杉田正明
本会報が皆さんのお手元に届けられる頃にはサミットは終わっているはずですが、執筆時の5月末時点で私の考えるところを述べます。
クルマのもたらす大きな弊害の1つが地球温暖化・気候変動です。CO2の運輸部門からの排出量はわが国では2割を占めます。
1.温暖化防止の基本について
世界全体で2050年までに温暖化ガスの排出量を半分に減らす必要があります。(ただしこれについては、「それでは間に合わない、2020年までに8割削減すべきだ」というレスターブラウンのような見解もあります。)
各国に許容できる排出量を割り当てねば成りません。
その割り当ては1人あたり排出量を2050年で全世界同一となるよう割り当てるべきと思います(過去の排出を考慮し途上国に対して割り増しすることは良いと思いますが、原則は同一の考えで行くべきと思います)。
ただしここで人口は先進国については現在人口にすべきと思います。人口が増えつつある発展途上国については将来の時点(例えば2030年、これは交渉で決めるべきと思います)の予測人口とすべきと思います。
従って、1990年(もしくは現在)の世界の温暖化ガス排出量(化石燃料起源のもの)×0.5÷上記の世界人口×各国の人口(上記のもの)=当該国に対して2050年の時点で許容される排出量(排出枠)、となります。
各国はこの排出限度を守るために、人口も政策対象とすべきです。自国の1人あたり排出量の減少を比較的緩やかにし、1人あたりで“豊に”暮らしたかったら、人口を減らすことに熱心に取り組むべきです。
2050年における排出量半減を実現するために、各国は化石燃料の輸入と国内向け生産に対して数量制限をすべきです。
それには輸入業者および生産業者に対してのみ、許容された排出量を限度に温暖化ガス排出権をオークションで販売するべきです。排出権の裏付けのない輸入と生産は出来ない仕組みとすべきです。
(これはいわゆる“川上割り当て”の考え方です。排出削減の効果が確実です。“川下割り当て”に比べ事務手続きが少なく、また割り当てをめぐる公平性を確保しやすいものです。)
こうした制度のもとでは、貧しいものほど、化石燃料の価格上昇そしてそれが波及する全体的な価格上昇に伴うダメージが大きいはずですので、所得再配分政策を並行して強力に実施すべきです。
オークションで販売される温暖化ガス排出権の金額は相当大きな金額になると見込まれます。これはいわば環境税とか炭素税と言われるものの1つのあり方です。この収入は増税が論議されている消費税に替わる財源として位置づけるべきです。そして福祉等所得再配分に回していくべきです。
自動車の社会的費用課税との関係では、2重課税を回避するため、社会的費用の構成の中で温暖化・気候変動の部分を控除すべきです。
化石燃料起源のエネルギーは上記の制度実施によって高価格になります。これによって再生可能自然エネルギーの高コスト状態は相対的に改善され、競争力を増し、民間事業として成り立つものとなっていくでしょう。
2.バイオ燃料について
現在のやり方でのバイオ燃料生産には様々な問題があることが明らかになっています。次の通りです。
食料生産と競合し、食料生産を減らし食料価格の高騰の要因となっている。特に貧しい食料輸入国への影響が大きい。
原生林あるいは森林を農地あるいはプランテーションに開発することにより、森が貯留してきた炭素を大気中に放出することになっている。典型的な例としては、熱帯の泥炭地におけるパームオイル(バイオジーゼルの原料)の生産に伴い、排水路を引くことにより泥炭地の乾燥化が進み、蓄積されてきた有機物の分解=CO2の大量放出が進行している。
原生林あるいは森林を農地あるいはプランテーションに開発することにより、先住民の生活様式を維持不能に陥れている。
原生林あるいは森林を農地あるいはプランテーションに開発することにより、生物の多様性を大きく損なってきている。
バイオ燃料生産のために現在は化石燃料が使われているが、削減される化石燃料に対して消費される化石燃料が相当大きく、場合によっては生産によって削減される量を上回ってしまう場合がある。
バイオ燃料生産のために投入されるエネルギーとそこで産出されるエネルギーとを対比したとき、投入されるエネルギーが産出されるエネルギーを上回ってしまう場合もある。
バイオ燃料の生産コストが高い場合が多い。
以上のような問題が明らかとなっています。このためとりあえずバイオ燃料の生産推進については当面見合わせようという動きも出ています。
私は当面見合わせて、バイオ燃料生産が意味のあるものとなるよう、その進め方について基準やルールを決めることは大変結構だと思います。
それはそれとして、今後の人類にとってバイオマスの利用、バイオ燃料の生産は持続可能な生活の確立のために必須であると考えます。なぜなら化石燃料に替わる持続可能なエネルギーを調達しなくてはならないからです。
原子力へシフトすべきではありません。原発は危険です。放射性廃棄物の管理を仕切れません。核兵器の分散をもたらします。原発メンテのために多くの人が被爆しています。
CO2の地中貯留は長期的に安定かどうか分かりません。
やはり、降り注ぐ太陽の恵みの範囲で生活を構成することが持続可能な道だと思います。
私は、バイオ燃料生産のために化石燃料を使わないで再生可能な自然エネルギーを使い、化学肥料を使わず有機肥料を使う体系を構築すべきと思います。それを前提に、エネルギー収支の相対的に優れた方法、コストの相対的に低い方法を追求すべきと思います。
肝心なことは、地球温暖化のコスト・被害をどう見るかです。それがたいしたことないならば、バイオ燃料の高コストは無視できず推進すべきでないと言うことになる可能性があります。地球温暖化のコスト・被害は正直よくわかりません。しかし、これまでの予測を見ると、恐ろしい、被害甚大と感じます。それに比べればバイオ燃料の高コストなど問題ではないと思います。
私の子供の頃、よく山に入ってたきぎを集めたり、薪を割ったり、木炭を使ったりしました。手間がかかりました。これからは便利な生活、手間のかからない生活は諦めて行かざるを得ないのだと思います。諦めない限り、高コストを甘受しない限り、温暖化は抑制できないと思います。
尚、以上の議論では、クルマ利用について、その削減を進めるべきですが、クルマは貨物輸送、救急・緊急輸送、身障者の交通、鉄道・軌道のないところでの交通、これらのために必要であり、そのためにバイオ油が必要になると言うことを想定しております。
(会報『クルマ社会を問い直す』 第52号(2008年7月))