清水真哉
<生物多様性と道路建設>
生物多様性条約の第十回締約国会議(COP10、国連地球生きもの会議)が、名古屋市で開催されました(10月18日から29日)。この会議の焦点が、遺伝資源の利用に関わる利用する側と提供する国の間の利益配分といったことに当っていたため、専門家でない私は近づき難い印象を持っていました。
しかし会議の最後には、生態系保全の新しい国際目標(愛知ターゲット)も採択されました。2020年までに生物多様性の損失を止めるために、陸域は少なくとも17%、海域は公海を含む少なくとも10%を保護地域として保全するという内容です。
数値で示されると茫洋とした印象を持ちますが、実は我々にも突きつけられた重要な課題であるはずです。生物多様性というのはあくまでも一つの指標であり、結局は我々の周りの環境を守っていくということに行き着くはずです。絶滅の危険にされされているのはパンダやオランウータンやアムールトラだけではなく、我々の身近な自然の中の生き物でもあるのです。私のような中年の人間でも子供の頃には回りにいたはずの生物が、いなくなりつつあると報道で聞かされます。東京ではゲンゴロウが絶滅し、トンボなどでもある種のものは絶滅しそうと聞いています。
人口減少時代に入った今、マンション一つ、家一軒建てるのにも、もはや里山の類をつぶして作るようなことは決してあってはならないはずです。既存の住宅ストックの中での建て替え以外もう許されてはなりません。
政府は里山イニシアチブなどと、諸外国に対しては聞こえの良いもっともらしいことを口にしながら、足元の自然を守ることには全然本気ではないようです。
まさにこの国際会議の最中に、名古屋市内で最後の里山と呼ばれる平針(ひらばり)里山の開発工事が始まりました。愛知県内では他に、トヨタの新テストコース建設のために、旧下山村(豊田市)と旧額田町(岡崎市)にまたがる里山660ヘクタールが大規模開発される計画があるそうです。
また山口県では中国電力が上関町田ノ浦の森林を伐採し、海面を埋め立てて原子力発電所を建設することを計画していますが、まさにこのCOP10の最中に埋め立て工事を強行しようとして、漁民の強い抵抗を受けました。
沖縄では干潟の埋め立てという前時代的なことをリゾート開発を目的に行う沖縄市の計画に、民主党の前原(前)沖縄担当相は承認を与えました(泡瀬干潟)。
そして私たちクルマ社会を問い直す会にとっては、なにより道路建設です。
今年度の総会では首都圏中央連絡自動車道(圏央道)建設で高尾山の貴重な生態系が破壊されつつある問題を取り上げましたが、その他にも日本全国で数え切れないほどの道路が計画され、建設が続けられている訳です。それらの工事のなかで、自然にいささかの毀損も与えずに行われるものがあるのでしょうか。
筆者の身近なところでは、東京外郭環状道路の三郷-市川間は、緑もまだ多く残る住宅地の真ん中を貫いて作られます。第二東名は現在の東名よりも山に近いところを走るわけですから、無数の自然を破壊して進んで行くことでしょう。
道路は需要の点から見ても、もはや新しく建設するような時代ではないはずですが、日本で開催された生物多様性条約の会議を機に、自然保護という面からも道路建設にもっと厳しい目を注いでいきたいものと思います。
(2010年12月発行 会報第62号)