交通死傷事故を起こしても大半は過失とみなされ、行政処分も刑事罰も極めて軽く、ほとんどの者は運転も日常生活も事故前と変わることなく継続できます。このような現実は、運転に伴う責任の重さに対する人々の認識を希薄にさせています。
運転に伴う危険を考えれば運転中の不注意や慢心や違法行為は許されざることであり、その事実及び結果の重大性を考慮した行政処分や刑事罰の強化見直しが求められます。適切な行政処分や刑事罰の適用は交通事故の抑止力にもなります。危険運転致死傷罪も、作られた目的と社会常識に沿った適用の見直しが求められます。
以上、よろしくお願いいたします。