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私のみたヨーロッパ(その1)

投稿日:2006年1月24日 更新日:

私のみたヨーロッパ(その1)
杉田久美子

3月の初めに大学の経済の先生(中国人)と夫と私の3人でオランダ・ドイツ・フランスの都市を旅行しました。3回シリーズでその感想記をお届けします。

アムステルダム中央駅とトラム(路面電車)

スキポール空港から鉄道に乗り換えて、3月には珍しい雪景色の車窓を楽しみながらアムステルダム中央駅に着きました。駅を出ると、すぐ目の前を頻繁に長いトラムが行き交っていました。駅前の道を人々がトラムをやりすごしながら自由に歩いていて、想像以上にトラムと人々が一体的な風景に驚きました。
駅前は右手にタクシースタンドと屋外駐輪場と立体駐輪場がありました。どちらも簡素でしたが、駅からは至近距離でした。真ん前がトラムの電停になっていて、その左手の端にバスの発着場が配置されていました。駅前ロータリーには一般車両は入れませんでした。運河の先の道路を行くと、初めてクルマが走っていました。

チケットキャンセラー

次に駅に着いた数両編成のトラムのいくつものドアがバンと開いて、どっと乗客が降りてくる情景に目を見張りました(写真1)。これを可能にしているのが「チケットキャンセラー」(写真2)です。日本語では「信用乗車方式」と言われているそうです。乗車券や回数券を予め購入しておき、車内のチケットキャンセラー機で日付を印字して終わりです。ですから、切符を買わないでただ乗りしようと思えばできます。しかし、時々、検札があり、見つかればこっぴどく叱られ、かなりの罰金をとられるそうです。

写真1 ドアが開くと、どっと人々が降り、駅に向かう

写真2 チケットキャンセラーで日付を印字する乗客

公共交通は市民の財産(シビルミニマム)

ヨーロッパでは公共交通は市民の財産(シビルミニマム)として、多くの税金が投入されているそうです。公共交通の充実は生活の質を高める重要な要素です。子どもも、若者も、高齢者も、主婦も、会社員も労働者も、クルマがなくても自立的に移動できる交通のモデルがアムステルダムにあると感じました。

旧式の自転車と鉄の鎖

駅前の駐輪場に満杯の自転車と道路のあちこちに駐輪されていた自転車から想像するに、冬でも大いに利用されているようでした。アムステルダム大学の図書館になっている旧東インド会社近くの道はゾーン30(クルマは速度制限30キロ)と自転車専用道があって、雪道を自転車の学生が行き交っていました(写真3)。旧式の自転車も多く、これまた、鍵も旧式で、太くて頑丈な鎖が使われていました。若い女性達がこの旧式の自転車に乗り、鉄の鎖をかけるのですから、驚きました。同行した中国人はオランダの自転車を見て、「ここは技術が停まっている!」」と叫びました。

写真3 アムステルダム大学の図書館として使われている旧東インド会社前のゾーン30の道路

お行儀よく並んだ建物達

駅からホテルまでスーツケースを引きながら、雪景色の通りを歩きました。道路のまん中をトラムの線路が2車線あり、その両脇がそれぞれ1~2車線の車道になっていて、それ程広くない歩道がありました。歩道に沿って4~5階建ての色とりどりの建物が行儀良く並んでいました。体が大きいオランダ人にはそぐわない程にスモールサイズで可愛らしい建物を両側に配して、道路の真ん中を凛としてトラムが走っていました(写真4)。

写真4 両脇の建物を背景に道路の真ん中を凛として走るトラム

「快適都市空間をつくる」

アムステルダムの町の魅力は道路空間(運河も含めて)を最大限生かしていることだと実感しました。ここでは常に道路側に建物の顔が向けられていました。道路空間は永久的な公共空間として、有効に活用すべきという共通認識のもとに建物が造られていると思いました。

トラムと遊覧船に乗って町の景観を楽しむ

次の日は町のはずれまでトラムに乗りました。その路線沿線は1階部分が商業店舗やオフィスになった低層から中層の集合住宅が続きました。次に遊覧船に乗って運河巡りをしました。縦横に走る運河から両脇に立ち並ぶ新旧の建物や運河の橋に停車するトラムを楽しみました。町の中心街で降り、散策し、夜は怪しげな歓楽街にも行きました。
町の賑わいと景観が魅力の町。これを支えているのがコンパクトにまとまって集住する生活様式と、歩きと自転車と公共交通による交通手段の充実だと思いました。運河や道路という公共空間の生かし方もこの町の財産だと思いました。アムステルダムには2泊して、次の宿泊地のドイツのケルンに向かいました。

(会報『クルマ社会を問い直す』 第41号(2005年10月))

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