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ドライブレコーダー

投稿日:2008年10月23日 更新日:

全国交通事故遺族の会 理事 片瀬邦博

1.ドライブレコーダー開発の経緯

 平成6年8月3日夜に当時19歳の私の長男がバイクで塾から帰る途中交通事故に遭い亡くなりました。片側二車線、直線で明るい交差点での事故でした。赤信号で停止し青信号に変わり発進した直後に真後ろからフル積載の8トンダンプカーに追突されたものです。バイクとダンプカーは直進状態でバイク後部荷台中央にダンプカー前部ナンバープレート中央が追突したものでナンバープレートの塗料がバイク荷台に付着しておりました。加害者の運転手はバイクの存在も認識しておらず、追突したことにもすぐに気づかずそのまま走行し約6メートル程走行後初めて事故に気づき急停止しました。このことは加害者本人も認め警察での事情聴取でも認めております。
 この状況では息子の過失はなかったことになりますが、事故を見たという女性が現れました。この女性はセルビアの日系二世で日本語は全く話せず日本には就業のために来ていたようです。この女性は息子のバイクがダンプカーを追い越して前に出たと証言しました。(女性の証言は通訳もつけず身振り手振りで行われた為警察官による誘導尋問も疑われます。)しかし、事故当時の駐車車両や右折車両などの停車していた車両の位置関係から息子のバイクの入り込むスペースが無かったこと、右折のため停車していた車両や息子の前にいた乗用車などは見ていないなど証言内容に矛盾がありました。一方事故時にダンプカーの真後ろに居て乗用車に乗っていた4人の方はバイクが乗用車の左右を通過していないと証言しました。
 加害者の刑事裁判は結局セルビア人女性の証言が重要視され加害者は罰金刑にしかなりませんでした。またその後の民事裁判でもこの女性の証言が大きく、息子の過失は6割と判断されました。
 私は事故直後から事故の真実が知りたく息子の葬儀直後から事故現場で目撃者探しをするなどをしましたが、残念ながら目撃者が現れませんでした。その時もし偶然誰かが事故をビデオ撮影していたらと思いました。私の民事裁判の折、証拠として事故内容を独自に鑑定してもらうべく工学鑑定を民間の日本交通事故鑑識研究所の大慈弥雅弘氏に依頼し、弁護士事務所で打合せした時に大慈弥さんが「最近は裁判所も中々工学鑑定を評価してくれない、事故を画像で記録するしかない」と話があり、私も事故状況を画像で記録出来ればと思っておりましたので一緒に開発することになりました。
 息子の事故について長々と述べましたが、事故の問題点などお分かり頂きたく述べさせて頂きました。息子の事故よりも複雑な事故も多く、ほとんどの交通事故遺族は何故自分の家族が事故に遭ったのか、どんな事故だったのか真実を知りたいと事故の悲しみに堪えて独自に調査するなど大変な思いをしております。

2.現状の問題点

 交通事故が発生すると通常警察による実況見分が行われ、この実況見分に基づいて実況見分調書が作成されます。この実況見分調書は加害者の刑事裁判や被害者(遺族も含む)と加害者で争われる民事裁判で決定的資料として扱われる重要なものです。
 実況見分は現場に残された削過痕やブレーキ痕、ガラス片や塗料変また被害者の倒れていた位置など物理的事象に基づき事故状況を把握します。この実況見分は物理的証拠に基づくため客観的証拠となりますが、削過痕やガードレール等の衝突痕がはっきりしていても衝突場所を明確に特定することが困難なことが多いため、位置関係が曖昧となることが多々あります。
 さらに実況見分は交通事故の当事者の立会いにより作成されますが、片方の当事者(以後被害者と 呼ぶ )が亡くなった場合はもう一方の当事者(以後加害者と呼ぶ )の みの立会いにより作成されます。従って信号機の色が赤であったのか青であったのか、どの位置で衝突したのか、事故前被害者がどのように動いたのかなど事故状況の解明に重要な事柄が加害者の一方的証言により作成され、所謂「死 人に口なし」の状況が往々にして生じます。また目撃者がいた場合は目撃証言も現場で検証されます。しかし目撃証言は往々にして曖昧なことが多いと言えます。人間はその事柄に注視していない限り近くで起きたことでも意外と記憶に残っていないものです。例えば外出先のレストランで同席となった他人が着ていた服の模様とか髪型などは注視していないと店を出たとたん思い出せなくなることがあります。
 現在の交通事故発生件数 に対する交通事故捜査 警察官の人数が少ないこともあるのだと思いますが、往々にして警察官による過去経験則による判断で調書が作成されることもままあります。少なからぬ遺族が独自の調査に基づく証拠集めをして、刑事裁判とは異なる、被害者の過失が刑事裁判に比べ て極端 に低い逆転判 決を民事裁判で受けていることもこの事を裏づけるものと思います。また最近の自動車はABS(アンチロックブレーキシステム)でブレーキ痕が残りにくくなったり、塗装技術の進歩で塗装も落ちにくいなど事故現場での客観的証拠も少なくなりつつあります。しかし事故捜査は旧態依然です。

