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最近思うこと(1)

投稿日:2024年9月16日 更新日:

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杉田久美子

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現在、70代半ばの会員です。40代後半に会員になったと記憶しています。弟が喘息患者や交通事故被害者支援の活動をしていて、会を知りました。旧国鉄のストが繰り返される中で、「それ行けトラック輸送だ」と物流の流れが鉄道貨物からトラック輸送に変わったという話が頭に残っています。その頃から日本は経済成長へまっしぐら。森林、田畑が壊されて、新しい道路ができ、それによって、郊外へのスプロール化が進み、更に車は必要不可欠なアイテムと煽られて、どんどん生産され、渋滞解消を理由に更にバイパス道路を造り、地域の生活を支えた中心市街地が寂れ、新しいロードサイドには無秩序に店舗や住宅ができ、アグリーな景観になっていくのを怒っていました。

その陰でかけがえのないたくさんの命が車に轢き殺されたり、一生続く後遺症に追い込まれたりしている事を知りました。更に、子ども期に必要とされる身近な生育環境、子ども達が自然に触れたり、飛び回って遊ぶ経験が失われつつあることを危惧する方のお話も聞いたりしました。

道は市民の生活の共有の空間(場所)であり、その空間は子どもの情緒と身体の発達を育んできた事が忘れ去られていると感じていました。そんな折りに、6月12日の日経新聞春秋欄で、「道は誰のものなのか」という民俗学者宮本常一さんの言葉を見つけて、会の先達たちの活動と自分のあの頃の思いが蘇ったのでした。

①「道はだれのものなのか」  ~札幌は会発足の発祥地~

新しい会員の方は札幌市で開催されていた「道はだれのもの?写真展」をご存じないかも知れません。私も札幌市の写真展は知りません。しかし、そのテーマで会が作った複数のパネルを会のイベントで度々展示していたことは知っています。危険で騒音や排気ガスがひどい道路や狭くて危険な歩道などの他に、対照的な項目として、道路や路地で遊ぶ昭和前半期の子ども達、ヨーロッパの安全で安心な歩道、ボンエルフ(人とクルマの共存する生活道路)やゆったりとした自転車専用道の写真がパネルに貼ってありました。

今年の総会後の講演会で宮田浩介氏から、ヨーロッパ自転車先進国の事例と自転車専用レーンの評価基準などのお話を聞きました(会報116号に報告があります。)。子どもと親、友達同士が並んでおしゃべりしながら走行できるかが評価基準の中にあり、実際にそれができる専用ゾーンがあるなんて、そんなことを望んでよいなんて……。日本の法律では車道の端っこを縦一列に並んで走らなくてはいけません。「自転車は車道の端っこを遠慮しながら、絶対拡がらないで縦一列に走らなくてはならない」という常識が私の中で崩れたのです。

最近やっと日本の自転車専用レーンは少しずつ設置されるようになりました。私の実家のある愛知県豊橋市も駅近くの道路の一部に突如、自転車専用レーンができました。私の住む松戸市の新松戸駅西口周辺にもかなり立派な自転車専用レーンができ、歩行者も自転車走行者も安心できる空間のシェアリング(分け合い)ができています。

そこで思い出したのは会の発足何年か後に札幌市で会の団体会員さん達が自転車専用レーンを求めて社会実験をされたことです。札幌市は会の発祥の地と言ってよい場所です。行き過ぎたクルマ依存社会を問い直し、歩行者が命の危険に脅かされないで安全に歩くことができることと同時に、自転車を優れた移動手段と考え(通学の手段でもありますね)、多発する自転車走行中の事故を減らすために、自転車の走行空間を主張する活動は先進的でした。まだまだですが、やっとここまできました。少しも変わらないと怒り、嘆くことは尤もですが、会の方向性と視点に誇りを持ち、総会でどなたかがおっしゃっていたように、「思いを共感しあえる」会の存続を応援していきたいと思います。

②歩道のデザイン   ~通行帯と施設帯という考え方~

その「道はだれのものなのか」の投げかけを通して思い出したことが他にもあります。当会の会員である津田美知子氏が以前に総会での講演会で話されたことです。氏の著書「マイナスのデザイン」と「通行帯のデザイン」は建築士としての専門性と地道な実地活動調査で書かれた、かなり厚みのある本です。車椅子の方や視覚障害の方と一緒に実際に歩いて調査をされ、歩道の素材の問題など様々な指摘と提案をされています。(当会会報62号63号に津田美知子氏の寄稿原稿が掲載されています。)

私は何より、歩道の空間デザインの基本原則、「通行帯」と「施設帯」という言葉に合点したのです。(近年の夏の暑さを経験すると、「植樹帯」があればなお良いですね。)

ずっと以前になりますが、私は埼玉県草加市の獨協大学前駅の東口商店街を通って職場に行っていましたが、その商店街の歩道は道路関係の施設、街路樹、商店会の善意の花壇、ポスト、店舗前の自転車置き場、宣伝の旗などがごちゃごちゃと配置されていました。それらを氏が話された原則で整理整頓、誘導すれば、どんなに歩きやすく、見通しと景観が良くなるのにと思っていました。一度は商店会の方に意見を伝えたこともあったと思います。ところが一昨年か、機会があって行きましたら、この原則に則ったかのように、花壇がポストや電柱、街路樹などの「施設帯」に一直線に収められ、歩行者の為の「通行帯」空間が真っ直ぐに確保されていたのです。

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