会の活動 提言・要望・意見表明

2013/1/18「交通弱者を守る自動車運転教育についての要望」を提出

投稿日:2013年1月18日 更新日:

クルマ社会を問い直す会は、社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会、一般社団法人 全国届出自動車教習所協会、国家公安委員会、警察庁、内閣府に対し
「交通弱者を守る自動車運転教育についての要望」を提出しました。(2013/1/18)

交通弱者を守る自動車運転教育についての要望

国家公安委員会 委員長様
警察庁 長官様・交通局局長様
内閣府 共生社会政策担当 大臣様・交通安全政策担当官様
社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会会長様
一般社団法人 全国届出自動車教習所協会会長様

2013年1月17日

クルマ社会を問い直す会

交通弱者を守る自動車運転教育についての要望

 前略、私どもは、交通事故をはじめクルマ社会のもたらす弊害を減らし、安全で暮らしやすい社会になることを願って活動している市民グループです。

 わが国では、歩行者や自転車利用者の交通事故被害者が多く、死者のうち半数以上を占めています。道路上の現状を見ると、ドライバーの多くに交通弱者の安全を優先する意識が薄いことや、運転自体に問題が少なくないことも一因として無視できません。
 第9次交通安全基本計画では、交通事故24時間死者を3000人以下とすることを目標とし、また、第8次計画から引き続いて「人優先の交通安全思想」を基本理念として掲げ、「あらゆる施策を推進する」としています。
 ドライバー養成、免許交付、交通安全対策に関わる関係機関におかれましては、特に対歩行者・自転車事故防止の観点から、以下のことにもお取り組みいただきたく、前向きなご検討をお願いいたします。

(1~7は、免許更新者、交通違反者も対象に含めての要望です。)

1:自動車を運転することの責任の重さの啓発
自動車教習所の教習テキストの最初に「くるま社会人としてのモラルと責任」が記されています。ここに、「自動車は免許がなければ動かせないほどの危険物であり、運転は他者の命と人生に対する責任を伴うものである」こと、また、「自動車走行量と死傷者数はほぼ連動しており(資料1)、車の安易な利用は控えるべきこと」を入れてください。

2:交通弱者の現状を知り、注意意識を高める教育
 交通弱者保護・優先のルールや注意は教習テキストに記されていますが、現実は、歩行者が横断 歩道を横断しようとしているときに止まる車もスピードを落とす車もほとんどなく、通学路や 住宅街 の道を 抜け道として疾走する車が多いなど、ルール無視の走行が常態化し、事故も頻発しています。意識改善のため、次のような取り組みをお願いいたします。

2ー1:「日本は交通事故死者のうち歩行者と自転車の占める割合が半数を超え、欧米諸国に比べて特に多い(資料 2)」、「歩行者は事故に遭った場合の 致死率が極めて 高い(資料3)」、「後遺障 害を 負う人の 率も高い(資料 4)」ことなどをテキストに盛り込み、交通弱者のおかれている現状を伝えてください。

2ー2:歩行者の中でも子どもや高齢 者、目や聴覚 の不自由な人、車いすの人などには特段の注意が 必要ですが、文字では理解し得ない点も多いので、「疑似 体験実 習」*1をご検討ください。

*1子どもの場合は、幼児視界体験メガネ(本田技研工業発行 冊子「トラフィックパートナー」付 録)をつけて身を低くして歩く、高齢者の場合は ゴーグル、耳栓、足に重りなどをつけて歩く(福祉・介護職授業で実施されている方法)など。

2ー3:通 学路の通 学時間 帯の走行は、本来すべての自動車が控えるべきですが、せめて教習車だけでも他の車の模範 として通学時間 帯の通 学路は通らないよう、全国の自動車教習所へ徹底指導をお願いいたします。

3:スピード抑制の指導
 車の 速度 と衝撃力 の関係について、教習テキストには、車が壁に衝突 した 場合の 例が記されていますが、歩行者等へ の衝撃力 を認識できるよう、車の速度 と歩行者の致死率、障害度の関係を 伝えるグラフ(資料 5・6)を入れてください。この資料から、「車の走行速度 が時 速30kmを超えると歩行者の致死率が急激 に高くなること、また、時速20㎞以下でも重傷を負わせる 割合は50%を超えること」を伝え、歩行者と交わる可能性 のある道路においては、常にスピード抑制を心がけるよう、指導をお願いいたします。
 また、「歩行者死亡事故は道路横断中 が多い(資料7)」、「運転者の不注 意が歩行者死亡事故を招く(資料8)」こともテキストに加え、慎重運転を強く指導してください。

4:「ゾーン30」などの生活圏安全対策についての教育
 警察庁では、住宅街 などの交通事故(特に歩行者・自転車事故)を減らすため、国土交通 省と連 携して 平成8年から コミュニティーゾーン対策に取り組み、最近は、「 ゾーン30」対策を、2016年度末 までに全国3000か所に 整備 の方針 として 力を入れておられます。しかし、ドライバーや住民の認知度が低く、理解を得にくい現実があります。
 こうした対策はドライバーにこそ周知 が必要です。ぜひ 教習テキストに加え、理 解を深める教育をお願いします。スピード 抑制 のためのハン プ、クランク、 ソフ ト分離 、道路 中央線 の廃止などの物理的対策の意味、走行時の注意も 伝えてください(ハン プを、 速度 を落とさ ずに通り越す車が多いため、振動・騒音源となってしまうという残念な実態も耳にします)。