3.ドライブレコーダーとは

 ドライブレコーダーは自動車事故の瞬間を画像とデータで記録し、その原因を明確に記録して責任の所在を明らかにする装置です。小型CCDカメラを搭載し自動車の運行中は常時画像を記録し、同時に車のスピードや衝撃の程度などのデータを記録します。Gセンサー(衝撃など一定の運動変化を捉えて電気信号に変換する素子)を内蔵しているため万一の事故や急ハンドル、急ブレーキなどの衝撃を感知して、その衝撃の前12秒と後6秒の計18秒間の画像とデータを記録します。画像は1秒間に5から7コマで記録され専用の解析ソフトで連続画像としてスピードデータなどと共にパソコンで見る事が出来ます。

 15社以上 のメーカーがドライブレコーダーを製造 していますが、仕組み はどこも同じです。また、最近は自動車運行中の連続画像と音声などを一緒に記録するドライブレコーダーも新しく登場して主流になりつつあります。連続記録はメモリーの容量にもよりますが2時間程度記録出来るものが一般的のようで、それを超えると古い記録から順次上書きされて記録されます。つまり今の時刻から2時間前までの記録が常に残っています。この画像は特殊な解析ソフトなどでなくウインドウズのメディアプレイヤーなどで見ることが出来ます。
 ドライブレコーダーは一般的に広角レンズを使用しており運転者が前方を確認する通常視野角の範囲を記録することが出来ます。
 設置場所はルームミラー後方の運転者の視界の妨げにならない場所で、運転者の視線の高さとほぼ同じ位置です。写真は筆者の車の設置状態です。

4.ドライブレコーダーの効果

 自動車事故の瞬間を画像とデータで記録出来るため、被害者、加害者双方にとって客観的証拠となります。遺族にとっても事故の真実を知ることが出来、今までのような真実を追究するための多大な労力やストレスから開放されます。
 記録画像やデータに基づき運転者へ安全教育を行うことにより、交通事故を大幅に減少出来ます。前述のように急ハンドルや急ブレーキなどでも記録が残るため、タクシー会社などで定期的に運転者のドライブレコーダーの記録を解析する事により、その運転者の問題点などが把握でき、適切な指導教育を行うことが出来ます。
 例えば速度違反、信号無視、一時停止不履行などが記録に残っているため、その記録を見ながら運転者を指導することにより、事故発生を大幅に低減することが出来ます。運転者は常に監視されている意識が 働き、安全運転を心がけるようになります。事故低減率は会 社によりバラ ツキがありますが、適切 な教育が行われている会社では、人身事故などの重大事故発生率が50%から70% 低減したとの報告 があり、国土交通 省の実証 試験でも平 均で30%低減したと報告されています。
 写真はドライブレコーダーで記録 された 画像 を切り出したものです。対向車線から乗用車が突然センターラインを越えて来たのが明瞭に記録されています。

1.2秒前

0.2秒前

衝突

 広角 レン ズのため 衝突直前でも距離 があるように見えますが、手前のボンネット部 分と比べ て頂くと 距離 感が分かると思います。
 最近は警視 庁などでも証拠として 活用されており、事故低減効果と合わせて 社会的認知も進んできましたが、価格がまだ高価なことや一般への認知度がまだ低いことなどから、普及率はまだまだです。
 しかし、この写真からも分かるように万一交通事故に遭った場合は自分を守る有効な手 段となりますので積極的に搭載して欲しいものです。

5.結び

 ドライブレコーダーは平成11年に開発を始め平成12年に1号機が完成しました。当初は手作りで大きなものでしたが機能は現在のものとほぼ同じでした。普及機「 WITNESS」 が日本交通事故鑑識研究所から開発・発売されたのが平成15年です。当初東京の練馬交通が全車両に搭載し、事故発生率が70パーセントも低減して一気に注目を浴びました。

1号試作機

 現在 タクシーなどの営業車に13 万台強、一 般車に 2万台強搭載されています。最近はホンダ、トヨタ、ダイハツなどがメーカーオプションとして発売するようになり、国土交通 省もタクシーなどに対し補助 を行い、 東京都 がトラ ックへの搭載に 補助 をするなどの支援策 も行われておりますが、普及 速度 は今ひとつです。
 記録画像やデー タはデ ジタルデー タのため 特殊 な技術が必要ですが改ざんすることも可能です。このためドライブレコーダーをブラックボックス化して、飛行機のフライトレコーダーのように公平な第三者機関が画像解析を行い、速やかに被害者や遺族・加害者に情報を公開することが重要かと思います。価格も約3万円から7万円と比較的高価なこともありこれも普及を妨げる要因かとも思いますが、現在走行中の全国の車に搭載するようなれば5、6千円程度で購入できるようになると思います。
 普及機発売当初から一日も早く全車標準搭載になることを願い普及活動をしておりますが、今後もより一層運動を強化して参ります。

(会報『クルマ社会を問い直す』 第53号(2008年10月))

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