5:「歩車分離式信号」についての教育
 警察庁では、歩車分離式信号の増設 にも 力を入れ、平成23年4月にも 整備 推進の通達を出しておられますが、教習テキストには記載されていません。これもドライバーに意義がよく理 解され ず、それが 普及 の妨げになっている地域 もある ようです。歩車分離式信号は、歩行者が横断時の 右左折 車に よる事故を防ぐのに 有効 であり、また、自動車同士 の事故を減らす効果 も確認されており、方式 によって 渋滞解消になることも報告 されています(資料 9)。 そうした意義や分離信号の仕組みを教習テキストに記載して、 正しい理 解と運用について指導をお願いします。

6:ドライブレコーダーの搭載の指 導
 ドライ ブレコ ーダーは、安全運転意識の向上、自分の運転行動の反省、事故発生時の実態解明などに 役立ち、事故削減につながるものとして、すべての車に有用です。搭載 の意 義を教習テキストに記載し、伝えてください。

7:自転車の走行ルールの教育
自転車は道路環境 の問題などから走り方に混乱 が見られ、事故も社会問題化していますが、軽車両であるのに正しい走り方を体 系的 に学ぶ 機会はほとんどなく、自動車運転免許の保有 者でも自転車での走行距離 あたりの事故率は非保有 者と 同じと 報告 されています*2。自転車の走行ルールは自転車に乗る場合はもとより、車を運転する際にも 知っておくべきことです。そこで、自動車教習所の教官を自転車走行ルールも教えられるよう養成し、教習の受講 者に自転車走行ルールの教育も行なうよう、お願いいたします。

*2「第15回交通事故調査・分析研究発表会」2012.10.18資料(交通事故総合分析センター)

8:再教育・再試験の制度化、など
 運転免許の教習は現代人の ニーズに合わせてスピードプランなども 設けられ、また、免許更新時の 講習も 楽に通 過できますが、免許制度 は便利な社会生活を応援 するためにあるのではなく、事故防止のブレ ーキとして存在 するものです。真のブレ ーキとすべく、国の関係機関には次の対策も要望いたします。

8ー1:年間の道路交通法違反取締り件数は1000万件超、事故は70万件超の実態 を見ると、ドライバーの定期的 な再教育・ 再試験 の制度化 が望まれます。免許更新時と交通違反発覚時を再教育・ 再試験 の機会として、対象者全員に免許取得時より高度 な技能 ・資 質の教育と再試験 の義務づ けを要望いたします。現在、免許取得後 1年以内の違反者を対象とした「初心運転者 期間制度 」が 設けられていますが、死亡事故の95%以上は免許取得後1年以上の者が起こしており、課題は全ドライバーに存在します。

8ー2:高齢 者講習は、現行では認知 機能や運転 技能 に多少 低下が見られても免許は交付されますが、合否基準を設けた 試験制度を設けてください。高齢 ドライバーは他のドライバーに比べて運転操作不適が1.8倍と多く、事故の中でも死 亡率 の高いペダ ル踏み間違い事故率も高いこと、認知症ドライバーの事故率が高いことなども報告されています*3、4、5

*3「平成23年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について」警察庁交通局
*4『イタルダ・インフォメーション』No.86.2010.10.(交通事故総合分析センター)
*5「認知症 患者と自動車運転‐臨床 における課題‐」池田学(第19回日本交通医学工学研究会学術総会シンポジウム抄録2010.)

8ー3:てんかん、睡眠時無 呼吸 症候群、心不全、低血糖など、病気 が原因の重大事故防止のため、免許取得前には運転に関連する健康 状態の診断を受けるよう強く指 導してください。将来的には、免許取得前、免許更新時に健康診断書の提出義務づけを要望いたします。

8ー4:高齢 者や 病気 ・障害を 持つ人が自分で車を運転しなくても移動に 困らない ような 支援も、事故防止の重要な対策です。事故削減の観点から公共交通や福祉 交通の 拡充 を国 土交通 省など関係省庁に働きかけ、ドライバーへも啓蒙するなど、協力してください。

なお、当会では2011年9月に、「自動車運転免許取得・更新時の、医学的 ・技能的 ・資 質的 運転適性 検査の義務化 を求める意見書」を、国家公安委員長、警察庁長官、内閣府政策統括 官各位宛提出しております。8の要望とも関連しています。
http://www.toinaosu.org/katudo/menkyo.htm
併せてのご検討をお願いいたします。

以上

参考資料

資料1 車の走行量と死傷者はほぼ連動
(道路交通事故死傷者数、自動車走行キロの推移)

資料2 日本は歩行者と自転車利用者の事故死者割合が飛び抜けて多い
(主な欧米諸国の状態別交通事故死者数の構成率・2010 年)

資料3 歩行者は交通事故に遭った場合の致死率がきわめて高い
(交通事故の状態別致死率の推移)

資料4 歩行者被害者は後遺障害を負う率も高い
(被害者のうち後遺障害を負う率)

資料5 歩行者の衝突時致死率は時速30㎞を超えると急激に上がる
(衝突時の自動車の走行速度と歩行者が致命傷となる確率)

資料6 低速走行でも歩行者が負傷する率は高い
(歩行者死傷事故における車の危険認知速度の累積百分率)

資料7 歩行者死亡事故は道路横断中が約7割と多い
(歩行者死亡事故の歩行者の行動別割合/平成 21 年データ)

資料8 運転者の不注意が歩行者死亡事故を招く
(運転者の過失による歩行者死亡事故の事故発生要因)

資料9:歩車分離式信号の事故削減、渋滞改善効果
*1、2とも長野県のデータ(長野県警察本部交通部交通規制課)

-会の活動, 提言・要望・意見表明

Copyright© クルマ社会を問い直す会 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.